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048 ライブ配信
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「どういう……」
ボクの言葉が終わるより前に、アイリが何かの呪文を唱えだす。
「リーシャ? リーシャって、まさか……」
奥にいた女性が何かを考えるかのように、リーシャを見ていた。
しかしアイリの呪文が危険だと判断したのか、もう一人の武闘家らしき男が路地からアイリ目掛けて飛び出してくる。
「ぽち、お願い!」
ボクは咄嗟にぽちの名前を呼んだ。
するとそれだけで何が言いたいのか理解したのか、ぽちはその大きな翼を広げ飛ぶ。
そして空から急降下してきたかと思うと、その鋭い爪を使って武闘家の両肩をガッチリと掴んだ。
「な、お、おい! 離せ‼」
いきなり何が起こったのか分からない男は、上昇するぽちの足元で大きく抵抗する。
「……ぽち、下してだって。そのまま離してあげよぅ?」
「ぴよん」
「おい、馬鹿、やめろぉぉぉぉ」
路地の屋根よりも高い位置から、そっとぽちはその手を離した。
大きな音を立てながら、男は屋根の上を転がっていく。
「貴様!」
「パラライ‼」
いつもよりも、やや高い声。
その声はボクの背よりも高い位置から聞こえてきた。
敵から視線を外さないという絶対的な冒険者としての約束を無視し、ボクはそちらに視線を向ける。
アイリの前に、アイリよりも少し背の高い女性が立っていた。
白銀の髪に、色白い体、そして薄紫の瞳の人間。そう人間。
彼女は迷うことなく状態異常の魔法を放ち、それをまともに食らった二人が地面に這いつくばる。
「リーシャ……お前生きてたのか……」
「おあいにく様にね。あなたたちに呪いを押し付けられて、さらにダンジョンで死亡したことにまでされたけど? こうしてまだ生きてるわ」
リーシャと同じ名で呼ばれたその美しい刀剣とも思える女性は、紡いだ言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべていた。
ゆっくりと歩くその女性は、あの黒髪のリーダーの前まで来るとしゃがみ込む。
「一日だって、あんたたちのしたことを忘れたことはないわ。でも、これでやっと恨みが晴らせるみたい」
「だれが……お前の言いうことなど、誰が信じるものか」
「そうかしら? だって私の冒険者証を死んだからって、ギルドに届けたのはあなたたちでしょう?」
「だったら、なん……だと……? あの……時は死んだとおも……たと言えば済む話……」
「馬鹿ねぇ」
二人の会話の意味は、ボクには何となくしか分からない。
でも話し方といい、状況といい、この女性がリーシャ本人であり、しかもこいつらのせいで猫になんてされてしまったということだけは分かる。
「あーあ。死んでもない人の冒険者証を持っていくのは違反なんだよね」
「だったら……なんだ……」
「違反だって知ってて持って行った。生死は関係ない。むしろダンジョン内に置き去りにしたなんてことがバレたら、それだけでペナルティー食らっちゃいますもんね」
リーシャの代わりに、ボクは彼らにゆっくり近づく。
「はっ。そんなの……バレな……」
そう普通ならバレない。
一人で置いていかれれば、大抵の冒険者は生き残って生還なんて出来ないから。
そしてバレていないからこそ、こうしてこのパーティは上位に上りつめた。
リーシャという犠牲を払って……。
だけど、残念だね。
ボクが彼らに声をかけたのも、勝算もないのに近づいたのにも、全部ワケがある。
「これ、分かります?」
ボクは荷物の上に置いてある、水晶を見せた。
そう。勝算は初めからちゃんと用意していたんだ。
どう頑張っても逃げられないようにね。
「まさ……か」
「いつもは放送事故とかもあるし、絶対にやらないんですけどね。でも今回は緊急だし。生配信してみちゃいました☆ てへっ」
録画じゃなく、今この向こうにはすでにたくさんの視聴者がいる。
生配信にすれば、最悪彼らから攻撃を食らったとしても、そのうち気づいた人が通報してくれるはず。
本当はたぶん、こういう使い方をするようなモノじゃないんだろうけど。
でも今日は、きっとこれが正解。
だってほら……。
遠くから馬の足音が押し寄せてくる。
きっと街の警備か、ギルドか。これを見た誰かが呼び寄せてくれたのだろう。
