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1章:僕と上司とスカイツリー
第10話
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「だいたいさあ、頼まれてもいないものを提案するなんて無駄なんだよ! それがなくたって、こっちは普段から馬車馬みたいに働いてんのに!」
みんなが目だけを、あるいは耳だけを久保田さんの方へ向けていた。
彼の声がまた大きくなる。
「クレアポルテ? やりたきゃ1人で勝手にやれよ、付き合いきれんわ!」
彼がデスクを両手で叩いたところで、ようやくみんなが反応した。
「久保田~」
「落ち着け」
「社長には社長の考えがあるんだろ」
とはいえ、いさめるみんなの声にも、諦めと疲れがにじんでいる。
(僕のわがままに、みんなを巻き込んでる)
疲労で重い右腕をさすり、僕は唇を噛んだ。
――したいんだろ、デザインが。
挑発するように言った相楽さんの声が、耳の中でリフレインした。
「僕、相楽さんを探してきます!」
「えっ……探すってどこを?」
仮眠していると思っていた橘さんが、パッとデスクから顔を上げた。
「相楽さんのスケジュール表、いま押上にいることになってます。電話していって捕まえます」
スマホと荷物を手に、勢いよく席を立つ。
その瞬間。
相楽さんのデスクの上に積み重なっていた茶封筒の束が、バラバラと床に落ちた。
(あ……!)
その中に僕は、見たくなかったものを見てしまう。
未開封の通販カタログやダイレクトメールに交じって、僕のポートフォリオがあった。
未開封の郵便物に混じっているところをみると、あの日僕からこれを預かったまま、相楽さんはきっと一度も見ていない。
デザイナーとしての僕に、本当に興味がないんだ……。
「……大丈夫?」
中腰のまま動けなくなった僕を、橘さんが来て手伝おうとする。
「いえ! すいません、大丈夫です」
僕は慌てて自分のポートフォリオを、他の封筒で隠して拾った。
そしてみじめなこの状況を隠そうとする自分に、苛立ちを覚える。
(どうして、僕がこんな目に……)
鬱屈した気持ちの矛先は当然、相楽さんに向かうわけで……。
*
相楽さんははたしてスカイツリーのふもと、押上にした。
「こんなところで何してるんですか!」
彼の縦縞シャツの襟首をひねり上げ、広々とした屋上ガーデンの隅まで引っ張っていく。
「ミズキ、落ち着け」
「これが落ち着いてられますか!」
ここはリゾート風の屋上庭園。
相楽さんはここを数十人の仲間と貸し切り、酒盛りに興じていた。
そして怒り心頭の僕を見ても、ビールジョッキを手放そうとしない。
「いったいなんのパーティーですか!?」
浮き世離れした馬鹿騒ぎに、僕は眉をひそめる。
バーベキューのテーブルの間を水着の美女たちが行き交い、お酒を運んでいる。
その向こうではテレビで見たことのある芸人が、半裸姿で場を沸かせていた。
「最近投資会社を立ち上げたヤツがいて、そのお祝いだ。……ほら、あそこ!」
相楽さんの視線の先で、ブランドスーツの男性が両側に美女をはべらせている。
ほとんど徹夜で仕事している事務所のみんなを思うと、そのギャップに目眩がした。
「あのお友達が、相楽さんのことを必要としていますか!? 事務所のみなさんは、相楽さんを待っています。行きましょう!」
「やだよ今、いい肉焼いてるのに……」
そう言いつつ、相楽さんの視線は肉ではなくそびえ立つスカイツリーを向いていた。
紫色にライトアップされたスカイツリーがぐらぐらと揺れて倒れ込んでくる錯覚に襲われる。
「……っ、帰りましょう!」
「ミズキ1人で帰れば?」
「それはできません!」
「だったら肉でも食っとけよ」
「ふざけないでください!」
焼いた肉を差しだそうとする、相楽さんの手を払いのけた。
