獣人アイスクリーム 獣人だらけの世界で人間のボクがとろとろにされちゃう話

谷村にじゅうえん

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25,にらめっこ

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(“来い”ってどこへ!?)

 工場長は類の反応を待たずに、ずんずん歩いていってしまう。

「帝さん……」
「いってらっしゃい」

 助けを求めようと視線を向けた帝からも、背中を押されてしまった。

「う……」

 工場長とふたりきりになるのは怖いけれど、この状況で行かないわけにもいかなかった。類は意を決して白クマ型獣人の巨体を追う。
 彼は工場内へ続く扉はくぐらず、裏口の方へ続く通路を行っていた。

(こっちに何があるんだろう?)

 無機質な廊下を進む。すると工場長は裏口にほど近い場所にある扉を開けて、中へ入っていった。

「ここって……?」
「この奥が冷凍倉庫だ」

 さらに奥にある鉄の扉をくぐると、顔にチクチクするような冷気がぶつかった。
 見ると大きな棚が何列も並んでいて、そこには箱詰めされた商品がぎっしりつまっている。

「へえ、すごい!」

 工場で作ったアイスはここに一旦保管されるのか。
 冷凍倉庫の奥へ行きかけた工場長が、類を振り返った。

「アンタは入ってこなくていいぞ」
「……え?」
「凍るから」
「…………」

 確かに人間は数分で凍えてしまうだろう。興味は引かれるけれど仕方ない。類は素直に元の小部屋へ戻った。
 すると少しして工場長がコンテナボックスを抱えて戻ってくる。

「これ……?」
「好きなの持って帰っていい」

 中にはマルチパックのアイスがいくつも入っていた。箱が潰れたり、破れたりしているところをみると、これは市場に出せない不良品なんだろう。
 他にバラのアイスもいくつかあった。
 パッと見て類の目についたのは、牛乳バーにチョコレートバー、カップのカギ氷が何種類か。

(商品、こんなにいろいろあったんだ)

 ただどれもインパクトが感じられなかった。なんだろう、パッケージのデザインに個性が感じられない。
 店頭に並んでいてもきっと類の目を引かないし、偶然手に取って食べたとしても、見た目に反して味が特別でない限り、記憶に残らないと思った。

「あの、これ……ベアマンバーみたいに、パッケージにキャラクターの絵を載せたりしないんですか?」

 類がマルチパックの箱を手に取って聞くと、工場長は驚いたようにこちらを見つめる。

「どうして?」
「だって……あった方が可愛いし、目を引くし……」
「子ども向けの商品と、主婦向けのは違う」

 マルチパックは主婦向けなのか。

「主婦のひとも可愛いものは好きだと思うけど……」
「そんなのは本質じゃないな」

 工場長が短く切って捨てた。
 本質ってなんだろう? アイスの本質は味? 品質の高さ?

 確かに彼の仕切る工場内は清潔で、しっかり管理されてみえる。
 きっと作るものも、開発部のレシピを忠実に再現しているんだろう。
 でも……。

 類が何か言おうと口を開けたとき、廊下に続くドアが向こうから開かれた。

「あっ、工場長! お忙しいところすみません、3番ラインでマシントラブルが」
「またか。3番の担当は――」
「すみません、ぼくです……」

 従業員のひとりが駆け込んできて、工場長はそのまま類を置いて戻っていってしまった。

(ぼくはどうすれば……)

 しばらく待ってみても、彼が戻ってくる気配はない。おそらく類のことはすでに片付いたこととして、今頃工場内で仕事をしているんだろう。

(ど、どうしよ?)

 類はコンテナボックスいっぱいの、アイスの山とにらめっこする。
 このままここで待っていても、これが溶けてしまうと思った。だったら冷凍倉庫の中へ戻すか、さっと持って帰るしかないけれど……。

(問題は、寮の冷蔵庫に入りきるかどうかだよね?)

 迷ったが、これを食べないことには何もつかめない気がして、類はコンテナボックスを勢いよく持ち上げた。
 そして――。
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