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12,見捨てない、見捨てたくない
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結局、類が手錠で拘束されているうちに、帝がビジネスホテルから類の荷物を移動させ、チェックアウトまで済ませてきてしまった。
「類さん、アナタの荷物はすべて上の301号室に運び込みましたので。そちらにお戻りになりますか? それともこのまま、私とこの部屋で暮らしますか?」
戻ってきた帝が余裕たっぷりの笑顔で聞いてくる。一旦類と離れて、彼は調子を取り戻したらしい。
「……その二択なんだ?」
手錠をはめられたままの類がぼやく。
(とりあえず手錠、外してもらわないと困るもんな!)
「301に戻ります」
「それがいいですね。戻っていただかないと、私の理性が持ちませんので」
帝がベッドとマットの隙間から小さなカギを取り出して、類の手錠を外した。
「手首、大丈夫ですか?」
すれて皮のむけたところに彼の唇が優しく落ちる。
「お大事に」
「って誰のせい?」
「今度は上から吊しましょうか?」
「えっ、それはちょっと……」
天井にフックのようなものがついているのを、類は見ないことにした。
帝は“個人的な趣味”と言っていたけれど、そこから吊される人がいるとしたら、それが合意の元であると信じたい。
「明日は朝の8時過ぎにお部屋に迎えに参りますので。それまでゆっくりお休みください」
帝に見送られ、類は出ていくはずだった寮の階段を逆戻りした。
と、階段にスマホの着信音が響く。
「ああ、私です。失礼します」
帝が電話に出ながら101の部屋の中へ戻っていった。
玄関のドアが閉まる直前に、声が聞こえる。
「……社長、お疲れ様です!」
(え、じいちゃん?)
類は階段の途中で足を止めた。
時刻は夜の10時を回っていた。こんな時間に仕事の電話かと驚いてしまう。
それから気づいた。
(ぼくがあんなメールを送ったからか……)
あのメールを見て慌てた祖父が、帝に電話をしてきたに違いない。
それとも別の用件だろうか?
ドアが閉まってしまって電話の声はよく聞こえないけれど、帝が返事をしたり、堅い口調で何かを説明しているのはわかった。
――私は社長に……、あなたのおじいさまにはとてもお世話になりました。ですからあなたのことは見捨てません。
今朝聞いた、彼の言葉が思い出される。
(見捨ててくれたらラクなのに……)
帝の“見捨てない”は“逃がさない”と同義だ。
けれどハキハキと何か話している声を聞いていると、類もどうしてか心動かされるものがあった。
(ぼくも、帝さんを見捨てたくないかも……?)
ホワイトベアークリーム社。旧・獣人居住区にある獣人たちのアイスクリーム製造メーカー。小さな会社だけれど、主力商品はいちおう全国区だ。
一方で経営状態はあまりよくない。
ぼくにできることはない。そう思う一方で、ぼくにできることはないかな? そういうふうにも考える。
(帝さん……。それに、虎牙部長……)
ちょっとだけ好きになりかけた人たちの顔が浮かんだ。
「類さん、アナタの荷物はすべて上の301号室に運び込みましたので。そちらにお戻りになりますか? それともこのまま、私とこの部屋で暮らしますか?」
戻ってきた帝が余裕たっぷりの笑顔で聞いてくる。一旦類と離れて、彼は調子を取り戻したらしい。
「……その二択なんだ?」
手錠をはめられたままの類がぼやく。
(とりあえず手錠、外してもらわないと困るもんな!)
「301に戻ります」
「それがいいですね。戻っていただかないと、私の理性が持ちませんので」
帝がベッドとマットの隙間から小さなカギを取り出して、類の手錠を外した。
「手首、大丈夫ですか?」
すれて皮のむけたところに彼の唇が優しく落ちる。
「お大事に」
「って誰のせい?」
「今度は上から吊しましょうか?」
「えっ、それはちょっと……」
天井にフックのようなものがついているのを、類は見ないことにした。
帝は“個人的な趣味”と言っていたけれど、そこから吊される人がいるとしたら、それが合意の元であると信じたい。
「明日は朝の8時過ぎにお部屋に迎えに参りますので。それまでゆっくりお休みください」
帝に見送られ、類は出ていくはずだった寮の階段を逆戻りした。
と、階段にスマホの着信音が響く。
「ああ、私です。失礼します」
帝が電話に出ながら101の部屋の中へ戻っていった。
玄関のドアが閉まる直前に、声が聞こえる。
「……社長、お疲れ様です!」
(え、じいちゃん?)
類は階段の途中で足を止めた。
時刻は夜の10時を回っていた。こんな時間に仕事の電話かと驚いてしまう。
それから気づいた。
(ぼくがあんなメールを送ったからか……)
あのメールを見て慌てた祖父が、帝に電話をしてきたに違いない。
それとも別の用件だろうか?
ドアが閉まってしまって電話の声はよく聞こえないけれど、帝が返事をしたり、堅い口調で何かを説明しているのはわかった。
――私は社長に……、あなたのおじいさまにはとてもお世話になりました。ですからあなたのことは見捨てません。
今朝聞いた、彼の言葉が思い出される。
(見捨ててくれたらラクなのに……)
帝の“見捨てない”は“逃がさない”と同義だ。
けれどハキハキと何か話している声を聞いていると、類もどうしてか心動かされるものがあった。
(ぼくも、帝さんを見捨てたくないかも……?)
ホワイトベアークリーム社。旧・獣人居住区にある獣人たちのアイスクリーム製造メーカー。小さな会社だけれど、主力商品はいちおう全国区だ。
一方で経営状態はあまりよくない。
ぼくにできることはない。そう思う一方で、ぼくにできることはないかな? そういうふうにも考える。
(帝さん……。それに、虎牙部長……)
ちょっとだけ好きになりかけた人たちの顔が浮かんだ。
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