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茨の門番

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 そろそろ完全に夜になってしまう頃ようやく町に辿り着くことが出来た。道中様々な魔物に襲われたが一緒に居るペシェさんには目もくれず、狙うのは俺達ばかり。守る必要が無いってのは有り難いけどここまで狙われないとなると、植人という種族は本当に特殊なんだと実感するな。そして特殊と言えばフォレシアの町も特殊なのだ。町は石造りの防壁の代わりに大きな根っこが絡み合いながら町を一周し囲んでいる。こんなにも巨大で生命力に満ち溢れている姿だというのに気配が薄くて、中に居る住民達の気配も掴みづらい。そして、本来であれば櫓か何かで俺達を警戒する衛兵達の姿が見えないない・・・・あぁ~あれか。

「これが噂のガーディアンツリーの根か」
「そうですよ~夜になってしまいましたが、私が居れば門番達は門を開けてくれると思うので少し待っててくださいね」

 通常夜になったら門は閉まり外部から町に入ることが出来なくなってしまうが、住民であるペシェさんが居れば特別に開けてくれるらしい。俺達はその言葉を信じ一緒に門まで歩いて行くと、左右から突然茨が飛び出し門を守るように塞いでしまった。

「茨・・・・どこからだ?」
「ブレスト、あそこに咲いているローズが植人なんだよ」

 ガーディアンツリーの根に巻き付くように咲いている深紅のローズを指さし教えてあげる。他にも俺のから7歩右に歩いた所に入るサンフラワーや左の枯れ葉を生やした木に巻き付いている蔦も植人だな。

「門番が居ないと思ったらなるほど、植物の姿になっていたのか。確かにあれなら全く気付かれる事無く見張れるし魔物もよって来ないだろうな」
「ロフレさん~私です~この人達は私を助けてくれた冒険者なんです。中に入れてくれませんか?」

 突然動き出した茨に驚く事無くいつもの事のようにペシェさんは茨に話し掛けると、その言葉を聞いた茨が動き出し門を塞ぐのを止めるとシュルシュルと音を立てながら縮んで行き現れたのは真紅の髪と茨のドレスを着た貴族のような美しさを持つ女性だ。この人がロフレさんかな?

「この度は我が町人であるペシェを助けて頂きありがとうございます。私はこの町の衛兵を務めておりますロフレと申します。冒険者であれば歓迎いたします。ですが恩人にこのような事を申すのは心苦しいのですが、念の為に冒険者証を確認させて頂きますか?」

 物腰は丁寧で感謝の意は感じるけど、流石は衛兵なだけあって俺達が冒険者では無くペシェさんを人質にしている可能性を加味して一切警戒を緩めてない。確認が取れなければ、左右に待機してる衛兵達が俺達を拘束してくるだろうな。

「了解、投げるぜ」
「同じく」

 一見俺達は拒絶されているように見えるだろうが、町の対応としては正しいものだ。警備が緩い町はあっという間に盗賊に襲われて全滅するだろうし、この町は国境から一番近い町だから変な奴も来るだろう。俺達は敵意を見せないよう慎重に冒険者証を投げそれを確認して貰った。

「三級冒険者ブレスト殿と五級冒険者クロガネ殿か。特徴も一致しているな、よろしい入ることを許可する」

 冒険者証と俺達を見比べ本人であることを確認すると大きく頷き入る許可を貰えた。彼女の合図で他の植人達の警戒も解いてくれたみたいだな。俺達が言うのは何だけど、こんな時間に町に入れて良いものなのか?普通はこんな時間になったら安全のために門を閉め、いくら身分が保証されていたとしても決して入れさせないのが基本のはずだ。なので、門限を過ぎた冒険者達は門の前で野宿して次の日の開門時間を待つのだ。中に入れてくれるならそれはそれで良いんだけどさ。俺達は冒険者証を返して貰い門に入る時ブレストが俺と同じことが気になったのか

「入れて貰えるのは有り難いが、夜に入れるなんて不用心過ぎないか?」
「そう仰るのは分かりますが、この森で野宿をするとあっという間に迷ってしまうので到着した段階で中に入れるしか無いのです。勿論危険な人物を招き入れてしまう可能性はありますが、私達にはガーディアン様が居ますから町の中の事は大丈夫なんですよ。なので、もし中で違反をすれば直ぐにバレますから気を付けて下さいね」
「なるほど?」

 半分理解できたけどもう半分が理解できなくて、少し曖昧な返事になってしまっているブレスト。俺も今の話はよく分からなかったな。森に入ると迷っちゃうのは身を持って体験しているから分かるけどガーディアン様が居るから大丈夫ってなんだ?ガーディアンと言う単語から連想するのはガーディアンツリーだけど、あの木が居ると悪事がバレるってなんだ?

