求眠堂の夢食さん

和吉

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初めてのアルバイト2

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 一つ一つ丁寧に掃除している間夢食さんは、引き出しにしまっていた本を見たり店の奥に行き何かを取り出してきたりと色々していたみたいだが俺が掃除を終わるころには机に体を預けだらけていた。

「掃除終わりました~」
「おう、お疲れ~もう仕事ないからこっち来て茶でも飲んでろ」
「え、あはい」

 俺は言われた通り夢食さんの元に行き座布団の上に座りお茶を飲む。夢食さんは奥から大福を持ってくると

「ほれ、お前も食べろ」
「え、ありがとうございます。・・・・美味しいですねこれ」
「すぐ近くにある和菓子屋の塩大福だ。俺のお気に入りなんだよ」

 貰った大福はもっちりとした皮の中にたっぷりのこしあんが入っているが、甘さは控えめになっておりぺろりと食べてしまえる美味しさだった。夢食さんはそれをニコニコと美味しそうに食べ終わると

「ちなみに客が来るまでもう仕事ないから携帯弄るなり本読むなり、寛ぐなり好きにして良いぞ」
「えぇ、俺掃除しただけですよ!?もう仕事ないんですか!?」
「そりゃお前、俺一人で余裕があるくらいなんだから仕事が沢山ある訳ないだろ」
「えぇ・・・・」

 掃除しただけでもう仕事は無いと言われ、あまりの仕事の無さに引いてしまった。アルバイトってもっとこう忙しいイメージがあるんだけど・・・・

「朝から夕方は客が来ねーから暇なんだよ。客室の掃除は朝のうちに終わらせちまうからな」
「この店大丈夫なんですか・・・・」
「土日はある程度人来るから、平日よりは忙しいぞ。うちは眠りどころを提供する以外にもアロマを届けたり作って売ったりしてるから経営自体は問題無いぞ」
「へ~そうなんですか。あ、じゃあさっき取り出していたのってそれ関係ですか?」
「そ、注文されていたバスソルトを作るために塩持ってきたんだよ」
「バスソルト?」
「あ~そのうち作ってもらう事になるだろうから教えておくか」

 そう言って机から紐で結んでいる本を取り出し、立ち上がりアロマ瓶を数本とって戻ってくると乳鉢と乳棒、そして乾燥しているオレンジ色の何かを棚から取り出し

「それじゃあ、まずバスソルトについて。バスソルトっていうのは天然塩にアロマを滲みこませてつくったのもで入浴の時にお湯に溶かして作るんだ。作り方はとても簡単で天然塩にアロマを適量垂らして作る。俺が何時も作ってるのは300gだから20滴ほどだな。複数種類のアロマを入れることがあるんだが、それについてはこの本に書いてあるからその通りに書いてくれればいい。」
「なるほど・・・・」
「んじゃ作って見せるな。今日作るのはオレンジとサイプレスの精油を使ったバスソルトだ。まず天然塩を300g乳鉢に入れて、そこに二つの精油を10滴ずつ入れよく混ぜる。この時塩を砕くように混ぜないこと、軽くだがしっかりとな。混ぜ終わったオレンジピールを30gいれてまた混ぜる。これで終わりだ」
「本当に簡単ですね・・・・」

 慣れた手つきであっという間に作り終わってしまった夢食さん。思っている以上に簡単に作り方に俺でも作れるなとほっとしていると夢食さんは真剣な顔で

「だろ?作り方は簡単なんだがこれを作るには色々と注意点があるんだ。まずアロマの中には入浴に向かないアロマがあるんだ。例えば肌への刺激の強いバジルやユーカリは注意が必要だな。それに敏感肌やアレルギーなどもあるから調合するアロマは慎重に選ぶこと。今使ったオレンジは妊娠初期の人間には使用禁止だから注意の説明書きを容器に付ける事にしている」
「場合によっては駄目な物もあるんですね」
「そうだ、高血圧の人には向かないものもあるからアロマを使うときは必ず俺に確認をすること。相手の体調やアレルギーを確認することが大事だ」
「分かりました」
「ちなみに、使ったオレンジには光毒、つまり日光に当たることによって毒になってしまうものもあるからアロマの特性について把握しておくことが必要だ」
「毒って・・・・」
「命を脅かすほどでは無いが光に当たった部分がシミになってしまうから気を付けないと駄目だ」

