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チーターとハゲタカ
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チーターくんはあしがとってもはやいので、いつもゆうびんをはいたつしています。
そうげんをあっちにいったり、こっちにいったり。
「きょうはライオンさんさんからヒョウさんへ」
「きょうはひつじさんからやぎさんへ」
とってもいそがしいまいにち。
がんばってはたらいても、あんまりおきゅうりょうはもらえません。
「いちにちじゅうはしりまわっているのになぁ」
いっぽう、ライオンさんは、あんまりはたらかずにいいくらしをしているようにみえます。
それをみたチーターくんは、ついついおこってしまいます。
「ぼくはこんなにくろうしているのに!」
ディナーのとき、テーブルにのったおさらをみて、チーターくんはためいきをつきました。
「こんなちいさなステーキじゃなくて、もっとおおきなおにくがたべたいよ!」
***
あるひ、チーターくんがはいたつのあいまにこかげでやすんでいると、きのうえからこえがしました。
「こまっているんですかい? ヒッヒッヒ」
「ん?」
チーターくんがうえをみあげると、いちわのハゲタカがとまっていました。
「いったいぼくになんのよう?」
チーターくんがけげんなかおでたずねました。
「あなた、しごとにおわれるまいにちにうんざりしていますね?」
「えっ!? まあ、ちがうとはいえないな~」
「いいあんがありますよ。ヒッヒッヒ」
そういいながら、ハゲタカはチーターくんのよこにおりてきました。
「これは、とてもめずらしい“すべすべいし”です。これをそうげんのみんなにおうりなさい。めずらしいからたかねでうれますよ。ヒッヒッヒ」
ハゲタカにわたされたいしはたしかにすべすべしています。それに、あおやみどり、あかと、いろんないろをしていました。
「へ~、これはきれいだねぇ。でも、これをただでもらうのはもうしわけないなぁ」
「ヒッヒッヒ! だいじょうぶ!」
ハゲタカはいいました。
「あなたがうったおかねのはんぶんをもらえればよいのです。どうです?」
「そうはいってもねぇ……」
チーターくんは、てのひらのいしと、よこにつんであるゆうびんぶつをみくらべながらまよいました。
すると、ハゲタカはもどかしげにいいました。
「いましかないですよ! このすべすべいしをうるけんりをてにいれられるのは!」
そうしてそらにとびあがってあいずをすると、きのうえからはハゲタカたちがおおぜいとびだしてきたのです。
「わぁ! そんなにいたのか!」
おどろくチーターくんをしりめに、ハゲタカたちはそらにうたいました。
いましかない!
いましかない!
このチャンスをてにいれられるのは!
きみしかいない!
きみしかいない!
このチャンスをものにできるのは!
まいにちまいにち
おしごとばかり
ライオンをみろ!
あいつはのんびりいきている!
くやしくないのか?
みかえしてやりたくないのか??
「た、たしかにみかえしてやりたいよ! でも、きれいだけれど、これはただのいしでしょう?」
チーターくんはハゲタカのがっしょうにおされながらもそうたずねました。
いいんだよ!
いいんだよ!
かいてがそれでいいのなら!
つまらないものも!
くだらないものも!
ほしけりゃたかねでうってやれ!
いいんだよ!
いいんだよ!
ちょっとくらいうそつきでも!
おかねのないしょうじきものより
おかねもちのうそつきのことばを
みんなありがたがるものさ!
「そ、そう? そこまでいうのなら、ぼく、やってみるよ!」
チーターくんはそういって、ハゲタカにもらった“すべすべいし”をたくさんかかえてそうげんをはしっていきました。
ハゲタカたちは、チーターくんがみえなくなったあと、チーターくんがおいていったゆうびんぶつをてにとりました。
そして、それをびりびりにやぶきはじめたのです。
かかったぞ!
かかったぞ!
おろかなチーターがわなにかかった!
これではいたつのしごとにはもどれまい!
うたのつづきをさけびます。
だまされた!
