異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

文字の大きさ
上 下
8 / 49

008 旅の始まりは前途多難

しおりを挟む
 リーシャが配信を流してくれたおかげで、ギルドにはすぐに話が通った。 
 石化したサイラスたちは、今のところはどうすることも出来ないので扱い保留のまま、パーティーは解散となった。

 ギルドの優しい職員さんたちはボクの身の振りを心配してくれたけど、のんびり旅に出ると言ったら引き留められることはなかった。

 『その旅に幸あらんことを』そんな優しい言葉をかけられたのも、初めてのこと。
 大きく手を振って外に出ると、どこまでも空は青く高く、たったそれだけのことで胸が一杯になった。

「リーシャ、まずはどこを目指そうか?」

 必要最低限の旅の用意を購入したボクたちは、街を抜けて街道を歩き始める。
 比較的モンスターが出ないといえど、それでも遭遇は皆無ではない。

 いつでもその襲撃に備え、警戒しながら歩く。

「とりあえずは大きな街を目指すのがセオリーだけど、モードという街はここからだとだいぶ距離があるの。だからまずはその手前の村を目指しましょう」
「村かぁ。ボク獣人だけど大丈夫かな?」

 ボクたちがいた街は、あまり大きくはない街だった。
 その後ろに山がそびえ、その先へ行くには徒歩ではやや険しいとされるほど。

 そんな大きくない街でさえ、獣人はやや差別の対象であった。
 あからさまないじめはなかったけど、それでも生きて行くにはかなり苦労した方だと思う。

 あんなであっても、サイラスたちに拾ってもらえなかったら親のいないボクなんて生き抜けただろうかとさえ思う。

 それなのに、あの街よりもさらに小さい村だなんて。
 きっと悪目立ちするに違いない。

「昔立ち寄った時は、そこまで悪意は感じなかったけどなぁ」
「そっか。それなら大丈夫かな」
「ルルドは人の目を気にしすぎよ」
「だって……」

 他人からどう見られているかは、やっぱり気になってしまう。
 確かにこの旅は自分というものがどんな人なのか見つける旅だけど。

 でもリーシャはあの感覚を知らないから、平然としてられるんだ。
 ジロジロ見られたり、好奇の目で見られるのはやっぱり好きじゃない。

 そう思いながらボクは視線を落とした。
 ダメだな。
 さっきまでの気持ちが落ちてきちゃった。

 足も体もなんだか重いし。
 沈んだ気分が体にのしかかってくるみたいだ。

「あれ?」
「ルルド⁉」
「……リーシャ?」

 数歩前を歩くリーシャを見た。
 焦ったようなリーシャの顔が、なぜかぐにゃりと歪む。

 おぼつかなくなった足はからみ、ボクはそのまま意識を失った。


     ◇     ◇     ◇


 キーンコーンカーンコーン

 懐かしいチャイムの音。
 ボクはその音源を探すように、上を見上げた。

 白く冷たく、どこまでも続く廊下。
 そしてボクの目の前には教室のドアがある。

 どこからか、足音が聞こえてきた。
 ああまずい。教室に入らなきゃ。

 先生の気配を感じたボクは、教室のドアを開けた。

 教室には黒子のようなクラスメイトがいる。

「あ、あれ……」

 手にかいた汗を隠すように、ボクは背負っていたリュックの肩掛けを掴んだ。

「お、おはよう」

 ボクが声をかけると、教室の中のみんなの目がギョロリとこちらを向く。
 どこまでも冷たい視線。
 話し声のようなものは聞こえるのに、誰もボクに挨拶を返そうとはしない。

「ははは」

 ボクはいつものように愛想笑いを浮かべた。
 いつだってボクは、どこか浮いたような存在だった。

 仲間に入れて欲しくて、モブの枠から出てしまって失敗した役だ。
 だから誰にも相手をされなくなった。

 それでも生きて行くためには、耐えるしかなかった。

 ああそういえば、ボクってどうやって死んじゃったのかな。
 それすら思い出せないほど、ボクにとって過去は……。


「ルルド! しっかりして」

 夢の中に一筋の光が見えた。
 ぼんやりとする意識を浮上させると、銀髪の女性がボクを抱きかかえている気がした。

「あれ、リーシャ?」
「しっかりして!」

 ボクの頬をぺちぺちと白い足の肉球が叩く。

「やっと気が付いたのね。良かったわ、ルルド」
「えっと……あれ? 今さっき、女の人がいた気がしたんだけど」
「まだ寝ぼけているの?」
「ぅえ? なに、ボク寝ていたの?」

 辺りをきょろきょろと見渡せば、先ほどいた地点でないことは分かる。
 大きな洞窟の入り口の壁に寄りかかるように、ボクは座っていた。

「えっと、何がどうなったの?」
「それは私が聞きたいわよ。急に意識を失うんだもの。ここまでくわえて運ぶのに何時間かかったことか」
「それはごめんよ、リーシャ」

 猫の体でボクを運ぶなんて、並大抵のことではなかったはず。
 確かにリーシャは他の猫とは違うけど、体つきは大差ないんだし。

「やっぱりさっきの戦闘で、骨にヒビでも入っていたんじゃないかな? 熱も少しあるみたいだし」
「あー、そうかな。なんだろう。急に体が重たいなって思ったら、もう力が入らなくなっちゃって」
「疲れもあるかもね。これなら旅に出るのは少し回復してからのが良かったんじゃないかな」
「ん-。でも、あんなことがあったからこそ、勢いのまま行きたかったんだ」

 ボクがそう言いながら微笑むと、リーシャは『もう』とだけ返した。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

最弱引き出しの逆襲 ― クラス転移したのはいいけど裏切られたけど実は最強だった件

ワールド
ファンタジー
俺、晴人は普通の高校生。だけど、ある日突然、クラス全員と一緒に異世界に飛ばされた。 そこで、みんなは凄い能力を手に入れた。炎を操ったり、風を呼んだり。でも、俺だけが"引き出し"なんていう、見た目にも無様な能力を授かった。戦いになんの役にも立たない。当然、俺はクラスの笑い者になった。 だけど、この"引き出し"、実はただの引き出しではなかった。この中に物を入れると、時間が経つにつれて、その物が成長する。最初は、その可能性に気づかなかった。 でも、いつしか、この能力がどれほどの力を秘めているのかを知ることになる。 クラスメイトたちからは裏切られ、孤立無援。でも、俺の"引き出し"が、みんなが見落としていた大きな脅威に立ち向かう唯一の鍵だったんだ。知恵と工夫で困難を乗り越えて、俺は最弱から最強へと変貌する。 工夫次第で幾らでも強くなれる引き出し能力で俺は成りあがっていこう。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

処理中です...