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イビルフライ

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「よし、これで粘液と魔石は回収し終えたな」
「粘液は硬化して防具とかにするんだっけ?」
「そうだな。他には溶解液にしたり魔法を壊す触媒にしたりとか色々だ」

 何でも溶かす悪食の王の粘液はコアを失った後でも、その性質が残っているため慎重に扱う必要があるが加工次第ではとても強力な防具や道具になるのでしっかりと回収しないとな。特殊な付与とスライムの粉を混ぜて作ったガラス瓶の中に回収しながら、念の為に周囲の警戒をしているが動物の気配が一切しない。あんなに派手に魔力放出したら魔力に惹かれた魔物が寄って来ても可笑しくないんだけどな~

「悪食の王を倒したのに動物達が帰って来ないな」
「あんなのが巣食っていたんじゃそうそう戻っては来ないさ。でも、時間が経てば元通りになるからそんなに心配しなくても大丈夫だぞ」

 動物達は馬鹿では無いからこの周囲は危険だと認識しているため近付いてこない。本能で危険性が無くなったことは理解してはいるだろうけど、今までの事を考えると近付けないのかな。

「後は時間が解決するか・・・・」
「森自体に影響は出て無いし生き物が生活する土壌は整っているから、時間は必要だが普通より早く元に戻るさ」

 悪食の王は生き物を食い続けるが森を傷付ける事はしない。それは生活する場所を奪えば獲物が居なくなってしまうというとても合理的な理由なのだが、そのおかげで森が元通りになるまでが早いのだ。最悪の魔物だけど、少しはマシな部分があるんだな。

「それじゃあ、回収も終わったことだしイビルフライに行くぞ~」
「お~・・・・」
「元気ないぞ~」
「イビルフライも同じくらい嫌だからな」

 悪食の王はとても厄介で強力な魔物だがイビルフライはイビルフライで厄介で嫌な性質を持っているのだ。俺との相性が最悪だから出来る事なら近付きたくないんだよな~

「そう言うなって。目撃情報はここから西側に進んだ所だって言うから索敵よろしくな」
「は~い」

 悪食の王みたいに一定の場所に留まっている魔物なら見つけるのが簡単だが、イビルフライは移動を続ける魔物なのでまずは見つけなくてはならない。俺は気分が乗らないが気持ちを切り替えると、西側に向かってブレストと一緒に走り出した。

「イビルフライと遭遇したらさっきと同じように俺は手を出さない方が良いんだよな?」
「おう、あいつは近づくのすら危険だから予めクロガネに結界を張っておくな。近くまで来るのは良いが俺の間合いには入らないようにしてくれ」
「ブレストの間合いって・・・・森から出るくらいしないと間合いからは出れないだろ」
「流石の俺もそこまではねーよ」

 ブレストの魔法剣はブレストが認識できる場所であれば如何なる場所にだって作り出すことが出来る。間合いから出るなんてほぼ不可能だぞ。揶揄うように言うと、ブレストは笑いながら俺の言葉を否定した。

「剣を振った時届かない範囲に居てくれれば良いさ」
「は~い」

 俺はブレストと話しながらも周囲を索敵し進み悪食の王の縄張りから出ると、急に生き物の気配を感じるようになってきた。周囲に俺達を狙う生き物達が沢山居るってのは恐ろしいが、一切生き物の気配を感じない不気味な場所よりマシだ。無意識に緊張していたようで、生き物の気配を感じた安心感にゆっくりと息を吐くとイビルフライ探しに集中することにした。暫く西へ向かいながら気配を探っていると、小さな気配が群がっている気配と死の匂いを感じた。

「ん?恐らくだけど痕跡見つけたかも」
「お、流石だ」

 俺達はその気配がする場所に向かうとそこにはアーマーボアが倒れていた。獲物が狩られ死んでいるのは森であれば普通だが、死骸の様相が普通じゃない。肉はほぼ無く骨が見えておりまるで貪られたかのような姿に、残りの肉を這い回る大量の蛆と茶色の蛹。地面に流れている血が固まっていないのを見るからつい先ほど死んだはずなのに、蛹が居るのはいくら何でも早過ぎる。

