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2章:紫色のチェ・ゲバラTシャツ
第6話
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相楽さんはミネラルウォーターを飲む人だが、僕は水道水で全然いける。
(これがめちゃめちゃきれいなパッケージだったら、水道水でも買うのかなあ? 買って花瓶にするとか……)
瓶ならともかく、軽いペットボトルでは花瓶にするのは難しい。
(エコ水を買って、貧しい砂漠の街に安全な水を寄付できるなら?)
でもそれでは、先方の望む、デザインでの解決にはならない気がする。
それから水を飲み、空になったペットボトルを眺めるものの、アイデアは一向に浮かんでこなかった。
壁の時計を見上げ、相楽さんの帰りを待っている自分に気づく。
(やっぱり僕ひとりじゃ、何もできないのか……)
暗い気持ちになると、思い出したくもない三木さんの顔を思い出してしまった。
――勘弁してくれ、君の1分と僕の1分は違うんだ!
――相楽くんのところは少数精鋭でやってるって聞いたけど、どうしてまたうちで落とした子なんかを採ったんだい?
三木さんとはほんの少ししか話したことがないのに、どの発言も僕の価値を見くびるものばかりだ。
そしてその言葉に、嘘や誇張はない。
それが余計に僕の心を打ちのめしていた。
*
「ミズキ?」
肩に触れられ、僕はリビングのテーブルで目を覚ます。
ブラインドの向こうは夜の闇。
そして1日半ぶりの相楽さんがそばに立っていた。
半日ぶりじゃない、1日半ぶりだ……。
結局昨夜、相楽さんは戻らす、翌日の事務所でも会うことはなかった。
自由すぎるこの人が、ひと晩帰らないくらい何も珍しいことじゃない。
それなのに会いたい時に会えなくて、恨みがましい気持ちになっていた。
「こんなところで寝てたら風邪引くだろー」
相楽さんが荷物を下ろしながら言ってくる。
「そんなことより、どこに行ってたんですか」
呆れられた気がして、返す言葉がとげとげしくなってしまった。
相楽さんが怪訝そうな顔で振り向く。
「なんだ、ミズキは寂しかったのか?」
「違いますよ。エコ水の件、何も指示してくれないから」
「あれか。プレゼンは再来週だし、まだ全然余裕だろ」
返ってきた言葉に唖然としてしまった。
事実としてはその通りだ。けれど感情が追いつかない。
追いつけない自分が歯がゆくて、気持ちが乱れる。
「そりゃあ、相楽さんにとっては全然余裕なんでしょうけど、僕としてはいっぱいいっぱいで。そればっかり考えちゃうし、ちっともイメージが湧かないし!」
「ああ、うん……」
相楽さんが、戸惑ったような顔をした。
「プレッシャーがでかすぎるんです! 相楽さんが、あんな大風呂敷を広げるから!」
上司に対して何を言っているのか。自分の中の冷静なもうひとりが呆れる。
けれど昂ぶってしまった感情が止められず、僕は相楽さんに噛みついていた。
「ミズキ、悪かったな。ちょっとバタバタしてて」
肩に触れてくる手と相楽さんの声が、いつになく優しい。
「バタバタって、どうせどこかで飲んでたんでしょう」
乱暴にシャツの胸元をつかむ。
僕は聞き分けのない彼女みたいだ。
彼は僕の手を振りほどくこともなく、背中に腕を回してくる。
「ミズキ、メシ食った?」
「話を逸らさないでください」
「気持ちが落ち込んでる時は、とりあえず食うか寝るかだ」
「……っ、冷静なんですね」
「お前が取り乱してるから、逆にな?」
普段より近い距離で、相楽さんが笑った。
*
それから僕は相楽さんの作ってくれたトマトソースのパスタを、彼と並んで食べる。
「それにしても、相楽さんが料理できるなんて知りませんでした」
普段、僕はこの家のキッチンで簡単な料理を作るけれど、相楽さんは外食ばかりでキッチンに立ってもお湯を沸かすくらいしかしない。
その相楽さんが床下収納を開け、トマト缶と乾麺を取り出した時には何が起こっているのか分からなかった。
15分前を思い出し驚きを再体験していると、相楽さんが隣で自慢げな顔をする。
「これでも一時期は料理に凝ってたんだぜ。……とはいえ、作っても片づけが面倒でいつの間にかやらなくなっちまったけど」
(これがめちゃめちゃきれいなパッケージだったら、水道水でも買うのかなあ? 買って花瓶にするとか……)
瓶ならともかく、軽いペットボトルでは花瓶にするのは難しい。
(エコ水を買って、貧しい砂漠の街に安全な水を寄付できるなら?)
