獣人アイスクリーム 獣人だらけの世界で人間のボクがとろとろにされちゃう話

谷村にじゅうえん

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1,ホワイトベアーマン

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 アイスクリームが日本に伝わったのは、明治初期の頃だったらしい。当時「あいすくりん」と呼ばれたその食べ物は、とても高価なものだった。
 一般の人が食べられるようになったのは、大正期以降。その後、冷蔵庫の普及とともに爆発的に広まった。

 そんなアイスクリームの歴史は、宇宙で独自の進化を遂げた獣人たちの、日本での活動の歴史と重なる。明治初期に日本へやってきた獣人たちは、初め恐れられ、同時に強い興味を惹きつけていたけれど、今ではその存在が認知され、特別なものでもなくなった。
 かつて獣人居住区に指定されていた新集しんじゅう県も、今では他の都道府県と同じ扱いだ。とはいえ今でも住んでいるのは獣人ばかりで、人間を見かけたら、それはほとんど観光客だそうだ。
 ちなみに仕事の都合などで東京など他の地域に住む獣人たちもそこそこいるようだが、彼らは公共の場では特徴的な耳と尻尾を隠し、人間の姿に似せているらしい。

 新集県に来た白石しらいしるいは、パーカーのフードを目深にかぶり、特徴的な耳がことを隠した。新集西駅で列車を下り、徒歩2~30分かかる海岸に来るまで、そこそこ人目を感じたからだ。人目というのは獣人たちの視線である。

(やっぱりこの街じゃ、人間はめずらしいんだろうな……)

 目の前には夕陽の海と砂浜が広がっていた。
 サーフボードを抱えた犬型獣人のカップルが、道の方へと上がっていく。他にも浜には黒く長い影がちらほら。その中に人間らしき姿はなかった。思い返すと、ここへ来る途中にも人間には会っていない。

 瓶入りのアルコール飲料を手にフラフラ歩く獣人が寄ってきて、くんくんと鼻を利かせた。

「……っ、なな、なんです?」

 アルコール臭が鼻につく。

「おまえ人間か?」

 頭をなでるようにして、パーカーのフードを外された。

「!!」

 夕陽の中、面白そうにこちらを見る、獣の目と視線が合わさる。
 突然他人に、こんな無礼なことをされるとは思わなかった。驚きと、それから遅れて恐怖を感じた。

「一緒に飲もう」
「……えっ」
「それとも未成年か?」

 類は今年で25歳になる。一方の相手は顔が毛に覆われているせいで年がいくつなのか見当もつかない。が、近づかない方がいい相手だということは間違いなさそうだ。

「ごめんなさい」

 類はさっと目を逸らして立ち去ろうとした。
 ところが後ろから肩をつかまれる。

「なあ、そんな誘うような匂いさせといて、ごめんなさいはないだろう!?」

 肩をつかむ力が強くて鳥肌が立った。

「や、やめてください!」
「キーキー鳴くなって。悪いようにはしねえからさ、素直にヤらせろ。俺は、可愛い人間チャンが大好きなんだ」
「な、何を――」
「どうせ逆らう爪も牙もないんだろう?」

 相手は狼か、ハイエナか……見たところ大型肉食獣をルーツに持つ獣人だ。か弱い人間なんて好きにできると思っている。
 彼が笑って、夕陽の中で汚れた牙が鈍く光った。

(だ、誰か助けて!)

 類は周囲を見回す。
 助けを求めたいと思っても、心の叫びは声にならなかった。
 それなのに――。

「その子を放せ!」

 ヒーロー番組さながらの声が聞こえてきて、その場の空気がガラリと変わった。

(えっ、誰!?)

 類より先に、絡んできた獣人の方が声の主を見つける。

「ああん? なんだよおまえ。俺サマの人間チャンを横取りしようってのか!?」
「私はホワイトベアーマン! 正義のゆるキャラヒーローだ。乱暴は見逃せないな!」

 ホワイトベアーマンと名乗る男が、類の肩にかかった獣人の手を振り解いた。
 その手をたどって姿を見ると、彼は硬質なヒーロースーツを身にまとっている。

「ホワイトベアーマン……」

 類もその名前には聞き覚えがあった。子どもたちに人気のアイスキャンディ“ベアマンバー”のマスコットキャラだ。純白のよろいに丸くてちっちゃい耳が特徴。

「可愛い人間チャンをよしよししたかったら、十分になつかれてからにしろ!」

 ホワイトベアーマンは声高らかに言い放った。
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