だまされた!
そうさ、あれはただのいしころ。
な~んのかちもありゃしない。
でも、みんながそれにきづいたときにゃ、おれたちゃいない。
だっておれたちゃとべるもの!
どこかとおくへにげるもの!
とべないおまえがただひとり、わるものになるのさ!
ライオンにでもくわれるがいい! ヒ~ッヒッヒ~!!
***
ハゲタカたちのわるだくみとはつゆしらず、チーターくんはみんなにすべすべいしをうっていきました。
「これはね、めずらしくてとってもかちのあるいしなんです」
「これをかって、もっておきなさいよ。いまにねがにばいさんばいにもなるんです」
「ゆうびんぶつ? そんなものはありませんよ、ぼくはすべすべいしのしょうにんになったんですから……」
ひつじさんややぎさん、ひょうさんと、そうげんのみんなにいしがいきわたったとき、チーターくんのさいふはパンパンになっていました。
「わっすごい! これならはんぶんをハゲタカさんにはらっても、はんとしはこまらないぞ!」
チーターくんはおもわずぴょんぴょんはねながらそうげんをあるいています。
ふと、むこうにおおあくびをするライオンがみえました。
「あ、ライオンさんだ! おかねもちのライオンさんには、ふつうのひとのさんばいのねだんでうってやろう!」
そこでチーターくんは、じぶんがへいきでひとをだまそうとしていることにはじめてきづきました。そして、あわててじぶんにいいきかせたのです。
「いいんだよ! おかねもちがおかねをつかってくれなきゃね! これはみんなのためにもなるんだ!」
そしてライオンのまえにいくと、チーターくんはいいました。
「ライオンさんライオンさん、すべすべいしをかいませんか? とってもめずらしくて、かちのあるものなんですよ!」
しかしライオンはそのいしをちらりとみて、そっけなくいいました。
「えんりょしておくよ」
「えっ? こんなにかちがあるものなのに?」
「かちっていうのはね、うりてじゃなくてかいてがきめるものなんだ。そのいしはたしかにきれいだが、たべられるわけでもないし、おなかをあたためてくれるものでもない」
「そんなぁ……」
チーターくんはしょんぼりとライオンのもとからたちさりました。
「けっ! まったく、かねもちってやつはこれだからいやなんだ! あいつらさえいなきゃあみんなしあわせになれるのに……!」
そうぐちをいいながら、ハゲタカのいるきへとあるいていきました。
「ヒッヒッヒ! こんなにもうけたんですかい! いやすごいね、チーターくん」
「えっへん!」
「じゃあはんぶんはもらうことにして、はんぶんはあなたにあげましょう」
「ありがとう!」
「じゃあ、ワシらはこれで」
「えっ? もうすべすべいしはないの? もっともっとうれるのに……」
「そんなにほしいか? じゃあ、ほんとうはワシらのぶんなんだが、のこりのすべすべいしをうってあげよう。そのかわり、もうはんぶんとひきかえだよ」
チーターくんはまよいました。ハゲタカたちからのこりのすべすべいしをもらうには、いまのじぶんのわけまえも、てばなさなければならないからです。
でも、チーターくんはかんがえました。
(かったすべすべいしをうればまたもうかるし、そのときはぜんぶじぶんのもうけになるんだ!)