「お、確かにイビルフライの仕業だな。追えるか?」
「ん~・・・・いける」

 その死骸を見たブレストはイビルフライの仕業だと断言した。イビルフライは生きている獲物に自分の卵を産み付け、産み付けられた卵はすぐに孵化しその肉を食らい成長する。これだけならば普通の蝿と同じだが、厄介なのはその成長の速さだ。たった数分で肉を食い尽くし、蛹になりあっという間に成虫になった者達はイビルフライの配下となるのだ。イビルフライが通った場所は、死肉と蛆しか残らないと聞いたことがあるが、実際それ程危険な魔物なのだ。だがそれは痕跡を沢山残すということでもあるため一回痕跡を見つけてしまえば追うのは簡単だ。

「よし、急ごう。その前に処理はしておかないとな」

 ブレストはそう言って炎を纏った剣を作り出すと死骸に刺し蛆ごと全てを焼き払い灰へと変えた。このまま放置しておくと配下が増え、イビルフライを倒したとしても疫病を撒き散らす蝿の軍団が生まれてしまうからこいつらは見掛けたら全て燃やさないと駄目なのだ。

「クロガネ、死骸は全て見つけろ」
「分かってる」

 もうイビルフライの痕跡の特徴を掴んだから索敵範囲に入れば見逃すことは無い。俺達はイビルフライが卵を産み付けた動物達を全て燃やし、その跡を追っていくと俺の感知に無数の小さな生き物が集まっている膨大で蠢いている気配とその中にいる大きな気配を感じた。

「見つけた」
「よし、死骸を燃やしながら急ぐぞ」

 イビルフライまで一直線で近づきたい気持ちはあるが、死骸を燃やさなければ疫病を撒き散らす蝿の軍団が生まれてしまうため俺達は時間が掛かってしまうが一つ一つ一匹たりとも逃さないよう死骸を燃やし、周囲に死骸の気配が無くなってようやくイビルフライの元へ辿り着くことが出来た。

「見えたな」

 俺達の視線の先には大量の配下が集まり黒く一つの生命体の様に蠢きながら、その中央で虫の足のような杖を持ち、大きな目は赤く光り汚らしく口を常に動かせ拘束で羽を動かし浮かぶ蝿の気持ち悪さを詰め込んだ見た目をしている二メートルのイビルフライがいた。

「よし、さっさと片付けるか」
「よろしく~」

 悪食の王の気配を感じた時は、首を締められているような圧迫感と背筋を走る悪寒それに濃密な死の気配に圧倒されていたがこいつから感じるのはただ気持ち悪く蠢き合う大量の命の気配。故に恐怖は全く無いが気持ち悪すぎる見た目に嫌悪は感じてしまう。出来るなら近付きたく無いけど、今後こいつを相手する可能性もあるし後学のために見ておかないとな。

 ブレストは自身に結界を張ると俺と一緒にゆっくりと近付いていく。すると俺達の気配に気付いたイビルフライがまるで影が襲い掛かってくるかのように錯覚するほどの大量の配下達を嗾けてきた。一つの生き物に見えるが、その実態は細かな蝿が集まったものであり、枝や葉の隙間を自由にすり抜け俺達に襲い掛かるが、結界に阻まれ何も出来ない。それを見てイビルフライは杖に魔力を集め闇の触手の魔法を使って来る。

「害虫退治といきますか」

 ブレストは焦る事無く燃え盛る炎が剣になったかのような魔法剣を作り出すと、配下達に斬撃を放った。配下の蝿達は小さく剣を振った所で殺せず、普通はただ剣はすり抜けてしまうのだが炎は配下達を次々と燃やしていき黒く穢れた影はあっという間に炎に包まれた。

あいつらって一応火耐性持っているし、燃えた奴を切り離せるから燃やしたとしても大したダメージにならないはずなんだが・・・・

 ブレストの炎が燃え移るのが早過ぎで、燃えた蝿の切り離しが間に合わず次々と死んでいく配下達。

「ギィイイイ」

 それを見てイビルフライは気持ち悪く甲高い鳴き声を上げ、杖に魔力を籠め大きな魔法を使おうとしたがそれをブレストが見逃す訳が無く。一歩の踏み込みでイビルフライに肉薄すると体を真っ二つに斬りそのまま燃やし消し炭へと変えた。

「あとは、配下の奴を全て燃やして終わりだな」
「あっさり倒し過ぎだろ・・・・そいつ二級なんだぞ・・・・」

 悪食の王の時もそうだがイビルフライもあっさりと倒してしまい二級の魔物がしょぼく見えてしまうが、これは単純にブレストが馬鹿みたいな強さを持っているだけだ。あんな戦い方をしたら普通は死ぬからな。

 ブレストの強さに呆れながらも俺は配下を全て燃やし尽くすまで結界でその様子を眺めるのだった。
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