異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

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047 路地裏での指導

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「あれれ、どうしたんだろう?」

 ボクは彼らにわざと聞こえるように大きな声を出す。
 そしてゆっくり近づきながらも、距離を詰めすぎないように確認した。

 いくら動きが早い人間でも、間合いというものがある。
 そのギリギリまでで止まれば、一気に攻撃されることはない。

「なんだお前」
「何かあったんですか~? 人が倒れてて、しかも向こうの方まで大きな声が聞こえてきたんで」

 三人はボクを睨みつけた後、下から上まで確認するように見た。

「獣人の分際で、なんなの⁉」

 魔法使いとはまた違う軽装備な女性が金切り声を上げた。
 獣人の分際か。
 言われ慣れてはいるけど、久々に聞くと心にずしりとくるものがある。

「だってぇ、大きな声が聞こえたら気になるじゃないですか」
「ふざけんな。そんなもんは捨てておくんだよ、長生きしたかったらな」
「長生きっていったって、いつどうなるかなんて誰にも分からないじゃないですか」

 そう、あのサイラスたちのように。
 強くたって、事故は起きるし。
 
 関わらなければ大丈夫なんて保障はどこにもない。
 それだったら、したいことをしたいと思うのが普通なんじゃないかな。

 一番背が高くスラっとした黒髪の剣士が、冷たい目をボクに向けた。
 その瞳には、殺気が宿り、無言ながらに圧力がある。
 おそらく彼がリーダーなのだろう。

 やっぱりサイラスたちなんかより、ずっと強そうだ。
 ガルドさんとどっちが強いかな。
 いつもニコニコしていたから、あんまりガルドさんの本気な強さが分からないんだけど。

「あー、大丈夫?」

 それでもボクはそんな罵倒も視線も無視し、カメのようにうずくまる獣人の子どもに視線を合わせる。
 顔を少し上げたその子は、泥と涙でぐちゃぐちゃになった顔をしながら首を横にふった。

 そして声にならない声で『逃げて』とボクに呟く。

「ただ仲間に指導をしていただけだ。消えろ」
「指導? 指導って、蹴ったらどうにかなるんですかぁ?」

 そんなのでなるなら、誰も苦労などしない。
 体罰なんかじゃ、成果は出ないし、逆効果なのに。

 もちろんそんなの分かって、彼らはやっている。
 あれは指導なんかじゃない。

 ただの憂さ晴らしだ。

「死にたいのか?」
「やだなぁ、まさか」

 青筋を立てるリーダーに向かい、ボクは微笑んだ。
 さすがに煽りすぎたか。

 装備の揺れる音が聞こえる。
 一瞬でボクとの間合いを詰めようとしたリーダーとの距離をとるために、斜め右横にボクは飛ぶ。

 細い路地から出るには、相手はまっすぐしか進むことは出来ない。
 これで一旦距離は稼げるし、尚且つ相手は他の人目に付く大通りまで出てくることになる。

「ふざけやがって」

 しかしそれぐらいでは向こうの気は収まることはないらしい。
 
「こんな街中で武器を抜くなんて非常識じゃないですか?」

 ゆっくりと剣を抜いたリーダーを、ボクはにらみつけた。
 いくら上級者だからといって、こんな街中で武器を出すことは認められていない。
 そんなことくらい知っているはずなのに。

「びっくりするほど、最低ね。こんな人間がいるだなんて思わなかった。やはり外には出てみるものね」

 ボクのやや後ろにいるアイリが声を上げた。
 いつもよりかなり低く、威圧感のある声に、皆の視線が集まる。

「こいつの仲間か」
「仲間? もっと尊いものよ!」

 そこは、うん……変わらないんだ。

「痛い目にあいたくなかったら、その犬っころを連れてどっかに行くんだな」

 さすがに少しずつ人が集まりかけてきたことに、彼らも気づいたようだ。
 しかしそれでも、武器を下ろそうとはしない。

「うちのルルド君に向かって犬っころですって⁉」

 あああ、アイリ、怒るとこはそこじゃないよ?

 ボクが止めようとする前に、アイリは声を上げた。

「ねぇ、行けるでしょう? アタシだったら、あんたの呪い、少しの間だけ解いてあげれるから」
「……もちろんよ」

 アイリが声をかけたのは、ボクではなくリーシャだった。
 そしてリーシャはぽちの頭からスッと降りると、アイリの前に立つ。

「リーシャ?」

 ボクは二人の行動の意味が、まったく分からなかった。
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