「じゃあ、そうしうよう!」
ハゲタカたちはてもちのすべすべいしをぜんぶチーターくんにあげると、そらのむこうにとびたっていきました。
***
ハゲタカたちがとびさってすこししたあと、わたりどりたちがそうげんにやってきました。わたりどりたちは、いちねんえおかけて、とおくとおくへたびをしているのです。
そうげんのどうぶつたちは、チーターからもらったすべすべいしをこぞってわたりどりにじまんしにきました。
「これ、みてよ。きれいでしょう?」
「わたしのはむらさきなの」
「あら、わたしのはピンクですよ」
しかし、わたりどりたちはあきれたかおをしていいました。
「それ、かわらにおちているただのいしじゃないか。いったいいくらでかったんだい?」
みんなはふあんそうなかおになると、チーターくんにはらったきんがくをいいました。すると、わたりどりはもっとあきれがおになりました。
「あらら、おくさん。そりゃあだまされているよ。おきのどくさま」
そうげんのどうぶつたちはおこりました。そして、こかげでやすんでいたチーターくんをみつけると、にがさないようにとりかこんだのです。
いっぽう、なにもしらないチーターくんは、びっくりしたかおをしていいました。
「みなさん、いったいどうしたっていうんです?」
「あなたがうったすべすべいしね! ただどうぜんみたいじゃない!」
「どうしてくれるの、このさぎし!」
「おかねはかえしてくれるんでしょうね!?」
チーターくんはなにがなんだかわかりません。チーターくんは、ハゲタカのことばをすっかりしんじていたからです。
すべすべいしがそうげんではめずらしいだけで、かわらにはそこかしこにあるということをきいて、チーターくんはがくぜんとしました。
「そんな……」
でも、おかねをはらいもどそうにも、もうおかねはありません。けっきょくぜんぶハゲタカたちにわたしてしまったからです。
ふるえるこえでそのことをうちあけると、そうげんのどうぶつたちのいかりはちょうてんにたっしました。
そして、みんなでチーターくんをしばりあげると、
「ライオンさんにさいばんをしてもらおう!」
といって、ライオンのもとへひきずっていったのです。
***
「いったいどうしたんだ? みなものもの……」
ライオンはさいしょはおどろいていましたが、みなからじじょうをきくと、すべてをさとったようにいいました。
「やはりな、チーター。おまえがいちばんだまされていたのだよ……」
「ぼく……ぼく……。とんでもないことをしてしまいました……」
チーターくんはそういうと、しくしくなきはじめました。
「ひあぶりだ!」
「ハイエナにくってもらおう!」
そうげんのどうぶつたちがいかりのこえをあげます。
チーターくんは、じぶんのいのちがのこりすくないとおもって、いっそうなみだをながしはじめました。
いっぽうライオンはしずかにチーターくんとほかのどうぶつたちをながめたあと、こういいました。
「よし、みなのもの。このチーターをひあぶりにしよう」
「よし!」
「そうこなくっちゃ!」
どうぶつたちがかんせいをあげます。チーターくんはまっさおになってしまいました。
しかし、ライオンはつづけました。
「だが、そのまえにおしえてくれ。ひつじ、やぎ、そのほかこのすべすべいしでおかねをうしなったすべてのものたちよ。このチーターをひあぶりにすれば、そのおかねがもどってくるのかね?」
そのことばに、いっしゅんでねっきょうはきえさりました。みんなひそひそごえでそうだんしています。
ライオンはさらにいいました。
「このチーターをひあぶりにすることも、すべすべいしにおかねをはらうことも、おなじことだとなぜきづかないのかね?」
みんな、きまずそうにかおをうつむけました。しずかになったあと、ライオンはチーターくんにいいました。
「チーターよ。おまえだけがおろかものだったわけではない。しかし、おまえがことのほったんなのだから、つぐないをしなさい」
そして、ふたたびどうぶつたちにかおをむけました。
「みなのもの。このおろかなチーターにもういちどチャンスをやってくれまいか? このものは、すべすべいしをうるまえはきちんとゆうびんぶつをはこんでいたではないか?」
ひつじたちはすこしだまっていましたが、やがてくちぐちにいいました。
「あしのはやいあんたにやってもらいたいしごとがあるよ」
「そくたつをはこんでくれ!」
「ハイエナどものみはりをすこしかわってくれ!」
チーターくんはいわれたしごとを、すべてうけることにしました。
***
すうかげつがたったころ、チーターくんはようやくみんなからのしんらいをとりもどしました。
