異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

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041 それはすとーかー

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 街を出てからしばらく無言だったリーシャも、お昼ごはんを食べる頃にはまたいつものリーシャに戻っていた。

 本当は聞いた方がいいのかな。
 そんな風にも思ったけど、聞いてもボクは本当にリーシャの力になれるのだろうか。

 抱えているものの大きさが、なんとなく伝わってくるからこそ、結局リーシャが言い出すまでは待とう。
 そう考えてしまった。

 だからせめてリーシャの気持ちが落ち着くように。
 せめてものじゃないけど、ボクもいつも通り努めることにした。

「ルルド! 落ちるわよ?」
「えー?」

 崖の端で、水晶を掲げたボクはリーシャの言葉に振り返る。
 お昼ご飯を作るあたりから、初の旅配信を始めたところだった。

「大丈夫だよー。ほら、景色、綺麗ですよね」

 崖下には、青々とした湖が見える。
 崖近くまで近づかないと、木々に邪魔されてのぞき込むことが出来ないその絶景は、ここに来なければ見えないものだろう。

 湖は、海ではないかと思うほど大きく、その対岸は見えない。
 どこからか降りる場所があるんだろうけど、この位置からでは無理かな。

「リーシャも見てみなよ! すごいよー。湖面がキラキラしてる。中の石かなぁ。なんか宝石が沈んでるんじゃないかってくらい綺麗だ」

 どんよりとした朝とは変わり、雲の隙間から日が降り注ぐ。
 その光に反射するように、湖が輝いていた。

「だから、危ないってば」
「大丈夫だっ……うわぁぁぁぁぁ‼」
「ルルド!」

 崖のギリギリに立っていたボクの足場が、急にぬるりと落ちていく。
 その瞬間、体勢は崩れ足から落ちていく感覚を覚えた。

 まずいと思っても、両手で持っている水晶を離すわけにもいかない。

 木にぶつかりながら滑り落ちていくものの、その先を考えると気が遠くなる。
 しかし次の瞬間、体が軽くなった。

「ぅえ」

 恐る恐る目を開けると、ボクのリュックをぽちがその足で捕まえている。
 そしてそのまま器用に、元居た場所まで上昇してくれた。

「ううう。ありがとう、ぽち」
「ぴよーん」

 小首をかしげボクを見るぽちは、あまり事態を分かってはいないようだった。
 だけど褒めてと言わんばかりに、ボクに顔を近づけてくる。

「うんうん、ごめん、ありがとう。本当に助かったよ」

 ぽちを撫でると、やっと生きた心地がしてくるのが分かる。

「もー! だから危ないって言ったじゃないの、ルルド!」

 今にも泣きだしそうなリーシャが、ボクに駆け寄ってきた。

「ごめん、リーシャの言う通りだったよ」

 木々ですり切れたいたるところが痛む。
 ああ、失敗しちゃった。

 まだ旅は始まったばかりなのに。
 こんなことでポーション使っていたら、次の街までもたなくなっちゃう。

 へたり込み、しょぼくれるボクの頬に、よじ登ってきたリーシャが触れた。

「きゃーーーー、アタシのルルド君がぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「え?」
「へ?」

 ひと際甲高く、不釣り合いなほど大きな声が森の中に響き渡った。

 その声の主は、木陰から飛び出してボクに近づいてくる。

 えっと、なになになに?

 ハテナしか浮かばないボクたちとは違い、白銀の長い髪に薄紫の瞳をした16歳くらいの少女はボクに手を当てる。

「あ、の?」
「ヒール」

 呪文を唱えるその声は先ほどとは違い、涼やかな声質ながらも、しっかりとしたものだった。

 なんかこの子、聖女様みたいだなぁ。
 肌も真っ白だし。
 すごく綺麗だ。

「ふぅ。これで大丈夫」

 少女は汗でも拭うように、額を腕で撫でた。

 驚きながら、ボクは自分の体をくまなく見る。
 確かに、先ほどまで感じていた痛みは、もうどこにもない。

「すごーい。ありがとう」
「いいのよ、傷が残ったら大変だわ」
「んで、あんた誰?」
 
 今まで聞いたどんな時よりも低く、そして明らかに敵対心を込めながらリーシャがボクと彼女の間に立った。

 リーシャのその的確な問いに、ボクも冷静さを取り戻す。

 そうだった。
 ボク、確かにさっき名前を呼ばれたんだ。

「この前から虫が付いてると思ってたけど……」

 ブツブツいいながら、彼女は親指の爪を噛む。

「えっと……あの、お名前とか聞いてもいいですか?」
「ルルド君~。アタシはアイリ。んと、僧侶なの」

 リーシャを完璧に無視というか。
 ボクの問いに、アイリと名乗った彼女はとてもご機嫌そうだった。

 顔のやや下で両手を組み、にこやかな顔で頬を赤らめている。

 うん。益々この状況って……。

「アイリさん、あの……」
「さん、だなんて。アイリって呼んで?」

 語尾にハートが付いていそうなほど、アイリはボクが声をかけるたびに幸せそうな顔をする。

「アイリ、えっと君はどこから来たの?」
「どこから……そうね。王都からよ」
「うん。えっと……」
「だから、あんな何なのって言ってるのよ」

 そういえばさっきから、リーシャは普段通りだ。
 いつもなら、知らない人がいる時はちゃんと猫のフリをするのに。

 ビックリするほど不機嫌だし。
 どうしたんだろう。

「なに? アタシ今、ルルド君と会話してるんだけど。邪魔しないでくれる?」
「二人とも、喧嘩しないで。アイリはどうしてココに?」

「ルルド君のコトがずぅーっと気になって。この前の配信から、不用心だったし。だから……来ちゃったの」
「ふぇ?」

 来ちゃった?
 来ちゃったってことは、王都からってことだよね。
 ココからだと、かなり距離があるんじゃなかったかな。

 馬車を使ったって、それこそ1日や2日では来れない距離のはず。

 それなのに配信を見て、来ちゃったって言うのは……。

「追っかけ?」
「ストーカーね」
「ファンなの!」

 ボクたち三人の声は、見事に違う言葉でかぶってしまった。
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