上 下
139 / 192

閑話:辺境の若き狼3

しおりを挟む
 クロガネ殿と話した翌日俺達はインセクト系統の数の多さを実感しながら森の中を進んでいると、角に花の蕾を咲かせた美しく可愛らしいディアと遭遇した。その魔物は初見で知識にも無かったが、見るからに好戦的では無くその体もしなやかでそこまで強力な力を持っているとは思えない。だが珍しいという相手を俺に任せてくれたので、嬉々として突撃するとそれに気付いたフラワーディアは逃げる様子を見せない。

よし、逃げないのであれば簡単に!

 そのまま頭に一撃を入れようと思うと、角についていた蕾が開花し甘い匂いがしたかと思うと、次の瞬間俺は意識を失ってしまった。

「はっ俺は一体何を・・・・確かフラワーディアから良い匂いがして・・・・」

 気が付いた時にはブレスト殿は笑いクロガネ殿は困った様子でロシェは心配そうに俺を囲んでいて、何があったか理解できていない俺は何があったのか聞くと、どうやら俺は眠らされてしまったらしい・・・・ブレスト殿の言う通り自分でも勝てる魔物だと見た目で安易に判断してしまっていたな。本で無害そうに見える魔物だとしても、強烈な個性を持っている者も居るのだと書いてあったのにこの体たらくか・・・・失態だ。今回は皆が守ってくれたから、無事だがもし一人だったと考えると恐ろしいな。今回の経験を教訓にして、次から分からない魔物は聞くことにしよう。だから、ロシェそう睨むんじゃない。ブレスト殿は俺に教えてくれただけなんだからな。

 その後フォレストウルフと遭遇し戦闘したが、こいつらは森によく出てくるから対処法は知っている。ウルフ系統は群れで行動し、狩りを行う際も群れで連携し一番弱い奴から仕留める習性を持っている。と言うことは、狙われるのは俺だな。俺を取り囲み同時に襲ってきた奴を、バトルアックスを振るい三つ同時に頭を跳ね飛ばし戦闘は終了した。魔物と戦いながら森を進んで行くが異変は見つけられずあっという間に時間は進み、日が落ち夕刻になってしまったので今日はこの辺で野宿だな。食事が終わりクロガネ殿はあっという間に寝てしまったので、俺はブレスト殿と少し話をすることにした。

「今日も足を引っ張ってしまい申し訳ない」
「そんなに気にしてると、参っちゃいますよ。俺達は気にしてませんし、学びの場を得たって前向きに考えれば良いんですよ」
「そうは言ってくれるが、気になるものなのだ」
「そうですか、じゃああまり思い詰めないようにしてくださいね。そういえば、クロガネと話は出来ましたか?」
「あぁ、少しだけだが話すことが出来た。優しいのだなクロガネ殿は」
「助けを求める相手には手を貸しますからね」
「出会いは最悪だったが、仲良くなりたいものだ」
「それなら、クロガネに色々聞いてみると良いですよ。聞かれたことは分かる範囲であれば答えてくれますし、拒否することは無いと思います。クロガネには俺の知識を叩き込んでありますから、俺に聞くのとそこまで差は無いですし」
「ふむ・・・・」
「交代の時起こしますから試してみてはどうですか?」

 本当はブレスト殿に魔物ことや森での動き方を聞こうと思っていたが、クロガネ殿と仲良くなってみたいしあの強さの秘密を知ってみたいな。なるほど、良い提案かもしれない。

「頼んでも良いだろうか?」
「えぇ勿論です。それじゃあ、夜遅くになりますから寝た方が良いですよ」
「分かった。それでは先に眠らせて貰おう。失礼する」

 ブレスト殿の提案を受け入れた俺は地面で寝る事にまだ慣れてはいないが、今睡眠を取っておかなければ夜に起きる事も、万全な状態で明日を迎えることが出来ないだろう。目を瞑り何も考えないようにしながら、横になっているとやがて眠りに就いてしまった。

