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第3章 獅子と牝山羊
第21話
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その夜。修道士宿舎のユァンの部屋には、バルトロメオの代わりにルカが戻ってきていた。
「同室のヤツのいびきがうるさくてさ。それで思い出したんだよ、ここが空いてたって」
ルカは就寝時間に枕だけ持ってきて、空いているベッドにもぐり込む。
ユァンとしてはバルトロメオのためにシーツを換えておいたのだが……。
でもまあ、ルカが安眠できるならこれでよかったのかもしれない。
(けどバルトが夜中に来たら、お互いにビックリするよね?)
ふとそんなことを思ったが、ユァンも疲れていてその日はそのまま眠ってしまった。
*
ある日夢の中で、ユァンは雄の子山羊だった。
きれいな色のハナムグリを追いかけて遊んでいたら、いつの間にか仲間の群れが見えなくなっていた。
ここはどこだろう? 周りに見えるのは背の高い草ばかりで、自分がどちらから来たのかも分からない。
闇雲に歩くうち、薄暗い藪の中に入ってしまった。
だんだんと前に進むのが怖くなる。
でもひとりでいるのも恐ろしい。
きっともう群れからは、だいぶ離れてしまっただろう。
耳元で蜂の羽音がして慌てて逃げる。
今は自分で自分の身を守らなければ。
目の前に木の柵に囲まれた明るい場所を見つけたので、柵の下にもぐり込み、そこへ入った。
狭い場所を通るのは得意だ。
ちょうど水たまりがあったので、僕はその水でのどを潤す。
白い前足が少し汚れた。
空を映す水面から顔を上げると、そこは明るく見晴らしがいいけれど、なんだか寂しい場所だった。
動物も虫も、生きているものの気配がない。
ああ、ここは墓地なんだなと、子山羊だけれど僕は気づいた。
ここは誰かを悼むための場所だ。
生きている生きものが、気軽に立ち寄るべき場所じゃない。
なんだか少し、雰囲気が怖いし。
少しだけ休んで戻ろう。
そうして日向で体を温めていると……。
ああ……。
僕は何か、とても美しいものに出会った。
墓石の前をゆっくりと進んでくる、大きな四つ足の生きもの。
立派なたてがみを持つ、黄金の獅子だった。
獅子は僕に気づくと、一旦足を止め、それからゆっくり来て鼻先を近づける。
食べられてしまうんじゃないかと思ったけれど、獅子は優しい目をしていた。
僕はすぐに好きになった。
顔をぺろりと舐められ、胸が高鳴る。
僕は、ユァンです。
名前を聞かれた気がして、そう答えた。
獅子の前足に寄り添ってみると、お日さまみたいにあたたかい。
さっきまで群れのいる場所に帰りたかったのに、今はこの獅子のそばにいたいと思った。
そばにいてもいいですか?
恐る恐る額の角を擦りつけてみる。
獅子はいいよというように、じっとそこを動かなかった。
それからしばらく、たわむれるように獅子に体を擦りつけ……。
気がつくと僕は、雄の子山羊ではなくなっていた。
手足が長く、お腹の丸い牝山羊だ。
どうして雌になってしまったんだろう。
そう考えてみて、この獅子のそばにいるからだと気づいた。
僕は、あなたと結ばれたい。
自分の欲望に戸惑う。
なんだかとても恥ずかしい。
獅子は僕の様子が変わったことに気づき、不思議そうに周りを一周した。
「同室のヤツのいびきがうるさくてさ。それで思い出したんだよ、ここが空いてたって」
ルカは就寝時間に枕だけ持ってきて、空いているベッドにもぐり込む。
ユァンとしてはバルトロメオのためにシーツを換えておいたのだが……。
でもまあ、ルカが安眠できるならこれでよかったのかもしれない。
(けどバルトが夜中に来たら、お互いにビックリするよね?)
ふとそんなことを思ったが、ユァンも疲れていてその日はそのまま眠ってしまった。
*
ある日夢の中で、ユァンは雄の子山羊だった。
きれいな色のハナムグリを追いかけて遊んでいたら、いつの間にか仲間の群れが見えなくなっていた。
ここはどこだろう? 周りに見えるのは背の高い草ばかりで、自分がどちらから来たのかも分からない。
闇雲に歩くうち、薄暗い藪の中に入ってしまった。
だんだんと前に進むのが怖くなる。
でもひとりでいるのも恐ろしい。
きっともう群れからは、だいぶ離れてしまっただろう。
耳元で蜂の羽音がして慌てて逃げる。
今は自分で自分の身を守らなければ。
目の前に木の柵に囲まれた明るい場所を見つけたので、柵の下にもぐり込み、そこへ入った。
狭い場所を通るのは得意だ。
ちょうど水たまりがあったので、僕はその水でのどを潤す。
白い前足が少し汚れた。
空を映す水面から顔を上げると、そこは明るく見晴らしがいいけれど、なんだか寂しい場所だった。
動物も虫も、生きているものの気配がない。
ああ、ここは墓地なんだなと、子山羊だけれど僕は気づいた。
ここは誰かを悼むための場所だ。
生きている生きものが、気軽に立ち寄るべき場所じゃない。
なんだか少し、雰囲気が怖いし。
少しだけ休んで戻ろう。
そうして日向で体を温めていると……。
ああ……。
僕は何か、とても美しいものに出会った。
墓石の前をゆっくりと進んでくる、大きな四つ足の生きもの。
立派なたてがみを持つ、黄金の獅子だった。
獅子は僕に気づくと、一旦足を止め、それからゆっくり来て鼻先を近づける。
食べられてしまうんじゃないかと思ったけれど、獅子は優しい目をしていた。
僕はすぐに好きになった。
顔をぺろりと舐められ、胸が高鳴る。
僕は、ユァンです。
名前を聞かれた気がして、そう答えた。
獅子の前足に寄り添ってみると、お日さまみたいにあたたかい。
さっきまで群れのいる場所に帰りたかったのに、今はこの獅子のそばにいたいと思った。
そばにいてもいいですか?
恐る恐る額の角を擦りつけてみる。
獅子はいいよというように、じっとそこを動かなかった。
それからしばらく、たわむれるように獅子に体を擦りつけ……。
気がつくと僕は、雄の子山羊ではなくなっていた。
手足が長く、お腹の丸い牝山羊だ。
どうして雌になってしまったんだろう。
そう考えてみて、この獅子のそばにいるからだと気づいた。
僕は、あなたと結ばれたい。
自分の欲望に戸惑う。
なんだかとても恥ずかしい。
獅子は僕の様子が変わったことに気づき、不思議そうに周りを一周した。
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