いまは、ゆうびんぶつをはこぶだけではなく、いろいろなしごとをこなせるようになりました。そしてそのぶん、かせぎもすこしはよくなりました。
いそがしくそうげんをはしりまわっていたとき、ライオンがまたおおあくびをしているところにでくわしました。
チーターくんはおずおずと近づくと、ライオンにはなしかけました。
「あの……ライオンさん、あのときはぼくのいのちをたすけていただいてありがとうございました……」
「きにせんでいい」
いまでは、これまでたかびしゃだとおもっていたライオンのそっけなさに、ふかいやさしさをかんじられるようになっていました。
「ぼく、そうげんでがんばります!」
そういってたちさろうとするチーターくんを、ライオンがよびとめました。
「チーターや。おかねをかせごうとするまえに、じぶんはほんとうにいくらひつようなのかをよくかんがえなさい。それにきづければ、わけもわからずあくせくうごきまわることもなくなる。もっとおおらかにじんせいをたのしむことができるよ」
「はい!!」
チーターくんはにっこりといいました。
チーターくんはもう、ひとをだますざいあくかんにさいなまれることもなければ、ひびにふまんやふあんをかんじることもなくなっていました。
みんなのやくにたってかせいだおかねで、くらすことができるようになったからです。
きょうも、チーターくんはそうげんをはしりまわります。げんきに、のびのびと。
「ただいま!」
チーターくんが、ひろいそうげんにむかってさけびました。
***
エピローグ
すべすべいしじけんからいちねんがたったころ、ライオンがそうげんのどうぶつたちみんなをディナーにしょうたいしました。もちろん、チーターくんもネクタイをしてさんかしています。
「いったいどうしたんだろうね、ライオンさん」
「きょうはなにかのきねんびだったっけ?」
ざわめくかいじょうのステージに、ライオンがたちました。
「きょうはよくきてくれたね、しょくん。さっそくだが、きょうのメインデッシュをごしょうかいしよう!」
そういってライオンがゆびさしたさきには、まるやきになったハゲタカが、なんばもおさらにならんでいました。
「さあ、とられたおかねをかえしてもらおうぞ」
そうげんをあっちにいったり、こっちにいったり。
「きょうはライオンさんさんからヒョウさんへ」
「きょうはひつじさんからやぎさんへ」
とってもいそがしいまいにち。
がんばってはたらいても、あんまりおきゅうりょうはもらえません。
「いちにちじゅうはしりまわっているのになぁ」
いっぽう、ライオンさんは、あんまりはたらかずにいいくらしをしているようにみえます。
それをみたチーターくんは、ついついおこってしまいます。
「ぼくはこんなにくろうしているのに!」
ディナーのとき、テーブルにのったおさらをみて、チーターくんはためいきをつきました。
「こんなちいさなステーキじゃなくて、もっとおおきなおにくがたべたいよ!」
***
あるひ、チーターくんがはいたつのあいまにこかげでやすんでいると、きのうえからこえがしました。
「こまっているんですかい? ヒッヒッヒ」
「ん?」
チーターくんがうえをみあげると、いちわのハゲタカがとまっていました。
「いったいぼくになんのよう?」
チーターくんがけげんなかおでたずねました。
「あなた、しごとにおわれるまいにちにうんざりしていますね?」
「えっ!? まあ、ちがうとはいえないな~」
「いいあんがありますよ。ヒッヒッヒ」
そういいながら、ハゲタカはチーターくんのよこにおりてきました。
「これは、とてもめずらしい“すべすべいし”です。これをそうげんのみんなにおうりなさい。めずらしいからたかねでうれますよ。ヒッヒッヒ」
ハゲタカにわたされたいしはたしかにすべすべしています。それに、あおやみどり、あかと、いろんないろをしていました。
「へ~、これはきれいだねぇ。でも、これをただでもらうのはもうしわけないなぁ」
「ヒッヒッヒ! だいじょうぶ!」
ハゲタカはいいました。
「あなたがうったおかねのはんぶんをもらえればよいのです。どうです?」
「そうはいってもねぇ……」
チーターくんは、てのひらのいしと、よこにつんであるゆうびんぶつをみくらべながらまよいました。
すると、ハゲタカはもどかしげにいいました。
「いましかないですよ! このすべすべいしをうるけんりをてにいれられるのは!」
そうしてそらにとびあがってあいずをすると、きのうえからはハゲタカたちがおおぜいとびだしてきたのです。
「わぁ! そんなにいたのか!」
おどろくチーターくんをしりめに、ハゲタカたちはそらにうたいました。
いましかない!
