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035 モンスターと共にいる自覚

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「ボクはこの皮の首輪を売って欲しい」
「ルルドいいの? それだと暴走を止める効果は……」

 リーシャが手を伸ばし、ボクの服に触れた。
 ボクもそうだと思ったんだ。
 でもだからこそ、こっちを選んだんだもの。

「リーシャ、暴走を止めるってさ。この魔石がぽちを攻撃するってことだよね?」
「……それは、そうだけど。でも死ぬとかそんなんじゃないし」
「でも、攻撃されたら痛いと思うんだ」

 ボクは身をもって、この前知ったから。
 たとえ致命傷じゃなくたって、痛いものは痛い。

 そんなものに頼ってたら、やっぱり駄目だと思うんだ。
 
 いくらぽちがモンスターだからって、そんなことすべきじゃない。

「暴走したなら、ボクが止めればいいと思う」
「それこそ怪我でもしたらどうするのよ」
「そうだけど、リーシャがボクにそう思ってくれるように。ボクもぽちにケガさせたくないんだ」

 ぽちとボクは会話なんて出来ない。
 そんなボクたちの間にあるのは、絆にも近い信頼関係だと思う。

 あの魔石があれば、簡単に暴走は止まると思う。
 
「あれで暴走を止めてしまったら、もう二度とぽちはボクに心を開いてくれない気がする。言葉が通じないからこそ、こういうのってすごく大事なことなんじゃないかな」

 いつかという日は、たぶん来ると思う。
 それに用心しなきゃいけないのは絶対だろう。

 だとしても、それが攻撃してもいい理由になんてならないはずだ。

「口で言うのは簡単じゃが、それこそその娘の言うようにお主が大けがをするかもしれぬのじゃよ? それでもいいのかい?」
「もとより、その覚悟があってぽちをあの場から連れてきたんです」

 人ではないものと一緒に生きるってそういうことだと思う。
 もっともこれは他人に迷惑をかけないっていうのが第一前提であり、そうなりそうなら攻撃だって仕方のないこと。

 だけどそれは魔石になんて頼ることじゃなくて、ボクが責任をもってやらなきゃいけないことだ。

「ルルド……」
「そこまでの覚悟があるなら、よい。お主にはコレじゃな」

 ユメリは先ほど見せた二つの首輪ではないものを、店のカウンター下からそっと出す。
 魔石のような石はついているものの、先ほどとは色が違う。

 無色透明な、やや小ぶりの石。
 だけど、魔石だよね、きっと。

「えっと、これは?」
「一応、魔石がハマってはおるが、ストップというあまり効果が薄いモノが込められている」

 ストップ、ストップってことは足止めってことだよね。

「一瞬止まるって感じですか?」
「ああそうじゃよ。一瞬、長くても瞬きを数回するうちには効果が切れる」

 瞬き数回ってことは、きっと時間にしたら三分はないかな。
 だけどその時間で対処するか、どうすべきなのか考えるだけの時間になる。

「何度も言うが、効果は薄い。が、あまり着けたものにも害にはならない。そういうものじゃ」
「うん。きっと、これで正解だと思います」
「そうか……」

 どこかユメリは嬉しそうな顔をしていた。

「ああ、お代は……」
「ギルドに請求するように言われておるから、大丈夫じゃ」
「ありがとうございます」

 あの紫の魔石がついた首輪よりかは安そうだから、なんとか払えるかな。
 この世界は分割払いとかないし、買い物は結構ドキドキなんだよね。

「このあともまだ買い物をするのかい?」
「はい。えっと、地図とか魔物図鑑が欲しくて」

 ボクは首輪とぽちを見比べながら答えた。
 ん-。
 ぽち、首大きいな。

 これだとリーシャの首くらいにしか巻けなさそうなんだけど。

「ああ、それはそのままあてるとサイズが変わるから大丈夫じゃよ」

 おろおろするボクを楽しむように、ユメリは笑いながらまた店の奥に引っ込んでいく。

 えっと、合わせる?
 くっつけたらいい感じかな。

 ユメリに言われたように、ボクは首輪を開いてぽちにあてる。

 するとベルトのように伸びだした首輪が、ぽちの周りを一周した。
 そしてカチリという音をたて、ピッタリとはまる。

「おお、すごい。本当に伸びた」
「どうじゃ、出来たか?」
「できましたー」

 首輪をつけたぽちは、さも自慢げに首を上げて見せていた。
 言葉は伝わってないはずなのに、なんかかわいい。

 嬉しかったのかな。
 なんとなくそれは伝わってきた。

「ぽち、きつくない?」
「ぴよぴー」
「うれしいのかな」
「ぴっぴっぴ」

 ぽちの頬を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。

「地図はちと古いのしかなかったが、図鑑は今も変わらぬからな。コレを使うといいのじゃ」

 本の端が丸くなるほど、使い込まれた大切そうな図鑑をユメリが手渡す。

「でもこれ、ユメリさんのじゃないんですか?」
「もう使う予定はないからいいのじゃ。それに中身は頭の中に入っておる」

 人の親指ほどの太さがある本なのに、それを全部覚えたってことかな。
 すごいなぁ。
 ボクもみんなの迷惑にならないように、ちゃんと勉強しなきゃ。

「本当にいただいていいんですか?」
「もちろんじゃ。モノは人に使われてこそ価値がる。それに……お主とは、この先も縁がある気がするのでのぅ」

 ユメリの言葉には不思議な説得力があった。
 だってボクも、なぜかそんなことを思っていたから。
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