肉の刺さった金串が、クルクルと宙を舞い足下の人工芝に突き刺さる。
さすがの相楽さんも、それを見て気勢を削がれた顔をした。
みんなが目だけを、あるいは耳だけを久保田さんの方へ向けていた。
彼の声がまた大きくなる。
「クレアポルテ? やりたきゃ1人で勝手にやれよ、付き合いきれんわ!」
彼がデスクを両手で叩いたところで、ようやくみんなが反応した。
「久保田~」
「落ち着け」
「社長には社長の考えがあるんだろ」
とはいえ、いさめるみんなの声にも、諦めと疲れがにじんでいる。
(僕のわがままに、みんなを巻き込んでる)
疲労で重い右腕をさすり、僕は唇を噛んだ。
――したいんだろ、デザインが。
挑発するように言った相楽さんの声が、耳の中でリフレインした。
「僕、相楽さんを探してきます!」
「えっ……探すってどこを?」
仮眠していると思っていた橘さんが、パッとデスクから顔を上げた。
「相楽さんのスケジュール表、いま押上にいることになってます。電話していって捕まえます」
スマホと荷物を手に、勢いよく席を立つ。
その瞬間。
相楽さんのデスクの上に積み重なっていた茶封筒の束が、バラバラと床に落ちた。
(あ……!)
その中に僕は、見たくなかったものを見てしまう。
未開封の通販カタログやダイレクトメールに交じって、僕のポートフォリオがあった。
未開封の郵便物に混じっているところをみると、あの日僕からこれを預かったまま、相楽さんはきっと一度も見ていない。
デザイナーとしての僕に、本当に興味がないんだ……。
「……大丈夫?」
中腰のまま動けなくなった僕を、橘さんが来て手伝おうとする。
「いえ! すいません、大丈夫です」
僕は慌てて自分のポートフォリオを、他の封筒で隠して拾った。
そしてみじめなこの状況を隠そうとする自分に、苛立ちを覚える。
(どうして、僕がこんな目に……)
鬱屈した気持ちの矛先は当然、相楽さんに向かうわけで……。
*
相楽さんははたしてスカイツリーのふもと、押上にした。
「こんなところで何してるんですか!」
彼の縦縞シャツの襟首をひねり上げ、広々とした屋上ガーデンの隅まで引っ張っていく。
「ミズキ、落ち着け」
「これが落ち着いてられますか!」
ここはリゾート風の屋上庭園。
相楽さんはここを数十人の仲間と貸し切り、酒盛りに興じていた。
そして怒り心頭の僕を見ても、ビールジョッキを手放そうとしない。
「いったいなんのパーティーですか!?」
浮き世離れした馬鹿騒ぎに、僕は眉をひそめる。
バーベキューのテーブルの間を水着の美女たちが行き交い、お酒を運んでいる。
その向こうではテレビで見たことのある芸人が、半裸姿で場を沸かせていた。
「最近投資会社を立ち上げたヤツがいて、そのお祝いだ。……ほら、あそこ!」
相楽さんの視線の先で、ブランドスーツの男性が両側に美女をはべらせている。
ほとんど徹夜で仕事している事務所のみんなを思うと、そのギャップに目眩がした。
「あのお友達が、相楽さんのことを必要としていますか!? 事務所のみなさんは、相楽さんを待っています。行きましょう!」
「やだよ今、いい肉焼いてるのに……」
そう言いつつ、相楽さんの視線は肉ではなくそびえ立つスカイツリーを向いていた。
紫色にライトアップされたスカイツリーがぐらぐらと揺れて倒れ込んでくる錯覚に襲われる。
「……っ、帰りましょう!」
「ミズキ1人で帰れば?」
「それはできません!」
「だったら肉でも食っとけよ」
「ふざけないでください!」
焼いた肉を差しだそうとする、相楽さんの手を払いのけた。
肉の刺さった金串が、クルクルと宙を舞い足下の人工芝に突き刺さる。
さすがの相楽さんも、それを見て気勢を削がれた顔をした。
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