サイテー上司とデザイナーだった僕の半年

谷村にじゅうえん

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2章:紫色のチェ・ゲバラTシャツ

第9話

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「お前のデザインは完璧だ、それは俺が保証する。だからミズキは堂々としてればいい。それでもまだ自分の腕を信じ切れないなら、俺を信じろ」

(そうだ、僕は相楽さんを信じていればいい。この人についていけば大丈夫だ)

余裕の笑みを浮かべる口元、それを囲んでいる精悍な顎のラインを見つめる。

「カッコいいですね、相楽さんは」
「なんだよ、急に……」
「僕も、相楽さんみたいになれたらいいのに」

すると彼は、どこか決まり悪そうに唇を歪める。
その顔を見ていたら、僕も自然と笑みが浮かんできた。
そこで会議室のドアがノックされる。

「お待たせしてすみません!」

ドアを開けたのは、爽やかなショートヘアの女性だった。
前回のオリエンでも会った担当者のひとりで、早乙女さんという方だ。

「ご準備できてます?」
「はい、もう」

相楽さんが返事をする。

「こちらもすぐに参りますので」

早乙女さんがそう言ってお茶を出してくれてる間に、先方の担当者が揃った。
向こうは十数人、こちらは相楽さんと僕の2人。
テーブルを挟み、向かい合わせに席に着く。

(なんだか、就活の時の面接を思い出すな)

けれども僕は今、相楽さんと一緒だ。
就活中の、自信がなさそうにしていた僕じゃない。
それを確認して正面のスクリーンを見ると、ちょうどそこに相楽さんの作ったプレゼンテーション資料が映し出された。

「今回はご提案の機会をいただき、誠にありがとうございます。えーっと、このプレゼンって僕らがラストなんですっけ?」
「ええ、他のプレゼンは昨日までで終わっていまして。御社からのご提案を伺ったあと、結果をご連絡できると思います」

相楽さんのラフな問いかけに、早乙女さんがにこやかに答えた。

「そうですか、緊張しちゃいますね!」

そう言いつつ、相楽さんの横顔には自信がみなぎっている。
自由すぎる上司が、今ばかりは本当に頼もしかった。
相楽さんはテーブルを見回し、ゆっくりと話し始める。

「僕たちテンクーデザインからのご提案は『もっとエコしたくなるエコ水』です」

プロジェクターから投影される映像に、僕のデザインしたパッケージのサンプルが登場する。
透明のペットボトルに、よく見ると目が着いている。
引きで見るとそんな感じのデザインだ。

それからカメラがペットボトルに寄っていき、ロゴとモンスターの顔がはっきり映る。
モンスターの口元は飲み口を中心に裏側に配置されているので、正面からは目しか見えない。
上下逆転した目のデザインに「可愛いですね!」の声が上がった。

「ありがとうございます! でも、仲間は他にもいるんです」

目だけのモンスターが表情違いで展開し、それから真上からのビジュアルが明かされる。
ここでモンスターの口が見え、上下逆だったということが分かる。
テーブルの向こうから、好意的などよめきが上がった。

「意外と凶悪そうな顔のもいますね?」
「1番右のがユーモラスで好きだな」
「その隣も、ずる賢そうでよくないですか?」

そんな雑談が聞こえてきた。

(あれ……いい感触?)

どうなることかと見守っていた僕は、ようやく手応えを感じ取る。
それから相楽さんは印刷したパッケージデザインを配り、最後にこれが風車になることも説明した。

何匹ものモンスターが風車になって回る映像に、パラパラと拍手が上がる。
ところが……。

「風車になるっていうアイデアはいいんだけどね。これ、カッターか何かで切り開かなきゃいけないんだよね? それを推奨しても、きっとサポートで対応しきれないからなあ」

年配のひとりが、眉間に皺を寄せて言った。

(それは……そこまで考えてなかった……)

水を差され、湧いていた会議室が静まる。

(どうしよう、相楽さん……)

僕は祈る思いで、隣の横顔に目を向けた。
相楽さんの口元が動く。

「ごもっともです」

その声に迷いはなかった。

「当然そういったご意見もあろうかと、調べて参りました」

(調べた?)

思いも寄らない言葉に、僕はただ話の展開を見守る。
彼は画面を切り替え、プロジェクターにある映像を映し出した。
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