空っぽ少年と色深き者たち ～世界を彩る物語～

終わりと出会い

街道を駆けて

シオンは男が食べ終わるのを、傍で待ちながら男を観察し始めた。

年は30歳くらいかしら、種族は特徴がないから人間ね。食欲はあるみたいで良かったわ、後は事情聴きたいところだけど・・・無理そうね。

男は食べている間も呆然とした様子で目の焦点がシオンに合わなかった。怒りや悲しみを露わにすることなく、淡々と食べる様子にシオンは心を痛めながらもこれからのことについて男に話す。

「食べながら聴いて欲しいのだけど、貴方の安全確保をするためには私の実力だと不安が残るの。だから、街に急いで行くことにしたわ。貴方は怪我をしているから私が担いで運ぶことになるけど大丈夫かしら？」

これからの予定を話すが、男は返答をせずただ黙々と食べ進めていく

返答がないけれど、ほぼ確定事項だからいいでしょう

「行き先の街はイエリ―の街よ。食べ終わったら怪我の様子を見てから出発するわね。それともう1人一緒に街に郁子が居るから後で紹介するわね」

説明が終わると、一旦グレスの様子を見るために土小屋から出るとグレスは座ったままだった。グレスの横まで行くと、

「グレス　彼に貴方を紹介したいから一緒に来て」

グレスを連れて土小屋に戻ると男は食べ終わっており、呆然とした様子で虚空を眺めていた。シオンは男の傍に立つとグレスを紹介する。

「この子がさっき言った一緒に行く子よ。名前はグレス」

グレス男の前に立たせ、手で指すと男はグレスを虚ろな目で捉える。そして、いきなり泣き出した。

「マナ・・・マナ・・・俺の宝物」

包帯が巻かれた両手で顔を覆い、苦しそうな声で誰かの名前を呟き、叫ぶような泣き声が土小屋に響き渡る。包帯はあっという間に水分の許容量を超え吸えなかった涙が両手から零れ落ちる。

きっとお子さんを思い出してしまったのね。

男の子どもは性別は違うが、グレスと同じくらいの年であり背丈も同じくらいだろうグレスを見たことによって子どもを思い出したのだろう。シオンは男を落ち着かせるために一旦グレスを土小屋から連れ出す。

「ごめんなさいグレス、彼が落ち着くまでここで待っててもらえる？」

焚火の傍にグレスを座らせると、シオンは鳴き声が響く土小屋へと戻った。男は変わらず悲しみに暮れており、シオンは男を落ち着かせるためにリュックから香炉を取り出すと、薬棚からラベンダーの香を取り出したいた。植物は、様々な効果を人間にもたらす。植物に含まれる成分では、怪我の治療を匂いによって人の心に作用する効果を持っている。ラベンダーは痛みに対しての鎮静作用や精神への鎮静効果を持っている。匂いというものは侮れないものなのだ。ラベンダーの香を効果が出てきたのか、段々泣く声が落ち着いていき泣き止むと同時に力なく崩れ落ちた。シオンは素早く男の傍に行き倒れる体を受け止めると横に寝かせた。

治療で体力が持っていかれているのに、さっきの号泣で体力を使い果たしたのね・・・仕方ない寝たまま運ぶしかないわね。

シオンは男の顔をタオルで拭うと、穏やかに眠っている男に安心するが今日は意識がない男を運ばなければならないため少し溜息を吐く。リュックを背負い朝食の後片付けをするとシオンは土小屋を解除し男を抱くと、焚火の傍で待っていたグレスに、

「さて、出発しましょうか。走るけど辛くなったら言ってね
「うん」

２人は街道をイエリ―の街に向かって走り出した。