いましかない!
このチャンスをてにいれられるのは!
きみしかいない!
きみしかいない!
このチャンスをものにできるのは!
まいにちまいにち
おしごとばかり
ライオンをみろ!
あいつはのんびりいきている!
くやしくないのか?
みかえしてやりたくないのか??
「た、たしかにみかえしてやりたいよ! でも、きれいだけれど、これはただのいしでしょう?」
チーターくんはハゲタカのがっしょうにおされながらもそうたずねました。
いいんだよ!
いいんだよ!
かいてがそれでいいのなら!
つまらないものも!
くだらないものも!
ほしけりゃたかねでうってやれ!
いいんだよ!
いいんだよ!
ちょっとくらいうそつきでも!
おかねのないしょうじきものより
おかねもちのうそつきのことばを
みんなありがたがるものさ!
「そ、そう? そこまでいうのなら、ぼく、やってみるよ!」
チーターくんはそういって、ハゲタカにもらった“すべすべいし”をたくさんかかえてそうげんをはしっていきました。
ハゲタカたちは、チーターくんがみえなくなったあと、チーターくんがおいていったゆうびんぶつをてにとりました。
そして、それをびりびりにやぶきはじめたのです。
かかったぞ!
かかったぞ!
おろかなチーターがわなにかかった!
これではいたつのしごとにはもどれまい!
うたのつづきをさけびます。
だまされた!
だまされた!
そうさ、あれはただのいしころ。
な~んのかちもありゃしない。
でも、みんながそれにきづいたときにゃ、おれたちゃいない。
だっておれたちゃとべるもの!
どこかとおくへにげるもの!
とべないおまえがただひとり、わるものになるのさ!
ライオンにでもくわれるがいい! ヒ~ッヒッヒ~!!
***
ハゲタカたちのわるだくみとはつゆしらず、チーターくんはみんなにすべすべいしをうっていきました。
「これはね、めずらしくてとってもかちのあるいしなんです」
「これをかって、もっておきなさいよ。いまにねがにばいさんばいにもなるんです」
「ゆうびんぶつ? そんなものはありませんよ、ぼくはすべすべいしのしょうにんになったんですから……」
ひつじさんややぎさん、ひょうさんと、そうげんのみんなにいしがいきわたったとき、チーターくんのさいふはパンパンになっていました。
「わっすごい! これならはんぶんをハゲタカさんにはらっても、はんとしはこまらないぞ!」
チーターくんはおもわずぴょんぴょんはねながらそうげんをあるいています。
ふと、むこうにおおあくびをするライオンがみえました。
「あ、ライオンさんだ! おかねもちのライオンさんには、ふつうのひとのさんばいのねだんでうってやろう!」
そこでチーターくんは、じぶんがへいきでひとをだまそうとしていることにはじめてきづきました。そして、あわててじぶんにいいきかせたのです。
「いいんだよ! おかねもちがおかねをつかってくれなきゃね! これはみんなのためにもなるんだ!」
そしてライオンのまえにいくと、チーターくんはいいました。
「ライオンさんライオンさん、すべすべいしをかいませんか? とってもめずらしくて、かちのあるものなんですよ!」
しかしライオンはそのいしをちらりとみて、そっけなくいいました。
「えんりょしておくよ」
「えっ? こんなにかちがあるものなのに?」
「かちっていうのはね、うりてじゃなくてかいてがきめるものなんだ。そのいしはたしかにきれいだが、たべられるわけでもないし、おなかをあたためてくれるものでもない」
「そんなぁ……」
チーターくんはしょんぼりとライオンのもとからたちさりました。
「けっ! まったく、かねもちってやつはこれだからいやなんだ! あいつらさえいなきゃあみんなしあわせになれるのに……!」
そうぐちをいいながら、ハゲタカのいるきへとあるいていきました。
「ヒッヒッヒ! こんなにもうけたんですかい! いやすごいね、チーターくん」
「えっへん!」
「じゃあはんぶんはもらうことにして、はんぶんはあなたにあげましょう」
「ありがとう!」
「じゃあ、ワシらはこれで」
