獣人アイスクリーム 獣人だらけの世界で人間のボクがとろとろにされちゃう話

谷村にじゅうえん

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32,結束バンド

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 プロジェクターがホワイトボードに、東京にある個人オフィスを映しだした。

(じいちゃんだ)

 類の祖父であり、ホワイトベアークリームの社長である白石正太郎はすでに七十代。普通なら経営から退いてもいい年頃だが、風格漂うその姿は老いを感じさせない。
 彼は画面越しにこちらを見て、目尻に皺を寄せ微笑みの形を作った。

「社長、そちらはいかがですか?」

 帝がカメラ越しに画面の向こうへ話しかける。
 こちらの様子も向こうから見えているみたいだ。

『準備はバッチリだよ。帝くん、進行よろしく』

(あっ)

 末席にいる類は祖父と目が合った気がしてドキリとする。
 けれどもゆったりと座った正太郎に、類を気にするそぶりはなかった。社長も帝も、同じテーブルにいる虎牙さえも、類の知らない顔をしてみえる。

(ぼく、本当にここにいていいのかな?)

 緊張と不安を感じた。

「みなさん、お集まりいただきありがとうございます。早速ですが、各部門からの報告から――」

 帝の言葉で会議がスタートする。

 営業部からは、先月までにおこなったキャンペーンの報告と、最近の売れ行きについて。例年と比べ、目立った変化はないらしい。
 生産管理の方ではこれから冬期に向けて、在庫を減らす方向での生産調整に入るとのことだった。
 総務からは採用と社内の設備管理について少し。
 景気のいい話は何もない。

 虎牙の開発部からはベアマンバーの季節商品について、これから練り直すということだった。

(あれ、この前のバナナヨーグルト味は?)

 話が読めない中、会話に耳を傾けていると、それが社内の試食会で好評を得られなかったことがわかる。

(なんで? あれは美味しかったのに)

 類の頭の中にはハテナマークが広がった。

 会議のスタートから一時間がたち、タイムキーパーをしていた帝が5分休憩を宣言した。
 画面越しの社長が一旦席を立ち、こちらの会議テーブルの空気も緩む。

「バナナヨーグルト味、なんでダメだったんですか? 美味しかったのに」

 類は隣にいる虎牙をつつき、会議中ずっと疑問に思っていたことを口にした。
 虎牙が椅子の上で姿勢を崩しながら教える。

「味についてはそこそこ評価が高かったんだが、ベアマンバーのカラーに合わないってことで却下された」
「カラーって?」
「要は、バナナヨーグルトじゃ子ども受けしないっていう話だな」
「そんな……。美味しくできたのにもったいない……」

 美味しければいいというわけじゃない。類はその現実に頭を抱えた。
 虎牙も心なしか肩を落としてみえる。

「じゃあどんなのがいいんでしょう?」
「もう何年もやってるからさ。ネタ切れっていうか、子どもの好きそうな味は出し尽くしたってのが正直なところだな」

 過去に販売したフレーバーの一覧表を虎牙が出す。

「“コーラ味”に“レモン&コーラ味”、それから“ビッグバンコーラ味”……。なるほど、ネタ切れ……」
「勢いだけでそこそこ売れたけどな、“ビッグバンコーラ味”」

 彼は白い歯をちらりと見せて笑った。

「だったらいっそ“ブラックホール味”とか“ナントカ座流星群味”とか、そっち方面に振っちゃうのは? 子ども、好きそうだし」

 虎牙が類を見つめて押し黙る。

「あ……すみません、変なこと言って……」

 会議テーブルにいた他の面々も、なんともいえない顔をして類を見ていた。

(うう、余計なこと言うんじゃなかった……)

「あー……あの、帝さんぼく、そろそろ仕事に戻っていいですか?」

 類が居たたまれずに腰を上げると、

「いやいや、待てよ類!」

 隣にいた虎牙から腕を引っ張られる。

「そういうアイデアが欲しかったんだよ! おまえ天才だなあ」

 なぜか絶賛されてしまった。

「ええ……? いや、ただの思いつき……」
「類さんはいい意味で常識がありませんからね。発想の柔軟さはひとつの強みか……」

 帝までそんなことを言う。

「何言ってるの、ふたりとも……。あっ、そうか、ぼくをおだててこの席にいさせる作戦!?」
「そんなバカな。無理にでもいさせたかったら、椅子に手足を固定します」

 帝がにこりと笑って、ナイロン製の結束バンドを出して見せた。

「それ、使う気満々じゃないですか!」

 類は後ずさりする。

「虎牙部長、そのまま類さんを押さえておいてください」
「おう、任された」

 両肩を押され、元の椅子に座らされた。

「待って、虎牙さんまで!? 虎牙さんはぼくの味方じゃ――」
「俺も、おまえの意見を聞きたいんだよなあ!」
「人の役に立てることが見つかってよかったですね。類さん」

 帝が類の手の小指をつかみ、結束バンドで椅子のひじかけに固定する。

「ちょっ、誰か助けて!」

 誰も彼を止めないどころか、みんなニコニコ笑って類を見ていた。

(何この状況……!?)

 気づくと類は椅子に固定され、獣人たちに囲まれている。

『見ないうちに類がみんなと仲良くなってくれていて嬉しいよ』

 祖父までそんなことを言った。
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