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10,鼻息
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『じいちゃん、あの会社はいい会社だと思う。
会社の人たちは働かされてるって感じじゃなく、楽しんでいるみたいで。ベアマンバーは食べる人たちを幸せにしてる。
とはいえあんまり状況がよくないみたいだけど。でも会社の価値ってそういうことじゃないよね。
人を喜ばせる会社、社会貢献できる会社がいい会社だって、前にじいちゃんが言ってた。
ぼくにはそれしかわからないけど、それは絶対正しいと思ってて。
だからこそぼくは、あそこにはいられない。
あんないい会社をダメにしちゃいけないと思うから、もっとちゃんとした跡継ぎを選んでよ。
絶対その方がいい。
念のため、今回ばっかりは詰め寄られてもぼくの意思は変わらないよ?』
電話じゃきちんと伝える自信がなかったから、スマホのメールにしたためた。
メールなんてずいぶん書いていなかったし、過去にもそんなに送ったことがなかったから、送るのには勇気がいる。
類は文面を何度も見返したあと、大きく息を吸って送信ボタンに親指を重ねた。
(ああ……)
画面の中で、紙飛行機が飛んでいく。
(あとは寮の合い鍵、返しに行かなきゃ)
時刻はもう、夜の9時過ぎ。301号室でメールを送り終えた類は、101号室の帝の部屋の郵便受けに、合い鍵をそっと入れて立ち去ろうとしていた。
それで獣人の街ともお別れだ。
今度こそ駅前のホテルをチェックアウトして、この街から離れる新幹線に乗ろう。
寮の階段を下りながら、頭に浮かぶのは虎牙部長のことだった。
もう会えないのかと思うと胸が締め付けられる。
たった一度、勢いで肌を重ねただけの相手なのに。
(部長ともう一度……。もう一度だけでいいからエッチしたい!)
とても具体的な欲望が湧いてきた。
考えるとそれだけで、耳の中まで火照ってしまった。
とはいえ類に、もう一度誘う勇気なんてない。
精神的に追い詰められた結果ではあるけれど、昨日あんなふうに誘えたのが奇跡だったんだ。
(ううん、想像するだけ! 想像するだけだもん、いいよね!?)
類は鼻息荒く自分に弁解する。その時だった。
目の前で101号室のドアが勢いよく開く。
(――え?)
体で押すようにして、内側からドアを開けたのは帝だった。
「類さん、どこへ行くんですか!?」
彼はそのままの勢いで類の前に立ちはだかる。
「えっ……」
「メール、今見ましたよ? もっともらしい理由をつけて逃げるなんて私が許しませんから!」
帝の鼻息は、性的な妄想をしていた類以上に荒かった。
「え、待って! メールって、なんで帝さんが……!?」
ついさっき祖父宛に送信したばかりなのに、さすがに情報が早すぎないか。
「社長の社用メールは私が管理してるんで」
「ガーン!!」
そんなの類は聞いてない。
「ガーンじゃありませんよ、何言ってるんですか、本当に! 『今回ばかりは詰め寄られてもぼくの意思は変わらない』でしたっけ? それが本当かどうか、今すぐ試してみましょうか!?」
帝が類の胸ぐらをつかんだ。
会社の人たちは働かされてるって感じじゃなく、楽しんでいるみたいで。ベアマンバーは食べる人たちを幸せにしてる。
とはいえあんまり状況がよくないみたいだけど。でも会社の価値ってそういうことじゃないよね。
人を喜ばせる会社、社会貢献できる会社がいい会社だって、前にじいちゃんが言ってた。
ぼくにはそれしかわからないけど、それは絶対正しいと思ってて。
だからこそぼくは、あそこにはいられない。
あんないい会社をダメにしちゃいけないと思うから、もっとちゃんとした跡継ぎを選んでよ。
絶対その方がいい。
念のため、今回ばっかりは詰め寄られてもぼくの意思は変わらないよ?』
電話じゃきちんと伝える自信がなかったから、スマホのメールにしたためた。
メールなんてずいぶん書いていなかったし、過去にもそんなに送ったことがなかったから、送るのには勇気がいる。
類は文面を何度も見返したあと、大きく息を吸って送信ボタンに親指を重ねた。
(ああ……)
画面の中で、紙飛行機が飛んでいく。
(あとは寮の合い鍵、返しに行かなきゃ)
時刻はもう、夜の9時過ぎ。301号室でメールを送り終えた類は、101号室の帝の部屋の郵便受けに、合い鍵をそっと入れて立ち去ろうとしていた。
それで獣人の街ともお別れだ。
今度こそ駅前のホテルをチェックアウトして、この街から離れる新幹線に乗ろう。
寮の階段を下りながら、頭に浮かぶのは虎牙部長のことだった。
もう会えないのかと思うと胸が締め付けられる。
たった一度、勢いで肌を重ねただけの相手なのに。
(部長ともう一度……。もう一度だけでいいからエッチしたい!)
とても具体的な欲望が湧いてきた。
考えるとそれだけで、耳の中まで火照ってしまった。
とはいえ類に、もう一度誘う勇気なんてない。
精神的に追い詰められた結果ではあるけれど、昨日あんなふうに誘えたのが奇跡だったんだ。
(ううん、想像するだけ! 想像するだけだもん、いいよね!?)
類は鼻息荒く自分に弁解する。その時だった。
目の前で101号室のドアが勢いよく開く。
(――え?)
体で押すようにして、内側からドアを開けたのは帝だった。
「類さん、どこへ行くんですか!?」
彼はそのままの勢いで類の前に立ちはだかる。
「えっ……」
「メール、今見ましたよ? もっともらしい理由をつけて逃げるなんて私が許しませんから!」
帝の鼻息は、性的な妄想をしていた類以上に荒かった。
「え、待って! メールって、なんで帝さんが……!?」
ついさっき祖父宛に送信したばかりなのに、さすがに情報が早すぎないか。
「社長の社用メールは私が管理してるんで」
「ガーン!!」
そんなの類は聞いてない。
「ガーンじゃありませんよ、何言ってるんですか、本当に! 『今回ばかりは詰め寄られてもぼくの意思は変わらない』でしたっけ? それが本当かどうか、今すぐ試してみましょうか!?」
帝が類の胸ぐらをつかんだ。
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