 アロマってどんなもので大丈夫だと思ってたけど、体の害になるものもあるんだな・・・・

「今回これを注文した人は一度この店に来て、パッチテストをしているから良いがアロマを試す場合は必ずパッチテストを行うことを忘れるな」
「どうやるんですか?」
「精油一滴を5mlのベースオイルで薄めて肌に付け放置させる。それで30分ほど放置し反応を見る。そして、1日後また反応を見て確かめるんだ。もし異変があった場合大量の水で洗い流して酷い場合は皮膚科だな」
「そんなに時間掛かるんですか・・・・」
「おう安全に使うためには大事なことなんだ」
「そうなんですね・・・・」

 思っているよりも慎重に使う必要があると教えてもらい驚いていると

「これからアロマを使う事が増えるだろうから、精油の取り扱いについて注意する事を教えておくか。まず精油っていうのは何倍も濃縮してある物だから肌に触れる可能性がある場合必ず薄めて使うこと。そして内服をしないこと。海外だと病院で内服薬としてアロマを出される場合があるがそれは専門家である医師が処方をしているから大丈夫な訳であって日本では絶対にしないこと。オイルが付いた手で粘膜を触らないこと。例えば眼とかだな」
「分かりました」
「それとオイルを使うときは俺が一緒に居る時だけだ」
「了解です」

 説明されたことを逃さずメモする俺。これから、ここでバイトしていくためには色々な事を学んでいかないと。

「それじゃあ、次だな。この作ったバスアロマを詰める作業だ。この瓶に入れて何のアロマなのか説明を書いたシールを貼って終わりだ。箱詰めする時は説明書を入れるんだが今日はそれはいいだろう」
「なるほど」
「そのうちこの作業を頼むだろうから忘れないようにな」
「分かりました!」

 一連の流れの説明を終えた夢食さんは、道具を洗い片づけを手伝うとまたお茶を作りまったりする姿勢にはいった。俺も仕事が無いので一緒にゆっくりと聞きたかったことを色々聞くことにした。

「そういえば、俺の事夢人って言ってましたけどあれってどういう意味なんですか?」
「あぁ夢人っていうのはお前みたいに夢の中の出来事を完全に憶えられる人間の事を言うんだよ」
「へ~」
「夢の中に生きる人間、夢に依存をしてしまう人間、夢の中に居場所を見つけてしまう人間、夢の全てを憶えられる人間を総じて夢人って言うんだ。数はそこまで居ないがある程度は居るんだぜ」
「そうなんですか、俺と同じ体質の人が・・・・会って見たいな~」

 俺は楽しい夢ばっかり見るようにしてるけど、他に人はどんな夢を見てるんだろう。人によっては、恋愛の夢を見てたりして!色々な話聞いてみたいな。

「残念ながら俺が直接知ってる夢人はお前だけだな。他は俺の知人の知り合いだから面識は無いんだ」
「残念・・・・夢食さんの知人って妖怪ですか?」
「人間、妖怪どちらもだな」
「夢食さんは、夢人と知り合いと知り合いだから対処法を知ってるんですか?」
「いや、夢人については違う経緯で知ったんだ。俺は獏だから夢に関して色々学んでる時にそういう人間が居るって教えて貰ったんだ」
「教えてもらったって誰にですか?」
「・・・・内緒」
「えぇええ」

 夢食さんは基本的に何でも教えてくれるけど、夢食さん自身に関わる事はあんまり教えてくれない。あんまり探られたくないんだろうけど、隠されると気になってしまう。

「ま、そのうち教えてやるよ」
「本当ですか~?」
「本当本当」
「嘘くさい~」

 俺達は退勤の時間になるまで、お茶を飲みながらくつろぎ雑談を過ごした後家に帰ると父さんが難しそうな本を読みながらリビングで寛いでいた。

「ただいま、母さんと兄貴は?」
「母さんは明日友達と出かけるからもう寝たぜ。做夜は友達の所に泊まるって」
「そっか」
「覚は今日アルバイトだったんだろ、どうだった?」
「どうだったって言われても・・・・」

 掃除した後殆ど夢食さんとの雑談で終わってしまったバイト初日を話すと、父さんは顔を顰めながら

「なんだそれ、殆ど仕事してないじゃないか」
「そうなんだよね」
「その仕事場大丈夫か?騙されてるんじゃないか?」
「いや、そんな事は絶対無いよ!」
「本当か・・・・?一度顔を出した方が良さそうだな」
「え!いやいや俺を信じてよ!」
「お前の事は信じてるがそれとこれは別だ。お前はまだ社会経験が無いんだからな」
「えぇぇ」
「確か求眠堂だったな、金曜日案内しろ」
「え、そんな!」
「でなければバイトは禁止だ」
「ちょそれは困る!」

 何を言っても取り付く島もない態度を見せる父さん。夢食さんには、妖怪の事を絶対話すなって言われてるから父さんにはお店の事詳しくは話せない。だけど説明出来ないとバイトを禁止にされるしどうしよう・・・・
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