ボクはその音を聞きながら、そっと胸を撫でおろした。
ボクの言葉が終わるより前に、アイリが何かの呪文を唱えだす。
「リーシャ? リーシャって、まさか……」
奥にいた女性が何かを考えるかのように、リーシャを見ていた。
しかしアイリの呪文が危険だと判断したのか、もう一人の武闘家らしき男が路地からアイリ目掛けて飛び出してくる。
「ぽち、お願い!」
ボクは咄嗟にぽちの名前を呼んだ。
するとそれだけで何が言いたいのか理解したのか、ぽちはその大きな翼を広げ飛ぶ。
そして空から急降下してきたかと思うと、その鋭い爪を使って武闘家の両肩をガッチリと掴んだ。
「な、お、おい! 離せ‼」
いきなり何が起こったのか分からない男は、上昇するぽちの足元で大きく抵抗する。
「……ぽち、下してだって。そのまま離してあげよぅ?」
「ぴよん」
「おい、馬鹿、やめろぉぉぉぉ」
路地の屋根よりも高い位置から、そっとぽちはその手を離した。
大きな音を立てながら、男は屋根の上を転がっていく。
「貴様!」
「パラライ‼」
いつもよりも、やや高い声。
その声はボクの背よりも高い位置から聞こえてきた。
敵から視線を外さないという絶対的な冒険者としての約束を無視し、ボクはそちらに視線を向ける。
アイリの前に、アイリよりも少し背の高い女性が立っていた。
白銀の髪に、色白い体、そして薄紫の瞳の人間。そう人間。
彼女は迷うことなく状態異常の魔法を放ち、それをまともに食らった二人が地面に這いつくばる。
「リーシャ……お前生きてたのか……」
「おあいにく様にね。あなたたちに呪いを押し付けられて、さらにダンジョンで死亡したことにまでされたけど? こうしてまだ生きてるわ」
リーシャと同じ名で呼ばれたその美しい刀剣とも思える女性は、紡いだ言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべていた。
ゆっくりと歩くその女性は、あの黒髪のリーダーの前まで来るとしゃがみ込む。
「一日だって、あんたたちのしたことを忘れたことはないわ。でも、これでやっと恨みが晴らせるみたい」
「だれが……お前の言いうことなど、誰が信じるものか」
「そうかしら? だって私の冒険者証を死んだからって、ギルドに届けたのはあなたたちでしょう?」
「だったら、なん……だと……? あの……時は死んだとおも……たと言えば済む話……」
「馬鹿ねぇ」
二人の会話の意味は、ボクには何となくしか分からない。
でも話し方といい、状況といい、この女性がリーシャ本人であり、しかもこいつらのせいで猫になんてされてしまったということだけは分かる。
「あーあ。死んでもない人の冒険者証を持っていくのは違反なんだよね」
「だったら……なんだ……」
「違反だって知ってて持って行った。生死は関係ない。むしろダンジョン内に置き去りにしたなんてことがバレたら、それだけでペナルティー食らっちゃいますもんね」
リーシャの代わりに、ボクは彼らにゆっくり近づく。
「はっ。そんなの……バレな……」
そう普通ならバレない。
一人で置いていかれれば、大抵の冒険者は生き残って生還なんて出来ないから。
そしてバレていないからこそ、こうしてこのパーティは上位に上りつめた。
リーシャという犠牲を払って……。
だけど、残念だね。
ボクが彼らに声をかけたのも、勝算もないのに近づいたのにも、全部ワケがある。
「これ、分かります?」
ボクは荷物の上に置いてある、水晶を見せた。
そう。勝算は初めからちゃんと用意していたんだ。
どう頑張っても逃げられないようにね。
「まさ……か」
「いつもは放送事故とかもあるし、絶対にやらないんですけどね。でも今回は緊急だし。生配信してみちゃいました☆ てへっ」
録画じゃなく、今この向こうにはすでにたくさんの視聴者がいる。
生配信にすれば、最悪彼らから攻撃を食らったとしても、そのうち気づいた人が通報してくれるはず。
本当はたぶん、こういう使い方をするようなモノじゃないんだろうけど。
でも今日は、きっとこれが正解。
だってほら……。
遠くから馬の足音が押し寄せてくる。
きっと街の警備か、ギルドか。これを見た誰かが呼び寄せてくれたのだろう。
ボクはその音を聞きながら、そっと胸を撫でおろした。
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