「それでは、我が町スターリアにようこそ」

 疑問に思いならも歓迎の言葉と共に町の中に入ると、俺達が見てきた町のどれとも似つかない不思議な街並みが広がっていた。フォレシアは国全てが森に囲まれていて町は森の中にあると言う感じなんだが、町も似た感じなんだな。石や鉄を使わずにまるで自然に生えた木が家になったような姿をしていて枝や葉っぱそして花が家に生えている。道も土を平らにしているだけで石は混じっているが完全に煉瓦などで舗装されている訳じゃない。木の上に家があったりもして、不思議だが本当に森で暮らしているんだなと思えて俺は好きだな。所々見たことの無い植物がぶら下がったり道に置いてあったりするけどあれはどんな意味があるんだろう。まさに森が町になったという光景だ。

「凄いな、色々な所を旅してきたけどこんな町は初めてだ。似ている所だとエルフの町に似ているな」
「エルフの町に行ったことがあるんですか?中々行くことが出来ないと有名なのに凄いですね」
「あの光は・・・・なんですか?」
「ライトチェリーですね。日中に光を溜め込んで夜の間発光してくれるんです」
「鬼灯みたいな形をしてるな」
「ホオズキ?知らない言葉ですねそういう植物があるんですか?」

 珍しく不思議な光景に目を奪われていると、道や家を照らしている植物の名前をペシェさんが教えてくれたがあの不思議な形にブレストは見覚えがあるみたいだ。

「ん~遠く離れた場所にあれと似た形の植物があるんですよ。それが鬼灯と言う名前なんですよね」
「それはどんな効果があるものなんですか!?この国はかなりの数の植物があるんですけどそんな名前の植物は見たことも聞いたこともありません!」
「あ~赤くて蛇の目のような形をしているんですけど、毒があって妊婦がその植物で作った薬を飲むと危険だということくらいしか知らないですね。すみません」
「いえ、それだけでも貴重な情報です!なるほど、そういう植物もあるのですね・・・・後で図鑑で探してみましょう。そうだ、助けてくれたお礼も兼ねて私の家に泊まりませんか?」

 鬼灯と言う言葉の発音からして、ブレストが偶に教えてくれる遠く離れた場所にある植物なんだろうな。だから、多分図鑑で見つかる事は無いだろうけどそれは置いといて私の家に泊まりませんか・・・・?一体何を言っているんだ?

「あの・・・・女性がそんな事を言うのは止めた方が良いと思いますよ」
「あまりにも無防備だと思いますよ。俺達がいくら森で助けたからと言って、まだ出会ってから一日も経っていない人にそんな提案も信用もしては駄目です」

 あまりにも不用心過ぎて二人して説教みたいなことをしてしまうが、世の中良い人ばかりじゃ無いんだからある程度は自衛しないと駄目だぞ。

「ふふ、それを言う時点で信用しても良いと思うんですけどね。それに私の家には師匠もいますから私だけじゃないですよ」
「だと言っても師匠さんにも悪いですし」
「お二人はフォレシアに来るのは初めてみたいなので教えておきますけど、この町に宿はありませんよ」

 断ってもまだ勧めてくるので頭を痛めていると衝撃の言葉を言われてしまった。町に宿が無いって一体どういう事だ?

「え、それってどういう」
「この町に来る人は殆ど居ないので宿屋はやって無いんですよね」
「それじゃあ、冒険者は・・・・」
「広間があるので皆さんそこにテントを張ったりして野宿ですね」

 んな、宿屋が無い町って存在するのかよ!!それなら俺達も広間に行って・・・・

「なので、是非私の家に来てください。もう夜は遅いですしお礼として料理もご馳走します。そして明日は私が町のルールと案内をしてあげますよ」
「・・・・・」
「どうする?」

 何も知らない土地でそれは有り難いが・・・・良心がな。

「師匠さんが許してくれるのであれば一日だけ世話になっても良いだろうか?」
「えぇ勿論です!」
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