求眠堂の夢食さん

和吉

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体育祭の種目を選ぼう!

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 黒猫さんが訪ねてきた日から土日を挟んだ次の週、学校のHRでは来月開催する予定の体育祭の種目決めをしていた。この学校の体育祭は種目を一から学生が決めて良いので、大きな道具が必要になる物や奇抜なものでも会議を通れば出来るのだ。なので、学生達から出される案は本当に多種多様だ。

「え~と、今出ているのは障害物競走、ドッチボール、バレーボールにパン食い競争、借り物競争にコスプレ競争と他に何かやりたいものありますか?」

 よくありそうな競技だが、備品を完璧に準備が出来るのでクオリティが違うらしい。例えば障害物競走は毎年候補に挙がるために、トランポリンや勢いよく登らなければいけない反り立つ壁などテレビ番組で見るような道具が揃っているらしい。コスプレも格安の店で買ってくるわけでは無く一から衣装を作ったりと力の入れ具合が中々だ。

「ダンスとかも良いと思います!」
「ダンスね、振り付けに準備が必要になるけど良いと思う」
「宝探しとかどうですか?学園内の色々な場所に隠して競争するとか!」
「それならスタンプラリーみたいなのが良さそう」

 一人が宝探しという案を出した後、それ良いねとクラスの全員が徐々に乗ってきた。俺も宝探しというのはとても良い案だと思うな~まだ学校の事を詳しく知らないから学校を探索する良い機会になるだろうし、問題を解きながら競争するのは楽しそう。

「問題はどうする?」
「まずは会議を通るかどうかだろ」
「あまりにも危険じゃない限りは会議を通るから大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、設置場所はどうしよう」
「一年だけだとあんまり学校の隅々まで知ってる人は居ないだろうな~」
「そこは委員会の先輩たちに協力してもらうよ」
「待ってる人はかなり暇じゃないかな?」
「確かに何もせず待つのは暇そう」
「全員で校内探す訳にもいかないもんね~」

 色々な案を出してきたがこの様子だと宝探し兼スタンプラリーの競技に決まりそうだな。だけど、他の人が言ってくれたように、競技に出られる数は限られてるし宝を探している間ずっと待機席で待つのはかなり暇そうだよな~

「じゃあ、放送部と協力して学校中を中継して貰いましょう」
「え、そんな事出来るの?」

 なんか大事になってきたぞ・・・・学校中を中継ってそんな事出来るのか?

「先輩に聞いたんだけど、昼休みにやっているラジオ放送があるでしょ?あれって前は学校のモニターを使って中継しながらやってたんだって。だから、多分出来ると思う!」
「おぉぉそれなら、待機組も楽しそう!」
「リアルタイムで見られるなら面白いと思う」

 放送部によって昼休みの時間はラジオ放送が流れているがまさか中継までやっていたなんて知らなかったな~昼休みのラジオ放送毎回話題が違ったり面白い話題を提供してくれるから結構面白いんだよな。

「あの!競技で携帯を使うのってありですか?」
「勿論大丈夫だよ」
「じゃあ、問題が分からない時待機組に連絡して一緒に解くのも面白いと思います!」
「確かに!」
「良いねそれ」
「もういっそ競技に参加している人達には地図を渡さないで、待機組が問題の場所まで誘導するって感じにしても面白そうじゃない?」
「それいい!!」
「それなら待機組も一緒に競技をやってる感でそう!」

 次々と面白そうな案が出てきて俺もそんな競技なら楽しそうと一緒に案を出していく。宝探しというのは体育祭としては異質かもしれないが、自分達の好きに競技を決めて良いなら大丈夫なはずだ。普通の競技もしながら、特殊な競技もやっていきたいなと来月開催予定の体育祭に期待を胸膨らませる。

「それじゃあ、今出た案を纏めて今日の会議に出しておきますね。恐らく案は通るだろうから期待しててね!もし無理だと言われても、無理やりにでも通するから!」

 そう言った花咲さんの目には熱い炎が宿っていた。彼女ならきっと委員会で案を通してくれるだろう。時は過ぎて昼休み俺達は昼食を摂っていると、爽太がそう言えばとある事を話し始めた。

