39 / 49
039 さよならは
しおりを挟む
朝もやのような薄い霧が、街の中に立ち込めていた。
昨日のやや暑い日差しが嘘のように、風もただ寒い。
天気はこのまま下ることはないようだが、今日はこのままどんよりとした天気だと教えられた。
昨日は結局あのまま収拾が夜まで付かず、一日街で過ごした。
朝一に手紙だけ置いて出て行こうと思ったんだけど。
「まったく水臭いだろ、ルルド」
街を出る寸前に、ガルドとランタスに見つかってしまったというわけ。
「いや……顔を見たら、なんか悲しくなっちゃいそうで」
これは本音。
だから宿に手紙を残して、二人に渡してもらおうと思ったんだ。
文字は書けないけど、昨日リーシャから簡単な一言だけは書けるように特訓してもらったたし。
「それでもだ!」
「ごめんなさい」
「そうじゃなくて……ちゃんと気を付けて旅するんだぞ。困ったことがあったら、いつでも頼ってくれていいんだからな」
下を向いたボクの肩に、ガルドは手を置く。
そしてしゃがみ込み、ボクと視線を合わせた。
どこまでも心配そうな瞳。
ボクまで泣きそうになる。
「いいかルルド。俺は兄だ。おまえは弟だ。だから、何かあったら帰ってきてもいいんだからな」
兄で弟……。
ザイオンのおうちで、シーラが言ってくれた言葉だ。
ノリだって思ってた。
でも、そうじゃない。
ガルドのまっすぐな瞳がそれを教えてくれている。
「……はい、ありがとうございます」
「まったく、それだけではダメだろう」
ランタスが懐から取り出した、紫色のぬいぐるみのキーホルダーをボクの鞄に付けた。
可愛らしい悪魔のようなぬいぐるみだ。
手縫いかな? すごくよく出来てる。
ちびデビルって感じ。
昔、ランドセルとかに付けてたかも。
「ってこれは?」
「これはうちのパーティの証なんだ」
「冒険者パーティ?」
「ああそうだ。これがあれば、うちの関係者って見分けがつくようになっている」
「へー。そんなのがあるんですね」
サイラスの時も、なんかあの三人はお揃いで腕輪みたいなの付けてたっけ。
ボクはもらえなかったけど。
それと似たようなものかな。
にしても、可愛らしい。
「よく持ってきたなー、ランタス」
「おまえが持ってこないと思っていたからな」
「でも、いいんですか? こんな大事なものをもらってしまって」
だって、同じパーティってわけでもないのに。
そりゃあ、二人とは少しの間旅を一緒にさせてもらったけど。
でもボクは非戦闘員なわけだし。
「ルルドなら、もちろんさ」
「これでも結構名の知れたパーティなんだ。だから、これがあれば、変な輩に絡まれることもないだろう」
変な人除けになるほど、効力があるなんてすごいパーティだったんだ。
ボク全然知らないまま、過ごしちゃってた。
「パーティーの名前、聞いてもいいですか?」
「悪食って言うんだ」
「すごくカッコいい名前ですね」
意味って、禁忌なモノを食べるとか、そんなだっけ?
「カッコよくはないかもしれないな。ガルドが何でも食べてしまうから、付けられたものだ」
ランタスがややあきれたように、横目でガルドを見ていた。
ガルドはそっぽを向きながら、頭をかいている。
ああ、そっちの意味の悪食……。
確かに、ガルドってなんでも食べちゃうからね。
「うん、なんとなく分かりました」
「分からないでくれ、弟よ~!」
「あはははは、だって」
わちゃわちゃするこんな楽しさも、騒々しさも、これで最後なんだ。
我に返ると、やっぱり少し悲しい。
「何から何まで、本当にお世話になりました」
「それはこっちも同じさ」
「次会う時までに、同獣人で固有さがあるか確認しておきますね」
「それはありがたい! ぜひ聞かせてくれ‼」
ランタスがボクの両手を掴み、大きく振っていた。
これはボクも気になっているんだよね。
だからきっと、ここに戻ってきて報告が出来たらいいな。
帰ってきてもいい場所がある。
それだけで、どこまでも進める気がするから。
「では、本当にお世話になりました。またいつか……」
「ああ、気を付けて。良い旅を!」
二人に思い切り手を振り、ボクたちは歩き出す。
しかし数歩歩いた時、隣を歩くぽちがふと止まった。
「ぽち?」
見ると、上に乗っていたリーシャが、振り返りガルドたちを見ている。
そして少し考えたあと、急に声を上げた。
「悪食は、現在冒険者ランキング三位よね?」
「リーシャ……」
急に話し出したリーシャに、みんなが驚きの表情をする。
今まで、ボクとユメリの前以外はずっと猫を演じてきていたのに。
「そう……だが」
「あなたたちが、上の奴らをとっとと潰して頂点に立ってくれることを心から祈っているわ」
「リーシャ、君は……」
「リーシャ⁉ もしかして、あなたは……」
何かに気づいたようなランタスが声を上げる。
しかしリーシャは何事もなかったかのように、再び前を向いた。
「行こう、ルルド」
「……うん」
それ以上、声をかけてほしくない。
リーシャの横顔はそんな風に伝えていた。
