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3章:ハワイアン・ジントニック
第9話
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プールサイドにリゾートチェアを見つけ、僕らはそこに浅く腰を下ろす。
相楽さんがため息をつき、横目で僕を見た。
「頭冷やして考えてみろよ。仕事で裏切られたとして、それで泣いて逃げ帰る大人がどこにいる? 俺は見たことないな。悔しくて泣いても、ベッドでめそめそなんて泣かない」
「それは……」
(そうかもしれない……)
言い返せずに黙っていると、相楽さんが僕の頭をさっと撫でた。
「俺はお前に、結構な愛着を感じてる」
愛情でもなく恋愛感情でもない、愛着と言う言葉を相楽さんは選んだ。
「お前も案外そうなんじゃないのか? 男同士でも、そんな感じになることはあると思う」
「そう……ですね」
僕は曖昧に頷く。
でも本当にそうかもしれない。
僕は出会う前から相楽さんの作品を特別に、そして身近に感じていたから……。
そう考えると、やっぱり僕らの関係には『愛着』という言葉がよく似合っている気がした。
また頭を撫でた相楽さんの左手が、今度は僕の肩に留まる。
「好きだよミズキ」
視線をわずかに外したまま、さらっと言われた。
「そんなふうに言われたら、なんだか……」
「なんだか? なんだよ」
「本気にしちゃいそうで、怖いです」
(本気にした時点で、僕の方が本気になってしまうから……)
この前キスされた時だってそうだった。
僕は怯えて、取り乱していた。
自分の気持ちが、どんどん肥大化していってしまいそうで怖かった。
人を好きになった経験が、僕にはあまりなかったから。
そう思っている時点で、僕はもう本気になってしまっているのかもしれないけれど……。
「本気にしろよ」
相楽さんが笑った。
「軽いです、相楽さんは」
彼を横目に睨んでみせる。
「それで俺はミズキが本気になってくれたら、このプールに飛び込むくらい嬉しい!」
「飛び込まないでくださいよ? 着替え、持ってきてないんですから」
睨んでいたつもりだったのに、笑ってしまった。
「ミズキ」
気を抜いた途端に、相楽さんが隣のリゾートチェアから身を乗り出してくる。
「キス、していいか?」
返事をする前に、角度の浅いリゾートチェアの背に右肩を押しつけられた。
「でもまだ、僕は――…」
言いかけた言葉を、不意に降ってきたキスが呑み込んでしまう。
「待って、まだ、気持ちを……」
「気持ち……誰の気持ち?」
唇を押しつけながら聞かれた。
「自分の気持ちも、それに相楽さんの気持ちも……よく分かっていなくて」
答えながら、顎を引いてキスから逃げる。
唇に、笑う吐息がかかった。
「朝まで、まだ7時間ある。ゆっくり、お互いの気持ちを確かめたらいい」
(それ、全然『ゆっくり』じゃないと思いますけど……!)
その苦情は、強引な唇に完全に封じられてしまった。
優しく、強く、唇を吸われ、頭が働かなくなる。
「……っ、分かりません! なんでそんなに急ぐんですか」
唇が離れたところで、疑問を訴えた。
「逆に、待つ理由なんかないだろ。ここに俺がいて、ミズキがいる」
(それが、こんなキスをする理由?)
相楽さんの行動に、ためらいはなかった。
リゾートチェアの上で僕を抱きすくめ、キスで息が続かなくなると、唇を首筋の方へ移動させていった。
彼の頭が下がって、視界に空が映った。
(誰かが見てたら……)
降るような星空を前に、不安に襲われる。
ホテルのたくさんの窓が、プールサイドにいる僕たちを見下ろしていた。
ほとんどの窓は明かりが消えているけれど、明かりが灯っている窓もある。
「やっぱり駄目ですよ、こんなところで!」
「どこならいい? コンドミニアムのベッドか?」
それは、もっと駄目に決まってる。
「どこだって同じだ、誰かに止められたらやめればいい」
彼はそう続けた。
この人の情熱は、羞恥心なんか余裕で上回るらしい。
きっと警察署へ連行されても、涼しい顔をしている。
それを想像したら、もう抵抗する気もなくなってしまった。
その間にも、相楽さんの愛撫は続く。
「ふあっ……」
顎の裏側の無防備な部分を舐められて、くすぐったさに声が出た。
「でもこれ、なんなんですか? 相楽さんは結局、僕を……どうしたいんですか」
舌での愛撫に耐えながら聞くと、首元から顔を上げた彼が笑った。
「喘がせたい、泣かせたい。心も体も、ぐちゃぐちゃにしてやりたい」
あまりに直接的な言葉が降ってきて、僕はその場に固まってしまう。
からかわれているのかとも思ったけれど、彼の燃える瞳が、そうではないことを物語っていた。
(あ――)
こんな時なのに、その瞳に引き込まれてしまった。