「えっ? もうすべすべいしはないの? もっともっとうれるのに……」
「そんなにほしいか? じゃあ、ほんとうはワシらのぶんなんだが、のこりのすべすべいしをうってあげよう。そのかわり、もうはんぶんとひきかえだよ」
チーターくんはまよいました。ハゲタカたちからのこりのすべすべいしをもらうには、いまのじぶんのわけまえも、てばなさなければならないからです。
でも、チーターくんはかんがえました。
(かったすべすべいしをうればまたもうかるし、そのときはぜんぶじぶんのもうけになるんだ!)
「じゃあ、そうしうよう!」
ハゲタカたちはてもちのすべすべいしをぜんぶチーターくんにあげると、そらのむこうにとびたっていきました。
***
ハゲタカたちがとびさってすこししたあと、わたりどりたちがそうげんにやってきました。わたりどりたちは、いちねんえおかけて、とおくとおくへたびをしているのです。
そうげんのどうぶつたちは、チーターからもらったすべすべいしをこぞってわたりどりにじまんしにきました。
「これ、みてよ。きれいでしょう?」
「わたしのはむらさきなの」
「あら、わたしのはピンクですよ」
しかし、わたりどりたちはあきれたかおをしていいました。
「それ、かわらにおちているただのいしじゃないか。いったいいくらでかったんだい?」
みんなはふあんそうなかおになると、チーターくんにはらったきんがくをいいました。すると、わたりどりはもっとあきれがおになりました。
「あらら、おくさん。そりゃあだまされているよ。おきのどくさま」
そうげんのどうぶつたちはおこりました。そして、こかげでやすんでいたチーターくんをみつけると、にがさないようにとりかこんだのです。
いっぽう、なにもしらないチーターくんは、びっくりしたかおをしていいました。
「みなさん、いったいどうしたっていうんです?」
「あなたがうったすべすべいしね! ただどうぜんみたいじゃない!」
「どうしてくれるの、このさぎし!」
「おかねはかえしてくれるんでしょうね!?」
チーターくんはなにがなんだかわかりません。チーターくんは、ハゲタカのことばをすっかりしんじていたからです。
すべすべいしがそうげんではめずらしいだけで、かわらにはそこかしこにあるということをきいて、チーターくんはがくぜんとしました。
「そんな……」
でも、おかねをはらいもどそうにも、もうおかねはありません。けっきょくぜんぶハゲタカたちにわたしてしまったからです。
ふるえるこえでそのことをうちあけると、そうげんのどうぶつたちのいかりはちょうてんにたっしました。
そして、みんなでチーターくんをしばりあげると、
「ライオンさんにさいばんをしてもらおう!」
といって、ライオンのもとへひきずっていったのです。
***
「いったいどうしたんだ? みなものもの……」
ライオンはさいしょはおどろいていましたが、みなからじじょうをきくと、すべてをさとったようにいいました。
「やはりな、チーター。おまえがいちばんだまされていたのだよ……」
「ぼく……ぼく……。とんでもないことをしてしまいました……」
チーターくんはそういうと、しくしくなきはじめました。
「ひあぶりだ!」
「ハイエナにくってもらおう!」
そうげんのどうぶつたちがいかりのこえをあげます。
チーターくんは、じぶんのいのちがのこりすくないとおもって、いっそうなみだをながしはじめました。
いっぽうライオンはしずかにチーターくんとほかのどうぶつたちをながめたあと、こういいました。
「よし、みなのもの。このチーターをひあぶりにしよう」
「よし!」
「そうこなくっちゃ!」
どうぶつたちがかんせいをあげます。チーターくんはまっさおになってしまいました。
しかし、ライオンはつづけました。
「だが、そのまえにおしえてくれ。ひつじ、やぎ、そのほかこのすべすべいしでおかねをうしなったすべてのものたちよ。このチーターをひあぶりにすれば、そのおかねがもどってくるのかね?」
そのことばに、いっしゅんでねっきょうはきえさりました。みんなひそひそごえでそうだんしています。
ライオンはさらにいいました。