昨日のやや暑い日差しが嘘のように、風もただ寒い。
天気はこのまま下ることはないようだが、今日はこのままどんよりとした天気だと教えられた。
昨日は結局あのまま収拾が夜まで付かず、一日街で過ごした。
朝一に手紙だけ置いて出て行こうと思ったんだけど。
「まったく水臭いだろ、ルルド」
街を出る寸前に、ガルドとランタスに見つかってしまったというわけ。
「いや……顔を見たら、なんか悲しくなっちゃいそうで」
これは本音。
だから宿に手紙を残して、二人に渡してもらおうと思ったんだ。
文字は書けないけど、昨日リーシャから簡単な一言だけは書けるように特訓してもらったたし。
「それでもだ!」
「ごめんなさい」
「そうじゃなくて……ちゃんと気を付けて旅するんだぞ。困ったことがあったら、いつでも頼ってくれていいんだからな」
下を向いたボクの肩に、ガルドは手を置く。
そしてしゃがみ込み、ボクと視線を合わせた。
どこまでも心配そうな瞳。
ボクまで泣きそうになる。
「いいかルルド。俺は兄だ。おまえは弟だ。だから、何かあったら帰ってきてもいいんだからな」
兄で弟……。
ザイオンのおうちで、シーラが言ってくれた言葉だ。
ノリだって思ってた。
でも、そうじゃない。
ガルドのまっすぐな瞳がそれを教えてくれている。
「……はい、ありがとうございます」
「まったく、それだけではダメだろう」
ランタスが懐から取り出した、紫色のぬいぐるみのキーホルダーをボクの鞄に付けた。
可愛らしい悪魔のようなぬいぐるみだ。
手縫いかな? すごくよく出来てる。
ちびデビルって感じ。
昔、ランドセルとかに付けてたかも。
「ってこれは?」
「これはうちのパーティの証なんだ」
「冒険者パーティ?」
「ああそうだ。これがあれば、うちの関係者って見分けがつくようになっている」
「へー。そんなのがあるんですね」
サイラスの時も、なんかあの三人はお揃いで腕輪みたいなの付けてたっけ。
ボクはもらえなかったけど。
それと似たようなものかな。
にしても、可愛らしい。
「よく持ってきたなー、ランタス」
「おまえが持ってこないと思っていたからな」
「でも、いいんですか? こんな大事なものをもらってしまって」
だって、同じパーティってわけでもないのに。
そりゃあ、二人とは少しの間旅を一緒にさせてもらったけど。
でもボクは非戦闘員なわけだし。
「ルルドなら、もちろんさ」
「これでも結構名の知れたパーティなんだ。だから、これがあれば、変な輩に絡まれることもないだろう」
変な人除けになるほど、効力があるなんてすごいパーティだったんだ。
ボク全然知らないまま、過ごしちゃってた。
「パーティーの名前、聞いてもいいですか?」
「悪食って言うんだ」
「すごくカッコいい名前ですね」
意味って、禁忌なモノを食べるとか、そんなだっけ?
「カッコよくはないかもしれないな。ガルドが何でも食べてしまうから、付けられたものだ」
ランタスがややあきれたように、横目でガルドを見ていた。
ガルドはそっぽを向きながら、頭をかいている。
ああ、そっちの意味の悪食……。
確かに、ガルドってなんでも食べちゃうからね。
「うん、なんとなく分かりました」
「分からないでくれ、弟よ~!」
「あはははは、だって」
わちゃわちゃするこんな楽しさも、騒々しさも、これで最後なんだ。
我に返ると、やっぱり少し悲しい。
「何から何まで、本当にお世話になりました」
「それはこっちも同じさ」
「次会う時までに、同獣人で固有さがあるか確認しておきますね」
「それはありがたい! ぜひ聞かせてくれ‼」
ランタスがボクの両手を掴み、大きく振っていた。
これはボクも気になっているんだよね。
だからきっと、ここに戻ってきて報告が出来たらいいな。
帰ってきてもいい場所がある。
それだけで、どこまでも進める気がするから。
「では、本当にお世話になりました。またいつか……」
「ああ、気を付けて。良い旅を!」
二人に思い切り手を振り、ボクたちは歩き出す。
しかし数歩歩いた時、隣を歩くぽちがふと止まった。
「ぽち?」
見ると、上に乗っていたリーシャが、振り返りガルドたちを見ている。
そして少し考えたあと、急に声を上げた。
「悪食は、現在冒険者ランキング三位よね?」
「リーシャ……」
急に話し出したリーシャに、みんなが驚きの表情をする。
今まで、ボクとユメリの前以外はずっと猫を演じてきていたのに。
「そう……だが」
「あなたたちが、上の奴らをとっとと潰して頂点に立ってくれることを心から祈っているわ」
「リーシャ、君は……」
「リーシャ⁉ もしかして、あなたは……」
何かに気づいたようなランタスが声を上げる。
しかしリーシャは何事もなかったかのように、再び前を向いた。
「行こう、ルルド」
「……うん」
それ以上、声をかけてほしくない。
リーシャの横顔はそんな風に伝えていた。
98
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる