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2章:紫色のチェ・ゲバラTシャツ
第15話
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「まあ……相楽さんはよくも悪くもあの性格ですからね。付き合っていれば、不満くらい溜まると思います」
自分の置かれた状況を思い出すと、ため息のひとつも出てしまう。
けれども僕より付き合いの長いみんなは、もっとたくさん相楽さんに振り回されてきたに違いない。
「荒川、ため息重いぞ!」
「今日はぶっちゃけちゃえよ!」
「……ですね!」
(とはいえ、キスされたなんて言えないけど……)
胸の奥が、またチクリと痛んだ。
そんな時、不意に聞かれる。
「そういえば、エコ水の風車って、荒川くんのアイデアなんだって?」
「ああ、あれは……僕がたまたま作ったのを、相楽さんが見て」
「じゃあやっぱり荒川くんのアイデアじゃん。相楽さん、手は動かさないしアイデアも出さないんじゃ、いる意味ないんじゃ?」
(え……?)
相楽さんへの批判が、思いがけない方向へ向かっていって戸惑った。
「いや、そんなことないですよ。ちゃんと指示してくれたし、プレゼンも完璧にこなしてくれて……」
「確かに、プレゼンは上手いけどさ……」
そこで、また別のひとりが口を開いた。
「けどクライアントに受けがいいのだって、あの人相当ズルしてるよ? 担当を個人的に、飲みに誘ったりだとか」
「飲みならまだいいけどね、ホテルとか行ってそう!」
「行ってる行ってる! すごい、いかにも朝帰り~って感じの時とかあるし!」
テーブルが、そんな話で盛り上がる。
相楽さんを擁護したい気もするけれど、全然その材料がなかった。
「仕事ぶりはともかく、相楽さんの作品は好きなんだけどな……」
つぶやく僕に、みんなの視線が集まる。
「もしかして荒川くん、気づいてないの!?」
「気づいてないって、何を……?」
みんなが気まずそうな顔をし、久保田さんが代表するように口を開いた。
「言っちゃうね?」
「うん……」
「相楽さんって、自分の手で絶対デザインしないじゃん。あれはしないんじゃなくてできないんだよ。だから、あの人の個人名義で獲ってる賞なんかも全部、下のデザイナーの作品。世渡りだけは異常に上手いから、世間では天才みたいに扱われてるけど」
「え……。いやいや、それはさすがに!」
予想外の展開に、そんな言葉しか出てこない。
久保田さんが神妙な顔をして言ってくる。
「常識的に考えてさすがにないって思うかもしれないけど、そんな常識が通じないのがこの業界だから」
その言葉を信じていいのか分からない。
けれど確かに、僕も相楽さんが自らデザインを起こすところを見たことがなくて……。
「手描きラフも、ミミズの這ったような線だしな。あれは少なくとも、絵心のある人の線じゃないよ」
横から言われたその言葉にも、同意せざるを得なかった。
*
久保田さんたちと別れたあと――。
恐る恐るマンションに戻ると、どういうわけか相楽さんはいなかった。
(いつもの靴がない……。飲みにでも行ったのかな?)
時刻は深夜すぎ。
この時間にいないとなると、朝帰りのパターンかもしれない。
そこで相楽さんのスマホに表示されていた、早乙女さんの名前が頭をよぎった。
僕の前では電話に出なかったけど結局、早乙女さんに呼び出されて行ったんだろう。
アルコールの残る体で自分の部屋へ行き、直にフローリングに座り込む。
そして敷いたままの布団を見ると、少し前にそこでした戯れを思い出してしまった。
「相楽さん……」
彼の残り香でも探すように、自分の布団に顔をうずめる。
気持ちと行動が、ちぐはぐだ。
さっきは怒って飛び出したのに、置いていかれたと思うと切なさが募った。
自分の置かれた状況を思い出すと、ため息のひとつも出てしまう。
けれども僕より付き合いの長いみんなは、もっとたくさん相楽さんに振り回されてきたに違いない。
「荒川、ため息重いぞ!」
「今日はぶっちゃけちゃえよ!」
「……ですね!」
(とはいえ、キスされたなんて言えないけど……)
胸の奥が、またチクリと痛んだ。
そんな時、不意に聞かれる。
「そういえば、エコ水の風車って、荒川くんのアイデアなんだって?」
「ああ、あれは……僕がたまたま作ったのを、相楽さんが見て」
「じゃあやっぱり荒川くんのアイデアじゃん。相楽さん、手は動かさないしアイデアも出さないんじゃ、いる意味ないんじゃ?」
(え……?)
相楽さんへの批判が、思いがけない方向へ向かっていって戸惑った。
「いや、そんなことないですよ。ちゃんと指示してくれたし、プレゼンも完璧にこなしてくれて……」
「確かに、プレゼンは上手いけどさ……」
そこで、また別のひとりが口を開いた。
「けどクライアントに受けがいいのだって、あの人相当ズルしてるよ? 担当を個人的に、飲みに誘ったりだとか」
「飲みならまだいいけどね、ホテルとか行ってそう!」
「行ってる行ってる! すごい、いかにも朝帰り~って感じの時とかあるし!」
テーブルが、そんな話で盛り上がる。
相楽さんを擁護したい気もするけれど、全然その材料がなかった。
「仕事ぶりはともかく、相楽さんの作品は好きなんだけどな……」
つぶやく僕に、みんなの視線が集まる。
「もしかして荒川くん、気づいてないの!?」
「気づいてないって、何を……?」
みんなが気まずそうな顔をし、久保田さんが代表するように口を開いた。
「言っちゃうね?」
「うん……」
「相楽さんって、自分の手で絶対デザインしないじゃん。あれはしないんじゃなくてできないんだよ。だから、あの人の個人名義で獲ってる賞なんかも全部、下のデザイナーの作品。世渡りだけは異常に上手いから、世間では天才みたいに扱われてるけど」
「え……。いやいや、それはさすがに!」
予想外の展開に、そんな言葉しか出てこない。
久保田さんが神妙な顔をして言ってくる。
「常識的に考えてさすがにないって思うかもしれないけど、そんな常識が通じないのがこの業界だから」
その言葉を信じていいのか分からない。
けれど確かに、僕も相楽さんが自らデザインを起こすところを見たことがなくて……。
「手描きラフも、ミミズの這ったような線だしな。あれは少なくとも、絵心のある人の線じゃないよ」
横から言われたその言葉にも、同意せざるを得なかった。
*
久保田さんたちと別れたあと――。
恐る恐るマンションに戻ると、どういうわけか相楽さんはいなかった。
(いつもの靴がない……。飲みにでも行ったのかな?)
時刻は深夜すぎ。
この時間にいないとなると、朝帰りのパターンかもしれない。
そこで相楽さんのスマホに表示されていた、早乙女さんの名前が頭をよぎった。
僕の前では電話に出なかったけど結局、早乙女さんに呼び出されて行ったんだろう。
アルコールの残る体で自分の部屋へ行き、直にフローリングに座り込む。
そして敷いたままの布団を見ると、少し前にそこでした戯れを思い出してしまった。
「相楽さん……」
彼の残り香でも探すように、自分の布団に顔をうずめる。
気持ちと行動が、ちぐはぐだ。
さっきは怒って飛び出したのに、置いていかれたと思うと切なさが募った。
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