上 下
9 / 10

009

しおりを挟む
「まだそんな目が出来るとは大したものだ。だが気に食わぬな」


 叩かれて、泣き叫び許しを乞うとでも思っていたのだろう。まだ怒りが収まらない国王は倒れた私に近づいてくる。

 金を持ち逃げして人の人生を台無しにした男も最悪だと思ったけど、この男はそれ以下ね。人としても最低すぎる。

 なんでも自分の思い通りにならなければ気が済まない。そんな男を国王にしている時点で、この国も終わっているわ。


「……サイテー」

「なんだと! 今おまえ、何と言った!」


 国王は私の髪を引っ張りながら、無理やり立ち上がらせる。


「いったい。離して!」

「自分の立場と言うものを分からせてやる!」

「父上、そこまでです!」


 激高する国王と取っ組み合いになりかけた時、玉座の間の扉が開かれた。

 一人の青年を先頭に、騎士たちも部屋に流れ込む。

 よく見れば騎士たちの鎧にはこの国のシンボルである赤い瞳の獅子が描かれていた。


「きゃーーーー」


 後ろから甲高い王妃たちの声が聞こえたかと思うと、王妃たちはそのまま雲のように玉座の間から散っていく。

 反乱だ。いや、この場合は謀反とでも言うのかしら。

 よく見れば短く黒い髪のその整った顔の青年も、赤い瞳だ。


「貴様どういうつもりだーーー!」


 国王が先ほどよりもさらに大きな声で叫ぶ。

 
「わしを誰だと思っている!」

「狂王ですよ、父上」

「なんだと! 誰のおかげでここまで、この国を大きくしてきたと思っておる」

「大きければいいという問題でもありません。あなたは母上たちを手に入れるためだけに、残虐の限りを尽くしてきた。そろそろそれも終わりにしましょう」

「生意気な! 貴様ごときに何が出来るというのだ」

「この国の兵力を掌握し、あとはあなたをとらえるだけとなっています。あなたは敵を作りすぎたのですよ。中にも外にも、ね」


 青年は剣を構えたまま、ゆっくりと近づいてくる。

 偶然なのか何なのか。どちらにしろ助かったことには変わりない。もしかしたらあれだけお父様に言ったから、他国からの圧力がかかったのかもしれないわね。

 でも良かった。出戻りでもなんでもいいから、これでまた恵まれヒロインポジに戻れるし。

 すごくすごーーーーく痛かったけど、体を張ったかいがあったってことね。


「ふざけるな! そんなこと認めん!」


 この期に及んでと言うように、武器を持たぬ王はただ叫んでいた。

 巻き込まれたら大変だとばかりに、私はゆっくり青年の方へ歩み寄ろうとした時、背中から国王に羽交い絞めにされる。


「ちょっと、離して!」


 人を盾にしないでよ。あんたの盾になるほど仲良くもなければ、そんな趣味なんて私にはないですから。

 もぞもぞと体を動かそうとしても、国王も必死に私を離そうとはしなかった。


「まったく無駄な抵抗を」


 そう言いながら青年はゆっくり距離を縮めてくる。

 いやいや、その剣は私にも危険ですけど。まさかと思うけど、父が父なら子も子ってことはないでしょうね。

 いやよ。さすがに一緒に刺されたら、恨む以上だからね。

 どうにかしてこの状況をと考えた時、私の頭にふと昔見た映像が浮かんできた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される

白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

わたくしが悪役令嬢だった理由

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、マリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢。悪役令嬢に転生しました。 どうやら前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したようだけど、知識を使っても死亡フラグは折れたり、折れなかったり……。 だから令嬢として真面目に真摯に生きていきますわ。 シリアスです。コメディーではありません。

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

処理中です...