「テセウ様、お時間です」
「・・・・あぁ感謝する」

 ブレスト殿がクロガネ殿に気付かれないよう俺を起こすと離れ、自分は寝る準備をして横になった。俺は起き上がりクロガネ殿の方を見ると昨日と同じよう、何かの魔法の練習をしていた。

随分まめなのだな。朝起きた時にも型の練習と魔法の練習をしていたしこのような状況だとしても、怠る事が無いのだな。暫くの間その様子を眺めていたが、こうしている間に貴重な時間が過ぎてしまうと思い立ち上がり近づくと

「夜更かしは良くないですよ」
「十分に寝たから問題は無い」
「そうですか」

 一瞬俺の事を拒絶しているのかと思ったがただ俺の事を心配して声を掛けてくれたみたいだ。昨日と同じように隣に座ると、特に話すことなく魔法の練習を続けているクロガネ殿にまずは今日の謝罪を言わなくてはな。

「今日は大変迷惑をかけた、すまない」

 クロガネ殿もブレスト殿と同じようを気を付けなくて良いと言ってくれるが、経験不足を理由にして済ませて良い問題では無い。そもそも俺があのような判断をしたのは、俺であれば勝てるという満身から起きた出来事なのだから改めなければ。

 え、俺なら問題ないとはどういう事だ?

 確かに勿論同じような失敗をしないよう何度も何度もあの場面を思い出し次は上手くやるための方法を考えてはいるが・・・・こんな俺の事を信じてくれるのか。それならば、俺もその期待に応える為に色々な事をクロガネ殿から学びたいのだが、良いだろうか?

 よし、許して貰えたな。

 さて、聞きたい事は沢山あるんだ。どうやって森の中を足音も立てずに歩いているんだ?癖だと?その方法のコツはあるだろうか。フラワーディアの対処法はどうすれば良いのだ?俺の考えだと近づいた者に反応し花を開花させるのであれば、遠距離から魔法で潰してしまえば・・・・その方法だと素材が台無しになるか。なんと、あの角は高値で取引され良い薬の材料になるのか。それならば潰す訳にはいかないな。つまり、魔法であいつを囲んで逃げ場を無くし遠距離による攻撃で倒せば良いということだな。

 フラワーディアの特性で魔力を敏感に察知するから魔法を準備している間に逃げられる可能性があると

 むぅ中々に難しい相手なのだな。素早く魔法を使えば問題無いと言うが、俺はどうしても詠唱が必要なんだ。そもそも、クロガネ殿は何故あのような高等な魔法を使っておいて詠唱が必要ないんだ?何となく出来るようになっただと、これが差か。

 遠慮なく多くの質問を投げかけるが全く嫌な顔をすることなく答えてくれるクロガネ殿。俺が持っていない知識を沢山持っている様で、魔物や森そして戦いの事に関しては全く悩む事無く答えてくれるので相当勉強して来たことが分かるな。その間も魔法を練習する手を止めていないが、本当にその魔法は一体何なんだ?木片が形を変えたり炭となったりと忙しないみたいだが・・・・

 色々な事を質問し答えて貰っていると、あっという間に時間は過ぎて行き空は明るくなって来てしまった。

「そろそろ時間ですね。もっと質問に答えてあげたいんですけど、ちょっと朝の鍛錬だけやらせてください」
「あぁ、勿論だ。見ても良いか?」
「良いですけど、面白い物じゃないですよ」

 そう言って立ち上がったクロガネ殿は少し空間のある場所に居くと、腰に携えたナイフを抜き目にも止まらない速度で素振りをし、体も動かしながらまるで見えない相手と戦っているかのような動きをし始めた。俺には無い身軽さと素早さ、そして高速の連撃に柔軟さに目を奪われてしまった。そして一通りの動きが終わると、魔法の矢を無数に作り出してはゆっくりと動かし体の周囲に纏うように動かし始めた。

 なんて数だ。動きは遅いがあの数を一度に操るのは相当な精神力が必要になるはずだ。

「クロガネ殿は何かの型を習ったのか?」
「いや、全部自己流ですよ」

 実践で使える程の動きを自分で作り出した訳か・・・・流石だな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

処理中です...