「クラスTシャツのデザインを描いてくれる人が決まったぜ」
「お、マジで?」
「へ~誰に決まったの~?」
「藤沢さんが描いてくれることになったぜ。帰りのHRでどんなデザインが良いか聞くから出来るだけ案を考えておいてくれるか?」
「承知した」
「了解~」
「クラスTシャツか~どんなデザインが良いかな」

 俺はそこまでデザインのセンスがある訳では無いので案と言われてもな~思いつくのは有名キャラクターとか無難に番号と名前が入ったサッカーのユニフォームのようなもの。完全オリジナルなTシャツも良いけど、デザインは思いつかない。求眠堂で働くようになってからは、妖怪のことやアロマの原料になる植物の事を学んでいるからか思いつくアイデアはそっち方面ばかり。モフちゃんや黒猫、獏をモチーフにする訳にもいかないしな~

「クラスTシャツって文化祭にも使うんだよね~?」
「おう、そのつもりだぜ。まぁ意見が多ければ新しく作るっていうことも出来るけどな」
「ふむ、またデザインを決めるのは手間だろう」
「じゃあ、文化祭体育際どちらで使っても違和感がないデザインが良いのか~」
「むずくね?」
「文化祭の内容がまだ決まっていないからね~」
「難しいが考えておこう」

 そっか、文化祭でも使うんだからあまり攻め過ぎたTシャツにするのは駄目だよな。もうウケ狙いで赤色に熱血!とか考えたけどそれは流石に駄目だな。日向と大和も体育祭と文化祭を両立できるデザインと言われ難しそうに顔を顰める。

「まぁデザインを決めなくてもモチーフとなる案を出してくれるだけで良いからさ」
「分かった」

 爽太は軽く考えてくれと言ってたが、出来るだけ協力しないとな。う~ん、折角作るなら団結感が出る奴が良いよな。うちで提案した種目は宝探しだし、トレジャーハンター風?駄目だ某音楽と共にカウボーイハットとシャツが出てきてしまう。流石にそれは地味だし色々とアウトな気がする。

「あ、やべ次移動教室じゃん」
「そういえばそうだったね~」
「うむ、遅れないよう急いだ方が良いな」

 クラスTシャツのことを悩んでいると、あっという間に昼休みが終わってしまい俺達は授業に遅れないよう急いで片づけをして次の教室へと急いだ。

 案が纏まらないうちにあっと言う間に午後の授業が終わってしまい早速クラスTシャツの案をクラス全員に聞き始めた。

「それじゃあ、取りあえず案だけで良いので。何かある人手上げて~」
「ユニフォームみたいな奴で良いんじゃね?」
「それだとちょっと個性無くない?」
「でも、奇抜な物にすると色々大変じゃないか?」

 色々な案が出されるなか俺は夢食さんに教えてもらった事を思い出していた。確か協力の花言葉を持っているのはブルーデイジーやニリンソウだったっけな。でも、ブルーデイジーをモチーフにするには少し派手だしニリンソウだと素朴過ぎるか?他に協力とかの象徴だと円とか手かな。後は生き物だとミツバチが協力のモチーフになっていたはず。この中から選ぶなら円だけど流石にそれは地味すぎるしデザインセンスが求められる。良い案思い浮かなばいな~

「宝探しを企画したのだから財宝とか!」
「武器をモチーフにするのはちょっと威圧感あるよね」
「ウロボロスとか!」
「何それ」
「尻尾を咥えた龍!」
「却下」

 その後も次々と案が出されていったが最終的に収拾がつかない程大量の案が出されてしまったので、考えを纏めるために今日は一旦解散となった。取りあえず案の方針としては協力や探求といった感じのもを考えてきてくれと言われたけど思いつかないな~・・・・

 夢食さんに聞いてみようかな~と思いながら道を歩いているとふと空に何か飛んでいることに気付いた。

「なにあれ・・・・ビニール袋?」

 少し遠くて見づらいが、前方の空に白くてひらひらし物体が空を飛んでいる。風が強い日にビニール袋が飛ばされているのはよく見るが、今日は全くと言って良いほど風が無いからあんなゆらゆらと飛ぶはずがない。それにこの普通のようで何処か引っ掛かり気になるこの感覚は何度か経験したことがある。恐らくあれは妖怪だ。

 暫くの間妖怪だと思われる白い物体を眺めていたが、ゆらゆらと飛んでビルの影に入ってしまったのでまた歩き出し求眠堂へと向かった。
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