異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

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008 旅の始まりは前途多難

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 リーシャが配信を流してくれたおかげで、ギルドにはすぐに話が通った。 
 石化したサイラスたちは、今のところはどうすることも出来ないので扱い保留のまま、パーティーは解散となった。

 ギルドの優しい職員さんたちはボクの身の振りを心配してくれたけど、のんびり旅に出ると言ったら引き留められることはなかった。

 『その旅に幸あらんことを』そんな優しい言葉をかけられたのも、初めてのこと。
 大きく手を振って外に出ると、どこまでも空は青く高く、たったそれだけのことで胸が一杯になった。

「リーシャ、まずはどこを目指そうか?」

 必要最低限の旅の用意を購入したボクたちは、街を抜けて街道を歩き始める。
 比較的モンスターが出ないといえど、それでも遭遇は皆無ではない。

 いつでもその襲撃に備え、警戒しながら歩く。

「とりあえずは大きな街を目指すのがセオリーだけど、モードという街はここからだとだいぶ距離があるの。だからまずはその手前の村を目指しましょう」
「村かぁ。ボク獣人だけど大丈夫かな?」

 ボクたちがいた街は、あまり大きくはない街だった。
 その後ろに山がそびえ、その先へ行くには徒歩ではやや険しいとされるほど。

 そんな大きくない街でさえ、獣人はやや差別の対象であった。
 あからさまないじめはなかったけど、それでも生きて行くにはかなり苦労した方だと思う。

 あんなであっても、サイラスたちに拾ってもらえなかったら親のいないボクなんて生き抜けただろうかとさえ思う。

 それなのに、あの街よりもさらに小さい村だなんて。
 きっと悪目立ちするに違いない。

「昔立ち寄った時は、そこまで悪意は感じなかったけどなぁ」
「そっか。それなら大丈夫かな」
「ルルドは人の目を気にしすぎよ」
「だって……」

 他人からどう見られているかは、やっぱり気になってしまう。
 確かにこの旅は自分というものがどんな人なのか見つける旅だけど。

 でもリーシャはあの感覚を知らないから、平然としてられるんだ。
 ジロジロ見られたり、好奇の目で見られるのはやっぱり好きじゃない。

 そう思いながらボクは視線を落とした。
 ダメだな。
 さっきまでの気持ちが落ちてきちゃった。

 足も体もなんだか重いし。
 沈んだ気分が体にのしかかってくるみたいだ。

「あれ?」
「ルルド⁉」
「……リーシャ?」

 数歩前を歩くリーシャを見た。
 焦ったようなリーシャの顔が、なぜかぐにゃりと歪む。

 おぼつかなくなった足はからみ、ボクはそのまま意識を失った。


     ◇     ◇     ◇


 キーンコーンカーンコーン

 懐かしいチャイムの音。
 ボクはその音源を探すように、上を見上げた。

 白く冷たく、どこまでも続く廊下。
 そしてボクの目の前には教室のドアがある。

 どこからか、足音が聞こえてきた。
 ああまずい。教室に入らなきゃ。

 先生の気配を感じたボクは、教室のドアを開けた。

 教室には黒子のようなクラスメイトがいる。

「あ、あれ……」

 手にかいた汗を隠すように、ボクは背負っていたリュックの肩掛けを掴んだ。

「お、おはよう」

 ボクが声をかけると、教室の中のみんなの目がギョロリとこちらを向く。
 どこまでも冷たい視線。
 話し声のようなものは聞こえるのに、誰もボクに挨拶を返そうとはしない。

「ははは」

 ボクはいつものように愛想笑いを浮かべた。
 いつだってボクは、どこか浮いたような存在だった。

 仲間に入れて欲しくて、モブの枠から出てしまって失敗した役だ。
 だから誰にも相手をされなくなった。

 それでも生きて行くためには、耐えるしかなかった。

 ああそういえば、ボクってどうやって死んじゃったのかな。
 それすら思い出せないほど、ボクにとって過去は……。


「ルルド! しっかりして」

 夢の中に一筋の光が見えた。
 ぼんやりとする意識を浮上させると、銀髪の女性がボクを抱きかかえている気がした。

「あれ、リーシャ?」
「しっかりして!」

 ボクの頬をぺちぺちと白い足の肉球が叩く。

「やっと気が付いたのね。良かったわ、ルルド」
「えっと……あれ? 今さっき、女の人がいた気がしたんだけど」
「まだ寝ぼけているの?」
「ぅえ? なに、ボク寝ていたの?」

 辺りをきょろきょろと見渡せば、先ほどいた地点でないことは分かる。
 大きな洞窟の入り口の壁に寄りかかるように、ボクは座っていた。

「えっと、何がどうなったの?」
「それは私が聞きたいわよ。急に意識を失うんだもの。ここまでくわえて運ぶのに何時間かかったことか」
「それはごめんよ、リーシャ」

 猫の体でボクを運ぶなんて、並大抵のことではなかったはず。
 確かにリーシャは他の猫とは違うけど、体つきは大差ないんだし。

「やっぱりさっきの戦闘で、骨にヒビでも入っていたんじゃないかな? 熱も少しあるみたいだし」
「あー、そうかな。なんだろう。急に体が重たいなって思ったら、もう力が入らなくなっちゃって」
「疲れもあるかもね。これなら旅に出るのは少し回復してからのが良かったんじゃないかな」
「ん-。でも、あんなことがあったからこそ、勢いのまま行きたかったんだ」

 ボクがそう言いながら微笑むと、リーシャは『もう』とだけ返した。
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