「このチーターをひあぶりにすることも、すべすべいしにおかねをはらうことも、おなじことだとなぜきづかないのかね?」
みんな、きまずそうにかおをうつむけました。しずかになったあと、ライオンはチーターくんにいいました。
「チーターよ。おまえだけがおろかものだったわけではない。しかし、おまえがことのほったんなのだから、つぐないをしなさい」
そして、ふたたびどうぶつたちにかおをむけました。
「みなのもの。このおろかなチーターにもういちどチャンスをやってくれまいか? このものは、すべすべいしをうるまえはきちんとゆうびんぶつをはこんでいたではないか?」
ひつじたちはすこしだまっていましたが、やがてくちぐちにいいました。
「あしのはやいあんたにやってもらいたいしごとがあるよ」
「そくたつをはこんでくれ!」
「ハイエナどものみはりをすこしかわってくれ!」
チーターくんはいわれたしごとを、すべてうけることにしました。
***
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いまは、ゆうびんぶつをはこぶだけではなく、いろいろなしごとをこなせるようになりました。そしてそのぶん、かせぎもすこしはよくなりました。
いそがしくそうげんをはしりまわっていたとき、ライオンがまたおおあくびをしているところにでくわしました。
チーターくんはおずおずと近づくと、ライオンにはなしかけました。
「あの……ライオンさん、あのときはぼくのいのちをたすけていただいてありがとうございました……」
「きにせんでいい」
いまでは、これまでたかびしゃだとおもっていたライオンのそっけなさに、ふかいやさしさをかんじられるようになっていました。
「ぼく、そうげんでがんばります!」
そういってたちさろうとするチーターくんを、ライオンがよびとめました。
「チーターや。おかねをかせごうとするまえに、じぶんはほんとうにいくらひつようなのかをよくかんがえなさい。それにきづければ、わけもわからずあくせくうごきまわることもなくなる。もっとおおらかにじんせいをたのしむことができるよ」
「はい!!」
チーターくんはにっこりといいました。
チーターくんはもう、ひとをだますざいあくかんにさいなまれることもなければ、ひびにふまんやふあんをかんじることもなくなっていました。
みんなのやくにたってかせいだおかねで、くらすことができるようになったからです。
きょうも、チーターくんはそうげんをはしりまわります。げんきに、のびのびと。
「ただいま!」
チーターくんが、ひろいそうげんにむかってさけびました。
***
エピローグ
すべすべいしじけんからいちねんがたったころ、ライオンがそうげんのどうぶつたちみんなをディナーにしょうたいしました。もちろん、チーターくんもネクタイをしてさんかしています。
「いったいどうしたんだろうね、ライオンさん」
「きょうはなにかのきねんびだったっけ?」
ざわめくかいじょうのステージに、ライオンがたちました。
「きょうはよくきてくれたね、しょくん。さっそくだが、きょうのメインデッシュをごしょうかいしよう!」
そういってライオンがゆびさしたさきには、まるやきになったハゲタカが、なんばもおさらにならんでいました。
「さあ、とられたおかねをかえしてもらおうぞ」
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珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。
一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。
ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。
カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。
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