魅惑的な瞳が近づいてきて、また唇が合わさる。
半開きだった口の中へ、いとも簡単に舌が侵入した。
相楽さんがため息をつき、横目で僕を見た。
「頭冷やして考えてみろよ。仕事で裏切られたとして、それで泣いて逃げ帰る大人がどこにいる? 俺は見たことないな。悔しくて泣いても、ベッドでめそめそなんて泣かない」
「それは……」
(そうかもしれない……)
言い返せずに黙っていると、相楽さんが僕の頭をさっと撫でた。
「俺はお前に、結構な愛着を感じてる」
愛情でもなく恋愛感情でもない、愛着と言う言葉を相楽さんは選んだ。
「お前も案外そうなんじゃないのか? 男同士でも、そんな感じになることはあると思う」
「そう……ですね」
僕は曖昧に頷く。
でも本当にそうかもしれない。
僕は出会う前から相楽さんの作品を特別に、そして身近に感じていたから……。
そう考えると、やっぱり僕らの関係には『愛着』という言葉がよく似合っている気がした。
また頭を撫でた相楽さんの左手が、今度は僕の肩に留まる。
「好きだよミズキ」
視線をわずかに外したまま、さらっと言われた。
「そんなふうに言われたら、なんだか……」
「なんだか? なんだよ」
「本気にしちゃいそうで、怖いです」
(本気にした時点で、僕の方が本気になってしまうから……)
この前キスされた時だってそうだった。
僕は怯えて、取り乱していた。
自分の気持ちが、どんどん肥大化していってしまいそうで怖かった。
人を好きになった経験が、僕にはあまりなかったから。
そう思っている時点で、僕はもう本気になってしまっているのかもしれないけれど……。
「本気にしろよ」
相楽さんが笑った。
「軽いです、相楽さんは」
彼を横目に睨んでみせる。
「それで俺はミズキが本気になってくれたら、このプールに飛び込むくらい嬉しい!」
「飛び込まないでくださいよ? 着替え、持ってきてないんですから」
睨んでいたつもりだったのに、笑ってしまった。
「ミズキ」
気を抜いた途端に、相楽さんが隣のリゾートチェアから身を乗り出してくる。
「キス、していいか?」
返事をする前に、角度の浅いリゾートチェアの背に右肩を押しつけられた。
「でもまだ、僕は――…」
言いかけた言葉を、不意に降ってきたキスが呑み込んでしまう。
「待って、まだ、気持ちを……」
「気持ち……誰の気持ち?」
唇を押しつけながら聞かれた。
「自分の気持ちも、それに相楽さんの気持ちも……よく分かっていなくて」
答えながら、顎を引いてキスから逃げる。
唇に、笑う吐息がかかった。
「朝まで、まだ7時間ある。ゆっくり、お互いの気持ちを確かめたらいい」
(それ、全然『ゆっくり』じゃないと思いますけど……!)
その苦情は、強引な唇に完全に封じられてしまった。
優しく、強く、唇を吸われ、頭が働かなくなる。
「……っ、分かりません! なんでそんなに急ぐんですか」
唇が離れたところで、疑問を訴えた。
「逆に、待つ理由なんかないだろ。ここに俺がいて、ミズキがいる」
(それが、こんなキスをする理由?)
相楽さんの行動に、ためらいはなかった。
リゾートチェアの上で僕を抱きすくめ、キスで息が続かなくなると、唇を首筋の方へ移動させていった。
彼の頭が下がって、視界に空が映った。
(誰かが見てたら……)
降るような星空を前に、不安に襲われる。
ホテルのたくさんの窓が、プールサイドにいる僕たちを見下ろしていた。
ほとんどの窓は明かりが消えているけれど、明かりが灯っている窓もある。
「やっぱり駄目ですよ、こんなところで!」
「どこならいい? コンドミニアムのベッドか?」
それは、もっと駄目に決まってる。
「どこだって同じだ、誰かに止められたらやめればいい」
彼はそう続けた。
この人の情熱は、羞恥心なんか余裕で上回るらしい。
きっと警察署へ連行されても、涼しい顔をしている。
それを想像したら、もう抵抗する気もなくなってしまった。
その間にも、相楽さんの愛撫は続く。
「ふあっ……」
顎の裏側の無防備な部分を舐められて、くすぐったさに声が出た。
「でもこれ、なんなんですか? 相楽さんは結局、僕を……どうしたいんですか」
舌での愛撫に耐えながら聞くと、首元から顔を上げた彼が笑った。
「喘がせたい、泣かせたい。心も体も、ぐちゃぐちゃにしてやりたい」
あまりに直接的な言葉が降ってきて、僕はその場に固まってしまう。
からかわれているのかとも思ったけれど、彼の燃える瞳が、そうではないことを物語っていた。
(あ――)
こんな時なのに、その瞳に引き込まれてしまった。
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半開きだった口の中へ、いとも簡単に舌が侵入した。
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