48 / 49
048 ライブ配信
しおりを挟む
「どういう……」
ボクの言葉が終わるより前に、アイリが何かの呪文を唱えだす。
「リーシャ? リーシャって、まさか……」
奥にいた女性が何かを考えるかのように、リーシャを見ていた。
しかしアイリの呪文が危険だと判断したのか、もう一人の武闘家らしき男が路地からアイリ目掛けて飛び出してくる。
「ぽち、お願い!」
ボクは咄嗟にぽちの名前を呼んだ。
するとそれだけで何が言いたいのか理解したのか、ぽちはその大きな翼を広げ飛ぶ。
そして空から急降下してきたかと思うと、その鋭い爪を使って武闘家の両肩をガッチリと掴んだ。
「な、お、おい! 離せ‼」
いきなり何が起こったのか分からない男は、上昇するぽちの足元で大きく抵抗する。
「……ぽち、下してだって。そのまま離してあげよぅ?」
「ぴよん」
「おい、馬鹿、やめろぉぉぉぉ」
路地の屋根よりも高い位置から、そっとぽちはその手を離した。
大きな音を立てながら、男は屋根の上を転がっていく。
「貴様!」
「パラライ‼」
いつもよりも、やや高い声。
その声はボクの背よりも高い位置から聞こえてきた。
敵から視線を外さないという絶対的な冒険者としての約束を無視し、ボクはそちらに視線を向ける。
アイリの前に、アイリよりも少し背の高い女性が立っていた。
白銀の髪に、色白い体、そして薄紫の瞳の人間。そう人間。
彼女は迷うことなく状態異常の魔法を放ち、それをまともに食らった二人が地面に這いつくばる。
「リーシャ……お前生きてたのか……」
「おあいにく様にね。あなたたちに呪いを押し付けられて、さらにダンジョンで死亡したことにまでされたけど? こうしてまだ生きてるわ」
リーシャと同じ名で呼ばれたその美しい刀剣とも思える女性は、紡いだ言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべていた。
ゆっくりと歩くその女性は、あの黒髪のリーダーの前まで来るとしゃがみ込む。
「一日だって、あんたたちのしたことを忘れたことはないわ。でも、これでやっと恨みが晴らせるみたい」
「だれが……お前の言いうことなど、誰が信じるものか」
「そうかしら? だって私の冒険者証を死んだからって、ギルドに届けたのはあなたたちでしょう?」
「だったら、なん……だと……? あの……時は死んだとおも……たと言えば済む話……」
「馬鹿ねぇ」
二人の会話の意味は、ボクには何となくしか分からない。
でも話し方といい、状況といい、この女性がリーシャ本人であり、しかもこいつらのせいで猫になんてされてしまったということだけは分かる。
「あーあ。死んでもない人の冒険者証を持っていくのは違反なんだよね」
「だったら……なんだ……」
「違反だって知ってて持って行った。生死は関係ない。むしろダンジョン内に置き去りにしたなんてことがバレたら、それだけでペナルティー食らっちゃいますもんね」
リーシャの代わりに、ボクは彼らにゆっくり近づく。
「はっ。そんなの……バレな……」
そう普通ならバレない。
一人で置いていかれれば、大抵の冒険者は生き残って生還なんて出来ないから。
そしてバレていないからこそ、こうしてこのパーティは上位に上りつめた。
リーシャという犠牲を払って……。
だけど、残念だね。
ボクが彼らに声をかけたのも、勝算もないのに近づいたのにも、全部ワケがある。
「これ、分かります?」
ボクは荷物の上に置いてある、水晶を見せた。
そう。勝算は初めからちゃんと用意していたんだ。
どう頑張っても逃げられないようにね。
「まさ……か」
「いつもは放送事故とかもあるし、絶対にやらないんですけどね。でも今回は緊急だし。生配信してみちゃいました☆ てへっ」
録画じゃなく、今この向こうにはすでにたくさんの視聴者がいる。
生配信にすれば、最悪彼らから攻撃を食らったとしても、そのうち気づいた人が通報してくれるはず。
本当はたぶん、こういう使い方をするようなモノじゃないんだろうけど。
でも今日は、きっとこれが正解。
だってほら……。
遠くから馬の足音が押し寄せてくる。
きっと街の警備か、ギルドか。これを見た誰かが呼び寄せてくれたのだろう。
ボクはその音を聞きながら、そっと胸を撫でおろした。
