獣人アイスクリーム 獣人だらけの世界で人間のボクがとろとろにされちゃう話

谷村にじゅうえん

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39,ぱぴこ

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 昼休憩。類は社屋の屋上へ続く階段を昇っていた。

 屋上からの眺めは抜群だが、日当たりがよすぎる上に日差しをさえぎるものが何もないせいで、そこを利用しようという者はあまりいない。
 だからこそ類は、その場所が気に入っていたのだが……。

(屋上、久しぶりかも)

 最近はデスクワークをしながら食べたり、ランチミーティングになったりで、屋上でゆっくり食事をする機会もなくなっていた。
 要は忙しかったということだ。

 階段を昇りきった類は少し歪んだドアを押し、屋上へ出る。

「……あ」

 誰もいないかと思ったら、先客がいた。

「冬夜?」

 ベンチに座る背中を見つけ、類はそちらに歩み寄っていった。

「よお、類っち久しぶり!」

 彼もふわふわと手招きする。

「ここでお昼?」
「んにゃ。昼は営業先で食ってきて、アイス食べようかと」

 確かに彼の手には、コンビニかどこかで買ってきたんだろう、他社のアイスが握られていた。

「パピコ、類っちに半分やる」
「ありがと」

 勢いよく食べ口を切り、中身がこぼれそうになったふたの方に吸い付く。
 横を見ると、冬夜も同じ仕草をしていた。

「ふふ」

 目が合って、一緒に笑った。
 ふたの中身を片付けて、本体の方もこぼれる心配がなくなるまで減らしてから、冬夜が口を開く。

「実はさ、オイラここで類っちに会えないかなと思って来たんだ」
「え……?」
「最近類っち、社内のみんなに囲まれてばっかりだっただろ? だから、独り占めできるチャンスを狙ってた」

 いたずらな笑顔。でもきっと、冬夜は寂しかったんだと類は気づく。
 それからぎゅっとハグされた。

「あーーー、類っちの匂い!」

 アイスを持った手が、首の後ろに当たってひやっとする。

「ひゃ!」

 さらに冷たい舌で、首筋をぺろぺろ舐められた。

「冬夜、冷たいしくすぐったいって!」
「すぐに熱くなる!」

 宣言通り、彼の舌は肌にぶつかるたび、熱を取り戻していく。

「でもパピコ、溶けちゃうよ?」
「俺はパピコより類っちが食べたい!」

 その言葉に彼のもどかしい思いがこもって聞こえて、類は内心動揺した。

「冬夜、ぼくたち友達だよね?」
「うん、お腹見せ合う仲な」

 抱き合ったまま、冬夜の片手が類のシャツのすそをめくってくる。

「え、そうだっけ?」

 腹部の柔らかい素肌に手のひらが擦れた。

(あ……、冬夜の匂い……)

 類は今さらそれを意識する。
 そして気づいた。

「冬夜、もしかして発情……してる?」
「何言ってんだー! 俺が類っちとくっついて、発情しなかったことなんかない!」
「えっ!?」
「チ○コせつない」
「いや、そんなこと言われても……! ちょっと、待って、え……?」

 体を離すと、泣きそうな顔の冬夜がいる。

「と、とりあえずパピコ!」

 類は動揺の中、にぎっていたパピコの中身を勢いよく吸い上げた。
 涙目の冬夜もそれに倣う。
 それから甘えた声で言った。

「今夜、行ってもいい? 類っちの部屋」
「え、待って? それはなんかある感じに聞こえる……」
「なんかって?」
「つまりその……、ラブシーンてきな……」
「あ、いいなあ、それ! オイラ大歓迎!」

 泣いているのかと思ったら、今度は白い歯を見せて笑っている。

「いやでも……ぼくたち友達だし!」
「友達でラブシーンはダメなのか?」
「うーん、それは……」

 この獣人の街ではどうなんだろう。
 少なくとも類としては、あんまりよくないというか、話がややこしくなりそうで困る。

「ダメだよ」

(というかきっと、冬夜と密室でふたりきりになったらダメだ! 密室じゃなくてもこんな感じだし)

 冬夜の両手が伸びてきて、類の腹部を探りはじめた。
 食べかけのパピコは、器用に前歯で押さえて持っている。
 類は腰をずらして彼から距離を取った。

「あっ! なんで逃げる」
「だって!」
「わかった。エッチなこととかしない」
「本当に?」
「だから今夜、部屋行ってもいいよな?」
「えええ……!?」

 これは、信用していいのかどうか……。
 まるっと信用してしまうのは、きっと無防備すぎるだろう。それに帝に怒られる。
 ところが冬夜が勝手に話を進めた。

「類っちの部屋、301号室だったよな!?」
「え、何で知ってるの?」

 いきなり言われて驚いた。

「オイラも社員寮だからさ。けどなるほど、やっぱあの部屋か!」
「……!?」
「だってほら、類っちは社長のお孫さんだろ? 一番広い部屋使ってると思ってさ」

 どうも類は、冬夜からカマをかけられたらしい。

「じゃあ、今夜遊びに行くな~!」

 彼は満足そうに笑って席を立った。

「え、行っちゃうの?」
「類っちにノーって言われる前に逃げる!」

 それからヒラヒラと手を振って屋上のドアを開ける。

「え、冬夜!?」
「あ、昼メシ食わねえと時間なくなるぞー?」

(そうだった!)

 横に置いていた弁当を見た一瞬で、冬夜の姿は見えなくなってしまい……。

(うわあ、相変わらず逃げ足速いよなあ。というか冬夜ってズル賢いよね? さっきの涙も演技なんじゃ……?)

 類は呆気に取られ、彼の消えていったドアを見つめる。
 今夜、どうなるのか……。
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