サイテー上司とデザイナーだった僕の半年

谷村にじゅうえん

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4章:本と個展とオリンピック

第8話

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「ミズキ」
「は、はい……」
「お前に興奮してる」

引き寄せた右手を、腰の昂ぶりに押しつけられる。

(えーと!? これ、どうしたら……)

僕は全身が火照るのを感じながら、声にならない悲鳴を上げた。

「ベッド行こう、ミズキ」
「ベッドって……」

すぐそこにある、彼のベッドへ目を向ける。

「ここじゃ動きにくいからさ」
「う、動いて何するんですか……」
「それは、お前の想像通りだと思う」

さらっと答える相楽さんを見下ろし、僕はゆっくりと息をついた。
けれどもドキドキ騒ぐ心臓は、なかなか治まらない。

「…………」
「……何だよ」
「その……相楽さんはゲイではないですよね? 女の人と付き合ってたわけだから」

自分でも、今さらだと思いながら聞いた。

「さあ?」

彼は肩をすくめる。

「さあ、ってなんですか!」
「男を好きになったのは、ミズキが初めてだから」

(好きって言ってくれた)

そのことに思わず気をよくしながら、僕はもう一度問いかける。

「じゃあその……男同士での経験はないんですよね?」
「当たり前だ」

相楽さんが呆れたような、拗ねたような顔になった。

「けど、やり方はひと通り勉強した」
「相楽さんが、勉強……」

僕のことを思って、ひとりでビデオでも見たんだろうか。
可笑しくて嬉しくて、つい笑ってしまった。

「……何笑ってんだよ! 好きな相手ができたら、どーにかして交わりたいと思うのが普通だろ!」

顔をしかめた相楽さんに、頭をパシッとはたかれる。

「まじわ……えーと? そう、ですね。広い意味での、交流?」
「いい意味での交流だな。分かったら早く向こう行け。お前が上にいたら何もできない」

照れくさそうな顔でせき立てられ、僕は彼のひざから下りる。
するとすぐ、肩を押されてベッドに転がされた。

「あっ」

覆い被さってきた相楽さんに、真上から唇を奪われる。
僕の体の力が抜けるまで強めに唇をむさぼったあと、彼は立ち上がり、着ているものを脱ぎ捨てた。
ハワイのビーチでは目のやり場に困ってしまった、男らしい体が晒される。
今までこの人に抱かれてきた女の人たちは、どんな思いでこの光景を見たんだろう。
上下する腹筋とその下の猛りに見惚れながら、僕はぼんやりとそんなことを考えた。
そうしているうちにベッドに戻ってきた相楽さんが、僕の服にも手をかける。

「待って、恥ずかしいです……」
「今さらだろ」

シャツのすそを捲り上げられ、背中にキスをされる。

「何食ったらこんなきれいな背中に育つんだ」

熱い舌が、背骨に沿って首の後ろまで上がってきた。

「きれいって……女の人じゃないんですから」
「女なんかよりずっときれいでエロいよ、お前の体は」
「そんなわけないです」

褒められても恥ずかしくて、彼の顔が見られない。

「素直に俺の美的センスを信じろって」

笑いを含んだ声が、耳元で囁いた。
そのうちに、上も下も脱がされてしまう。

「……っ……」
「大丈夫だからそんな顔すんな。俺に任せてろ」

僕を仰向けに転がして、相楽さんは脇腹にキスを落とす。

「でも……怖いです」

僕の片膝を持ち上げて、この人は脚の付け根に触れてきた。
思わずのどがひゅっと鳴る。
そこでするのは分かっていたけれど、自分が彼とそんなことをするなんてイメージが湧かなかった。
……いや、正直なところ今まで何度か想像はした。
けれども知らない行為の想像は、あくまでファンタジーで具体性を伴わなくて……。

「まあ怖いよな。正直、俺も怖い」

相楽さんは浅い呼吸を繰り返しながら、震える声で語りかけてきた。
へその周りにキスを落として、後ろに指を沿わせてくる。

「んっ……」

ぬるっとした感覚に腰が跳ねる。
いつの間にか彼の指には、ローションが塗られていた。

「あっ……」

ひんやりした感覚に戸惑ううちに、爪の先を埋められる。
そんなつもりじゃなかったけれど、この部屋のドアを叩く前に、シャワーを浴びていてよかったと思った。
彼の指は入り口を出たり入ったりを繰り返しながら、次第にそこを広げてくる。

「あっ……んんっ……」

強い違和感を訴えるように、ひざがガクガクと震えた。
けれども前をやわやわと揉まれながら後ろの抜き差しを繰り返されると、不快感がだんだんと快感に置き換わっていく。

「ああ……はぁ……変な感じ、だけど、ちょっとだけ、気持ちいいかも……」

乱れてきた息の合間に伝える。
すると相楽さんが、ホッとしたように微笑んだ。

「いいのか、よかった」

中を探る、指の動きが大胆になる。

「んっ、そこ!」
「……っ、ここか」
「ひっ……!」

中のおなか側を引っ掻かれ、不思議な快感に息が止まった。

(こんなとこ触られて気持ちがいいなんて……恥ずかしいけど……相楽さんになら見られてもいい)

彼は呼吸を乱しながら、潤んだような瞳で僕を見ている。
その顔を見ると、どうしてか胸がいっぱいになってしまった。
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