サイテー上司とデザイナーだった僕の半年

谷村にじゅうえん

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3章:ハワイアン・ジントニック

第10話

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(あ、ヤバい……)

器用な舌が宣言通り、僕を蹂躙していく。
頬の内側をグリグリとなぞられ、唾液が溢れ出した時には口角に力が入らなくなっていた。

「もうだいぶ、よくなってきてるだろ」

喉元に伝った唾液を、相楽さんが指ですくい取る。
濡れた指が、鎖骨の方へと滑っていった。
それから手のひらで、体の線を探られる。

(えっ、うそ……)

いつの間にかシャツの中に、手のひらがもぐり込んでいた。
大きな手のひらに揺さぶられる感覚に、背筋がぞくりと震える。

「いい反応」

相楽さんは肋骨の並びを確認するように僕の脇腹に指を這わせ、そこに舌を押し当てた。

「あんっ」

生々しい刺激に、変な声が出てしまう。

(何……この感じ)

彼の触れ方は優しいのに、触れられるたびに体の奥がじんじんと疼いていった。
そのうちに僕を愛撫する舌先がへそまで下りていって、くぼみに沈み込む。

「やだっ、そんなとこ!」
「ミズキ……」

抵抗しようとする手首をつかまれた。

「そんな可愛い声出されたら、もっとしてやりたくなる」

へそより下へと、熱い舌が移動していく。

「もっとって、キスだけじゃ……なかったんですか?」

その先へいく心構えができていない。
けれども相楽さんの左手はショートパンツの紐を解き、その中まで滑り込んでいってしまった。

「……!」

あれよあれよといううちに、男の急所を手のひらに包み込まれる。
心臓がドクドクと、耳に届くほどの音をたてていた。

(嘘だ、こんな――)

初めてのことにただただ驚いてしまって、抵抗の声も出ない。
助けを求めるように彼の顔を見ると、揺れるプールを反射して輝く瞳と目が合った。

「ミズキ……」

額を合わせるようにして、相楽さんが僕を見つめてくる。

「怖けりゃ目え瞑ってろ」

挑発するようなセリフに続いて、下着の中に差し込まれていた手が動き始めた。

「ああっ……!」

やわやわと揉まれるうちに、息が上がってしまう。

「や、こんなの……」

言葉とは裏腹に体は素直に反応して、腰が揺れる。

「硬くなってきた」
「嫌だっ」
「どうして? 健康な証拠だ」

男に触られて硬くなるのは、健康なんだろうか。
ただの条件反射以上の興奮が、僕の体を包んでいた。

「あ、ぁ、あ……っ」

口からあられもない声が出る。
僕はいつの間にか、リゾートチェアの両端に必死につかまっていた。

(あ――)

快感の予感に、全身に鳥肌が立つ。
星をあおぐ。
けれども相楽さんの顔が視界を遮り、唇を塞いだ。
手で追い詰めながら舌を吸われて、頭の中を掻き回されているような錯覚に陥る。

(イク……っ、イッていいのか?)

理性が抵抗する。

(無理、イキたい!)

深いキスを受け入れながら、唐突に涙があふれた。
そしてグラリと世界が反転し――。

気づいた時には、僕は彼の手の中で果てていた。

(嘘だ――…本当に……)

潤んだ視界の向こうで相楽さんが、ハンカチを取り出した。

(ホントにしちゃったんだ……)

「あ~……死ねる」

恥ずかしすぎて死んでしまいたい。

「馬鹿、こんなことで死なせねーよ!」

相楽さんは汚した手のひらを雑に拭き、カラリと晴れた笑顔を浮かべた。
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