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2章:紫色のチェ・ゲバラTシャツ
第12話
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その夜――。
相楽さんに会いたくなくても他に行く場所はなく。
僕はマンションの自分の部屋に閉じこもっていた。
(どうして……)
仕事を取るために、あの人がクライアントに取り入ろうとする。
それは前にもあったことだ。
けれども今回、コンペの勝ちがあらかじめ決まっていたなら、相楽さんは僕のデザインを信頼してくれていなかったことになる。
僕を褒めてくれたあの人の言葉は、全部嘘だったんだろうか。
信頼していた人に裏切られた、その思いが胸を苛んだ。
そして……。
(見たくなかった……)
相楽さんと早乙女さんのキスシーンが、脳裏に焼き付いて離れない。
シャワーを浴びても、ふて寝しようとしてもかき消せなかった。
裏切られたことはもちろんショックだけれど、それよりも、あの人のあんな姿を見てしまったことに僕はこたえていた。
「う~……」
布団の上で枕を抱きしめ、暗い部屋でひとりうめく。
それからどれくらいが経ったのか。
「ミズキ?」
玄関のドアが開く音に続き、相楽さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「……!」
返事をすることもできず、僕は壁の向こうの気配を探る。
「ミズキ、いるんだろ?」
部屋のドアを強く叩かれ、枕を抱いたまま肩が跳ねた。
「……なんだよ、ダンマリかよ?」
そう言われても、どう反応していいのか分からない。
素直に怒りをぶつけるべきなのか、社会人として冷静に振る舞うべきなのか。
そして自分がそうできるのかどうかも分からなかった。
(僕は、どうしたら……)
態度を決めかねているうちに、部屋のドアを外から開けられる。
「……っ! 勝手に開けないでくださいよ」
「ミズキが返事しないのが悪いんだろーが」
相楽さんはどかどかと入ってきて、布団の上で枕を抱いている、僕を見下ろした。
「お前なあ、泣いてたのかよ」
「え……?」
「その顔、見れば分かる」
「それ、は……」
言い訳する言葉を考えて、すぐに諦めた。
だいたい僕は、何も悪くない。
あの時は謝る理由なんてなかったし、悪いのは全部、相楽さんのはずだ。
「あなたが悪いんです!」
言い返した自分の言葉が、どうにも子供じみて聞こえる。
けれど言わずにはいられなかった。
何もなかったような顔は、僕にはできそうにない。
「ふうん、そうかよ……」
相楽さんがひざを折り、こちらに視線を合わせてきた。
「ミズキは俺とあいつのキスが、そんなに気に入らなかったのか」
挑発するような瞳に、視線を絡め取られてしまった。
「違いますよ! いえ、確かに気に入りませんけど」
「どっちだよ!」
「だから……」
キスが気に入らないなんて言ったら、嫉妬しているみたいじゃないか。
そうじゃなくて、あのキスの示す意味が、まず不愉快だ。
「僕が言いたいのは早乙女さんとどういう関係なのかっていうことです! コンペで勝つために彼女に近づいたなら、それは僕に対する裏切りですよね? 相楽さんの言葉を信じて、僕は真剣に取り組んできたわけですから!」
僕に向けられていたその瞳が、すうっと細められた。
「……それで?」
「それでって……」
「ミズキが言いたいのは、そんだけ?」
(え……どんな言葉を期待してる?)
相楽さんの思考がまったく読めない。
裏切りがバレて、この人はどうしてそんな平気な顔をしていられるのか。
僕にどう思われようと、痛くも痒くもないということなんだろうか。
混乱とともに、腹の底にまたふつふつと暗い憤りが溜まっていった。
「あなたって人は……言い訳くらいしてみたらどうですかっ!」
手に持っていた枕を、相楽さんの胸に叩きつける。
「言い訳か。言い訳でもないけど、キスに深い意味なんかない」
相楽さんが、僕の手から枕を奪い取った。
相楽さんに会いたくなくても他に行く場所はなく。
僕はマンションの自分の部屋に閉じこもっていた。
(どうして……)
仕事を取るために、あの人がクライアントに取り入ろうとする。
それは前にもあったことだ。
けれども今回、コンペの勝ちがあらかじめ決まっていたなら、相楽さんは僕のデザインを信頼してくれていなかったことになる。
僕を褒めてくれたあの人の言葉は、全部嘘だったんだろうか。
信頼していた人に裏切られた、その思いが胸を苛んだ。
そして……。
(見たくなかった……)
相楽さんと早乙女さんのキスシーンが、脳裏に焼き付いて離れない。
シャワーを浴びても、ふて寝しようとしてもかき消せなかった。
裏切られたことはもちろんショックだけれど、それよりも、あの人のあんな姿を見てしまったことに僕はこたえていた。
「う~……」
布団の上で枕を抱きしめ、暗い部屋でひとりうめく。
それからどれくらいが経ったのか。
「ミズキ?」
玄関のドアが開く音に続き、相楽さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「……!」
返事をすることもできず、僕は壁の向こうの気配を探る。
「ミズキ、いるんだろ?」
部屋のドアを強く叩かれ、枕を抱いたまま肩が跳ねた。
「……なんだよ、ダンマリかよ?」
そう言われても、どう反応していいのか分からない。
素直に怒りをぶつけるべきなのか、社会人として冷静に振る舞うべきなのか。
そして自分がそうできるのかどうかも分からなかった。
(僕は、どうしたら……)
態度を決めかねているうちに、部屋のドアを外から開けられる。
「……っ! 勝手に開けないでくださいよ」
「ミズキが返事しないのが悪いんだろーが」
相楽さんはどかどかと入ってきて、布団の上で枕を抱いている、僕を見下ろした。
「お前なあ、泣いてたのかよ」
「え……?」
「その顔、見れば分かる」
「それ、は……」
言い訳する言葉を考えて、すぐに諦めた。
だいたい僕は、何も悪くない。
あの時は謝る理由なんてなかったし、悪いのは全部、相楽さんのはずだ。
「あなたが悪いんです!」
言い返した自分の言葉が、どうにも子供じみて聞こえる。
けれど言わずにはいられなかった。
何もなかったような顔は、僕にはできそうにない。
「ふうん、そうかよ……」
相楽さんがひざを折り、こちらに視線を合わせてきた。
「ミズキは俺とあいつのキスが、そんなに気に入らなかったのか」
挑発するような瞳に、視線を絡め取られてしまった。
「違いますよ! いえ、確かに気に入りませんけど」
「どっちだよ!」
「だから……」
キスが気に入らないなんて言ったら、嫉妬しているみたいじゃないか。
そうじゃなくて、あのキスの示す意味が、まず不愉快だ。
「僕が言いたいのは早乙女さんとどういう関係なのかっていうことです! コンペで勝つために彼女に近づいたなら、それは僕に対する裏切りですよね? 相楽さんの言葉を信じて、僕は真剣に取り組んできたわけですから!」
僕に向けられていたその瞳が、すうっと細められた。
「……それで?」
「それでって……」
「ミズキが言いたいのは、そんだけ?」
(え……どんな言葉を期待してる?)
相楽さんの思考がまったく読めない。
裏切りがバレて、この人はどうしてそんな平気な顔をしていられるのか。
僕にどう思われようと、痛くも痒くもないということなんだろうか。
混乱とともに、腹の底にまたふつふつと暗い憤りが溜まっていった。
「あなたって人は……言い訳くらいしてみたらどうですかっ!」
手に持っていた枕を、相楽さんの胸に叩きつける。
「言い訳か。言い訳でもないけど、キスに深い意味なんかない」
相楽さんが、僕の手から枕を奪い取った。
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