でもそれでは、先方の望む、デザインでの解決にはならない気がする。
それから水を飲み、空になったペットボトルを眺めるものの、アイデアは一向に浮かんでこなかった。
壁の時計を見上げ、相楽さんの帰りを待っている自分に気づく。
(やっぱり僕ひとりじゃ、何もできないのか……)
暗い気持ちになると、思い出したくもない三木さんの顔を思い出してしまった。
――勘弁してくれ、君の1分と僕の1分は違うんだ!
――相楽くんのところは少数精鋭でやってるって聞いたけど、どうしてまたうちで落とした子なんかを採ったんだい?
三木さんとはほんの少ししか話したことがないのに、どの発言も僕の価値を見くびるものばかりだ。
そしてその言葉に、嘘や誇張はない。
それが余計に僕の心を打ちのめしていた。
*
「ミズキ?」
肩に触れられ、僕はリビングのテーブルで目を覚ます。
ブラインドの向こうは夜の闇。
そして1日半ぶりの相楽さんがそばに立っていた。
半日ぶりじゃない、1日半ぶりだ……。
結局昨夜、相楽さんは戻らす、翌日の事務所でも会うことはなかった。
自由すぎるこの人が、ひと晩帰らないくらい何も珍しいことじゃない。
それなのに会いたい時に会えなくて、恨みがましい気持ちになっていた。
「こんなところで寝てたら風邪引くだろー」
相楽さんが荷物を下ろしながら言ってくる。
「そんなことより、どこに行ってたんですか」
呆れられた気がして、返す言葉がとげとげしくなってしまった。
相楽さんが怪訝そうな顔で振り向く。
「なんだ、ミズキは寂しかったのか?」
「違いますよ。エコ水の件、何も指示してくれないから」
「あれか。プレゼンは再来週だし、まだ全然余裕だろ」
返ってきた言葉に唖然としてしまった。
事実としてはその通りだ。けれど感情が追いつかない。
追いつけない自分が歯がゆくて、気持ちが乱れる。
「そりゃあ、相楽さんにとっては全然余裕なんでしょうけど、僕としてはいっぱいいっぱいで。そればっかり考えちゃうし、ちっともイメージが湧かないし!」
「ああ、うん……」
相楽さんが、戸惑ったような顔をした。
「プレッシャーがでかすぎるんです! 相楽さんが、あんな大風呂敷を広げるから!」
上司に対して何を言っているのか。自分の中の冷静なもうひとりが呆れる。
けれど昂ぶってしまった感情が止められず、僕は相楽さんに噛みついていた。
「ミズキ、悪かったな。ちょっとバタバタしてて」
肩に触れてくる手と相楽さんの声が、いつになく優しい。
「バタバタって、どうせどこかで飲んでたんでしょう」
乱暴にシャツの胸元をつかむ。
僕は聞き分けのない彼女みたいだ。
彼は僕の手を振りほどくこともなく、背中に腕を回してくる。
「ミズキ、メシ食った?」
「話を逸らさないでください」
「気持ちが落ち込んでる時は、とりあえず食うか寝るかだ」
「……っ、冷静なんですね」
「お前が取り乱してるから、逆にな?」
普段より近い距離で、相楽さんが笑った。
*
それから僕は相楽さんの作ってくれたトマトソースのパスタを、彼と並んで食べる。
「それにしても、相楽さんが料理できるなんて知りませんでした」
普段、僕はこの家のキッチンで簡単な料理を作るけれど、相楽さんは外食ばかりでキッチンに立ってもお湯を沸かすくらいしかしない。
その相楽さんが床下収納を開け、トマト缶と乾麺を取り出した時には何が起こっているのか分からなかった。
15分前を思い出し驚きを再体験していると、相楽さんが隣で自慢げな顔をする。
「これでも一時期は料理に凝ってたんだぜ。……とはいえ、作っても片づけが面倒でいつの間にかやらなくなっちまったけど」
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