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2,ちょっとおかしい

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 ホワイトベアーマンが、右手を手刀しゅとうの形に構えて振り上げる。

「フンッ!」
「お、おう! 暴力か!? 子どもたちのヒーローが人に暴力振るっていいと思ってんのか!?」

 絡んできていた獣人はわかりやすく動揺の色を見せたかと思うと、わめきながら逃げていってしまった。
 ホワイトベアーマンは北極グマをモチーフにしたヒーローだ。相手がいくら獣人でも、体格のいい北極グマに敵う者はあまりいないだろう。
 目の前のホワイトベアーマンも、人間ではあまり見ないような大きな体をしていた。

 でも、どういうことだろう?
 類の知るホワイトベアーマンは、アイスキャンディのパッケージに描かれたヘタうまなイラストだ。当然、実在しない。となると彼はコスプレイヤーか何かか。
 衣装のクオリティが高すぎるのにはびっくりするけれど……。

「……!?」

 凝視していると、振り返った彼と目が合ってしまった。
 デカい。怖い。この中の人も、“人間チャンをよしよし”したいと思っているんだろうか。
 思わず鳥肌が立つ。

 類は回れ右し、早足でその場から離れた。

「えっ、おい、キミ?」

 ホワイトベアーマンが追いかけてくる。海に沈む夕陽を背にしているせいで、彼の大きな影が類に覆い被さった。

「……っ!」

 本能的な恐怖から、類は歩く速度を速めた。

「なあ、どうした、大丈夫なのか?」

 まだ彼は来る。これじゃあまるで追いかけっこだ。
 いつの間にか早足が、走る速さになる。

(なんで来るの!?)

 類はもう全速力で走っていた。
 ビーチの砂に足を取られる。
 なんとか転ばずに済んだけれども、靴の中が砂だらけになった。

(なんでぼくが、こんな目に!)

 後ろを振り返るのが怖くて、類はよろけながらもまだ走る。
 通りがかりのサーファーたちが、驚いた顔でこちらを振り向いた。

 ビーチから道に上がる石段までたどり着き、類は息をつく。
 普段運動なんかしないから息が苦しい。ひざに両手をついて息を整えようとした。

 ホワイトベアーマンは追いついてこなかった。
 そして振り向いてみても、後ろには誰もいなかった。
 追いかけられていると思ったのは、恐怖からの妄想だったのか……?

(ぼくは何やってる? 助けてもらって、お礼も言わずにただ逃げて……)

 突然ひとり取り残されてしまった気がした。もともとひとりぼっちだったのに。
 この街に来て自分が壊れてしまったみたいで、類は突然泣きたくなってしまった。
 泣きたくなった時にはもう目の周りがぐしょくしょに濡れていた。
 顔をこすると、涙で砂が貼り付いている。

(バカみたいだ……!)

 石段に座ってひとり泣いた。
 そんな時……。

「ほら」

(え……?)

 目の前にすっとアイスキャンディが差し出される。
 懐かしいパッケージ。“ベアマンバー”だ。確か定価は60円。
 パッケージに描かれたヘタうまなホワイトベアーマンが、類に笑いかけていた。

 そっと手を伸ばし、アイスキャンディを受け取る。
 差し出しているのはさっきのコスプレ男だった。
 彼の背後にある道には、ベアマンバーの白いラッピングカーがぽつんと駐車している。
 あそこからアイスキャンディを取ってきたのか。となるとこの人は、アイスの販売員か何か?

(ぼくはものすごく、失礼な誤解をしてた……)

 類は余計に泣きたくなってしまい、顔を隠してうなだれた。

「やっぱ大丈夫じゃなかったかー……」

 コスプレ男、もとい、アイスの販売員か何かの人が、隣にゆっくり腰を下ろす。

「怖かったよな? けど泣くことない。それ食べたらきっと元気が出る」

 類は少し溶けかけたベアマンバーを袋から出して、口に含んだ。
 ソーダの酸味と甘みが、すっと口の中を浄化する。子どもの頃に食べていた、とても懐かしい味だった。

「ごめんなさい……。さっきは逃げたりして……。ぼく、ちょっとおかしくて……」

 類は自分の精神状態に自信がなかった。
 だって今、アイスを食べながらも、ボロボロとこぼれる涙を止められないでいる。

「いや……おかしくないよ」

 ホワイトベアーマンの声は優しかった。
 そして彼は息をつき、仮面をはずす――。
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