サイテー上司とデザイナーだった僕の半年

谷村にじゅうえん

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2章:紫色のチェ・ゲバラTシャツ

第1話

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今日は土曜日。
溜まった洗濯物を洗濯機に放り込み、部屋に敷きっぱなしだった布団を干す。
そしてベランダから戻ると、10畳はある広いリビングのあちこちに、脱いだままのTシャツや靴下が散らばっているのに気づいた。

(いま洗濯機まわしたところなのに、これも洗濯しなきゃか……)

言うまでもなく、散らかっているのは僕ではなく相楽さんの衣類だ。

ここへ住むようになって1カ月。
彼の自堕落な生活ぶりには驚かされてばかりだった。
服は基本的に脱ぎっぱなし、使った食器も洗わない。
リビングや風呂場などの共用部分は当然として、彼の部屋の掃除まで僕が見かねてやる始末だ。
自分としても居候の身で何かしなきゃという気持ちがあり……。
そんなこんなで僕はいつの間にか、この家のハウスキーパーみたいな役回りになっていた。

リビングに散らばった衣類を拾い集めていると、相楽さんが欠伸しながらやってくる。

「おはようミズキ、いい朝だな」
「いい朝じゃありませんよ。どうしてこんなに次から次へと脱いだ服が出てくるんですか」

ソファの隙間に挟まった靴下を引っ張りだしてそれを睨む。

「せめて洗濯機に入れておいてくれたら、僕もこうやって宝探しをしなくて済むのに……」
「悪い……」

ペットボトルの水に口をつけながら、相楽さんが珍しく謝罪の言葉を口にした。
仕事の時の自信満々な彼はどこへやら。
今は寝癖頭で顔にシーツのあとをつけ、途方にくれたような顔をしている。

「今まで、どうやって暮らしてたんですか。僕が来るまでは……」

純粋な疑問として聞くと、相楽さんは寝癖頭を掻き回す。

「何カ月か前までは、今ミズキが使ってる部屋に女が住んでたんだけど」
「えっ、彼女なんていたんですか!?」

思わず、洗濯物を探す手が止まった。

「うん、いた」
「過去形……?」
「過去形だな、ミズキに言われるまでは忘れてたし」

相楽さんが自重気意味に笑い、僕は思わずその表情に釘付けになる。

「そっか、彼女……」

相楽さんが肩をすくめる。

「俺、男でも女でも、人を口説くのは割と得意なんだよ。それに女は、何もしなくても向こうから寄ってくる」
「つまり……おモテになるということですね?」

皮肉っぽく言ったけど、相楽さんがモテることくらいは僕にも想像がつく。

「そんなにモテるなら、また新しい彼女でも作ればいいのに……。交渉次第で、家事全般をやってくれる人はいるでしょう」

恋愛感情を利用してるみたいであれだけど、仕事ができて家事のできない相楽さんには、補い合える相手が必要な気がした。
ところが相楽さんは、僕の肩に触れながら言ってくる。

「そんなのいい、今はミズキがいるしな!」
「えっ、僕はずっとはいませんよ? 初任給を貰ったら引っ越さなきゃと思って、ちょうど物件を……」

前の休みに不動産屋で貰った、ワンルームマンションの資料があることを思い出す。

「あれ? この辺に置いておいたはずなのに」
「これのことか?」

部屋の隅にあるゴミ箱の中から、相楽さんがその資料を取り出した。

「そう、それ! でも、どうしてそんなところに……」
「お前に出ていかれたら困るから、これはこうしよう」

そう言って相楽さんは、マンションの資料をビリビリと破いてしまった。

「わーっ、なんてことするんですか!」

慌てて奪い返したけれど、資料は見る影もなくバラバラになっている。

「……ミズキが悪いんだろ? 俺に相談もなく出ていこうとするから」
「何言ってるんですか! 僕はもともと、こっちに住むところがないからって理由でここに置いてもらってたんで。初任給を貰ったら、自分で部屋を借りるのが当然です」
「当然ってなんだよ? お前の常識なんか知らねーし」

相楽さんが、あからさまにムッとした顔で腕組みした。

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