ボクの言葉が終わるより前に、アイリが何かの呪文を唱えだす。
「リーシャ? リーシャって、まさか……」
奥にいた女性が何かを考えるかのように、リーシャを見ていた。
しかしアイリの呪文が危険だと判断したのか、もう一人の武闘家らしき男が路地からアイリ目掛けて飛び出してくる。
「ぽち、お願い!」
ボクは咄嗟にぽちの名前を呼んだ。
するとそれだけで何が言いたいのか理解したのか、ぽちはその大きな翼を広げ飛ぶ。
そして空から急降下してきたかと思うと、その鋭い爪を使って武闘家の両肩をガッチリと掴んだ。
「な、お、おい! 離せ‼」
いきなり何が起こったのか分からない男は、上昇するぽちの足元で大きく抵抗する。
「……ぽち、下してだって。そのまま離してあげよぅ?」
「ぴよん」
「おい、馬鹿、やめろぉぉぉぉ」
路地の屋根よりも高い位置から、そっとぽちはその手を離した。
大きな音を立てながら、男は屋根の上を転がっていく。
「貴様!」
「パラライ‼」
いつもよりも、やや高い声。
その声はボクの背よりも高い位置から聞こえてきた。
敵から視線を外さないという絶対的な冒険者としての約束を無視し、ボクはそちらに視線を向ける。
アイリの前に、アイリよりも少し背の高い女性が立っていた。
白銀の髪に、色白い体、そして薄紫の瞳の人間。そう人間。
彼女は迷うことなく状態異常の魔法を放ち、それをまともに食らった二人が地面に這いつくばる。
「リーシャ……お前生きてたのか……」
「おあいにく様にね。あなたたちに呪いを押し付けられて、さらにダンジョンで死亡したことにまでされたけど? こうしてまだ生きてるわ」
リーシャと同じ名で呼ばれたその美しい刀剣とも思える女性は、紡いだ言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべていた。
ゆっくりと歩くその女性は、あの黒髪のリーダーの前まで来るとしゃがみ込む。
「一日だって、あんたたちのしたことを忘れたことはないわ。でも、これでやっと恨みが晴らせるみたい」
「だれが……お前の言いうことなど、誰が信じるものか」
「そうかしら? だって私の冒険者証を死んだからって、ギルドに届けたのはあなたたちでしょう?」
「だったら、なん……だと……? あの……時は死んだとおも……たと言えば済む話……」
「馬鹿ねぇ」
二人の会話の意味は、ボクには何となくしか分からない。
でも話し方といい、状況といい、この女性がリーシャ本人であり、しかもこいつらのせいで猫になんてされてしまったということだけは分かる。
「あーあ。死んでもない人の冒険者証を持っていくのは違反なんだよね」
「だったら……なんだ……」
「違反だって知ってて持って行った。生死は関係ない。むしろダンジョン内に置き去りにしたなんてことがバレたら、それだけでペナルティー食らっちゃいますもんね」
リーシャの代わりに、ボクは彼らにゆっくり近づく。
「はっ。そんなの……バレな……」
そう普通ならバレない。
一人で置いていかれれば、大抵の冒険者は生き残って生還なんて出来ないから。
そしてバレていないからこそ、こうしてこのパーティは上位に上りつめた。
リーシャという犠牲を払って……。
だけど、残念だね。
ボクが彼らに声をかけたのも、勝算もないのに近づいたのにも、全部ワケがある。
「これ、分かります?」
ボクは荷物の上に置いてある、水晶を見せた。
そう。勝算は初めからちゃんと用意していたんだ。
どう頑張っても逃げられないようにね。
「まさ……か」
「いつもは放送事故とかもあるし、絶対にやらないんですけどね。でも今回は緊急だし。生配信してみちゃいました☆ てへっ」
録画じゃなく、今この向こうにはすでにたくさんの視聴者がいる。
生配信にすれば、最悪彼らから攻撃を食らったとしても、そのうち気づいた人が通報してくれるはず。
本当はたぶん、こういう使い方をするようなモノじゃないんだろうけど。
でも今日は、きっとこれが正解。
だってほら……。
遠くから馬の足音が押し寄せてくる。
きっと街の警備か、ギルドか。これを見た誰かが呼び寄せてくれたのだろう。
ボクはその音を聞きながら、そっと胸を撫でおろした。
79
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる