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第2章 教会の子供たち
第18話
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土と、発酵した干草の匂いが4人を出迎える。
小屋の中央に吊されている小さなランプに明かりを灯すと、鋤や鍬の並ぶ物置小屋の景色がオレンジ色に照らし出された。
「座ってください、こんなところだけど」
ユァンが言うと、少年たちは木箱や干草の束の上に腰を下ろす。
「僕の名前はリッカ。それでこっちはセイヤです」
ほっそりした少年が名乗り、大柄の少年が隣で会釈すした。
「僕はユァン。こんな格好をしてるけど、養護院はずっと前に卒業していて……」
「ここの修道士さまだよな?」
どうしてかセイヤの方が言い当ててくる。
「はい、でも……どうして」
ユァンはセイヤのことを知らない。
「覚えてないんですか……そっか、顔は見られてなかったのか」
彼がひとり言のようにつぶやいた。
「そうか、お前!」
入り口の戸に寄りかかっていたバルトロメオが、ぱっとそこから背中を離す。
「え、なに? バルト……」
「こいつだ、あの雨の夜の!」
「……あっ!」
激しい雨の降る夜、礼拝堂の外回廊。
鍬を振りかぶった男の姿が脳裏によみがえった。
身構えるバルトロメオに対し、セイヤは平身低頭の姿勢だ。
「すみません! あの時は本当に気が動転していて!」
「俺が止めてなかったら、お前こいつに怪我させてたんだぞ! 確実に」
「分かってます、だから……本当に、申し訳ありませんでした!」
木箱から下り、床に両手を突くセイヤを見て、ユァンの方が慌てた。
「そんな、いいよ、僕は怪我しなかったんだし……」
「あの時何があったんだ?」
バルトロメオの問いかけに対し、セイヤは床にひざを突いたままリッカを見上げる。
答えたのはリッカの方だった。
「セイヤが神父さまを襲ったのは、僕のためなんです」
(あ……)
リッカの言葉に、ユァンも察する。
「神父さまにはその……前から何度か体を触られていて……そのことをセイヤに話したら、セイヤ、敵を取ってくれるって」
リッカは申し訳なさそうに、けれど少しだけ嬉しそうにも見える表情で教えてくれた。
「そっか、友達のため……」
ユァンはつぶやく。
養護院の子が修道士に身をやつし、雨の夜に修道院に忍び込んだ。
あの時はリッカの名前を出してペティエ神父を呼び出したんだろうか。
それとも偶然神父に出会うまで、じっと暗がりに身を潜めていたのか。
どちらにしても、決死の覚悟だったに違いない。
それからすさまじい緊張の中で目的を遂げ、もしくはやりすぎてしまって。
そんな時にユァンに見つかってしまった。
きっとそんな状況だったんだと思う。
だとしたら彼がとっさにユァンに襲いかかってしまったことも、不可抗力に近いような気がした。
「鍬で殴りかかるなんてやり方はいけないけれど、友達を守ろうとしたのは立派だと思う。神さまもお許しになると思うし、神父さまも原因は自分だって分かってたからこそ、ことを荒立てなかったんだよね。だとしたら、そのことはもう……」
ユァンの言葉に、バルトロメオが渋い顔で続ける。
「とはいえ神父は懲りてないんだろうな、だから今日はリッカを避けてユァンに……」
その通りだ……。
「どうすればいんだろう、ペティエ神父のこと……」
「ユァンはどうしたい?」
「僕は……」
庭木の下で抱きつかれ、執拗に触られた時の不快感と絶望感を思い出す。
「あんなことは、もうしてほしくない。僕にも、他の誰にも……」
「訴え出る気はあるのか?」
バルトロメオが、ユァンとリッカを見比べるように視線を注いだ。
小屋の中央に吊されている小さなランプに明かりを灯すと、鋤や鍬の並ぶ物置小屋の景色がオレンジ色に照らし出された。
「座ってください、こんなところだけど」
ユァンが言うと、少年たちは木箱や干草の束の上に腰を下ろす。
「僕の名前はリッカ。それでこっちはセイヤです」
ほっそりした少年が名乗り、大柄の少年が隣で会釈すした。
「僕はユァン。こんな格好をしてるけど、養護院はずっと前に卒業していて……」
「ここの修道士さまだよな?」
どうしてかセイヤの方が言い当ててくる。
「はい、でも……どうして」
ユァンはセイヤのことを知らない。
「覚えてないんですか……そっか、顔は見られてなかったのか」
彼がひとり言のようにつぶやいた。
「そうか、お前!」
入り口の戸に寄りかかっていたバルトロメオが、ぱっとそこから背中を離す。
「え、なに? バルト……」
「こいつだ、あの雨の夜の!」
「……あっ!」
激しい雨の降る夜、礼拝堂の外回廊。
鍬を振りかぶった男の姿が脳裏によみがえった。
身構えるバルトロメオに対し、セイヤは平身低頭の姿勢だ。
「すみません! あの時は本当に気が動転していて!」
「俺が止めてなかったら、お前こいつに怪我させてたんだぞ! 確実に」
「分かってます、だから……本当に、申し訳ありませんでした!」
木箱から下り、床に両手を突くセイヤを見て、ユァンの方が慌てた。
「そんな、いいよ、僕は怪我しなかったんだし……」
「あの時何があったんだ?」
バルトロメオの問いかけに対し、セイヤは床にひざを突いたままリッカを見上げる。
答えたのはリッカの方だった。
「セイヤが神父さまを襲ったのは、僕のためなんです」
(あ……)
リッカの言葉に、ユァンも察する。
「神父さまにはその……前から何度か体を触られていて……そのことをセイヤに話したら、セイヤ、敵を取ってくれるって」
リッカは申し訳なさそうに、けれど少しだけ嬉しそうにも見える表情で教えてくれた。
「そっか、友達のため……」
ユァンはつぶやく。
養護院の子が修道士に身をやつし、雨の夜に修道院に忍び込んだ。
あの時はリッカの名前を出してペティエ神父を呼び出したんだろうか。
それとも偶然神父に出会うまで、じっと暗がりに身を潜めていたのか。
どちらにしても、決死の覚悟だったに違いない。
それからすさまじい緊張の中で目的を遂げ、もしくはやりすぎてしまって。
そんな時にユァンに見つかってしまった。
きっとそんな状況だったんだと思う。
だとしたら彼がとっさにユァンに襲いかかってしまったことも、不可抗力に近いような気がした。
「鍬で殴りかかるなんてやり方はいけないけれど、友達を守ろうとしたのは立派だと思う。神さまもお許しになると思うし、神父さまも原因は自分だって分かってたからこそ、ことを荒立てなかったんだよね。だとしたら、そのことはもう……」
ユァンの言葉に、バルトロメオが渋い顔で続ける。
「とはいえ神父は懲りてないんだろうな、だから今日はリッカを避けてユァンに……」
その通りだ……。
「どうすればいんだろう、ペティエ神父のこと……」
「ユァンはどうしたい?」
「僕は……」
庭木の下で抱きつかれ、執拗に触られた時の不快感と絶望感を思い出す。
「あんなことは、もうしてほしくない。僕にも、他の誰にも……」
「訴え出る気はあるのか?」
バルトロメオが、ユァンとリッカを見比べるように視線を注いだ。
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