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「御託などどうでもいい! お前のせいで借金をしたんだ。だからあの借金はお前が払うんだな」
「払いません。第一、あの借金は私には何にも関係のないモノですから」
「なんだと! 借金の契約をしたのはお前だろうが」
「いいえ? 契約書には、きちんとお父様の署名と捺印がされていますよ。しかも直筆で」
「どういうことだ」
「普段からお父様は書類のサインをなさる時に、中身を確認されることはなかったですよね。どんな書類でも、どんな報告でも、私の話すことに耳を傾けることは一度だってなかった」
「まさか!」
「そうですよ。お父様がサインをなさった書類の一つが、あの土地を担保とした借金の借用書だったんです」
いつもいつも私のことには無頓着だったものね。まさか自分のサインした書類の1つがこの借金だったなんて、思いもしないでしょう。
でもそれも、ご自身が撒かれた種。すべて自分で何とかして下さいな。私は助ける気など、もうないのだから。
「どうぞご自身で返済なさって下さい。でも、もう返せないですよね? 忠告も進言も聞かずにいたのだから」
「ば、馬鹿な。その意味が分かっているのか」
「ええ、もちろん分かっていますよ」
この計画はいつでも止まれるようにしてあった。どんな時点でも、追加で借金をする際には幾度となく確認をしてきたから。でもいつでも父の答えは一緒だった。
私だって別に好きで節約をしているわけではない。でも切り詰めるところを切り詰めなければ、こうなることは分かっていたハズ。
それなのに全てを無視し、私にその責任だけを押し付け見て見ぬふりをしてきたのだもの。
その借金だって、もっと正当なものだったならばまだ救いようがあったのに。いつだって父たちは自分たちの服や食事、旅行、そんなもののためにお金を湯水のごとく使ってきた。
領民が飢饉で苦しむ時も、害虫で農作物が取れなくなった時も、耳を貸すこともなく。
だから私は切り捨てることにしたの。もう私にとって、お父様たちは不要でしかないから。
「貴族が借金をし、領地没収となれば家の管理は国に戻ります。そうなればまず、没落からの平民落ちは確定ですねお父様」
「ば、馬鹿か。そんなことになればお前だってただでは済まないんだぞ」
そう……知ってる。家が没落し、サルート男爵家というものがなくなれば私は……。
「決まりかかった公爵家との婚約までなかったことになるんだぞ! それでもいいのか!」
「ええ。それがどうしたというんです?」
分かっている。家が没落してしまえば、もうマルクとの婚約もダメになってしまうことぐらい。計画が予定通り進んだとしたら、こうなる結末には私も気づいていた。
このまま進めば、父を断罪出来るけれど私も巻き込まれるって。
家がない後ろ盾のない私なんかが、マルクの婚約者になんてなれるわけにない。でもそれでも、計画を止めることなんて出来なかった。
早くなる心臓と共に痛くなる胸も、泣き出したくなる気持ちも私は全て無視した。
「初めからそんなことは分かっています。元々この婚約は、マルク様の計画に付き合っただけのこと。ダメになったとしても、私には何の問題もありません」
そんなの嘘だって。泣き叫んでいる自分がいる。でもこんなところで、こんな時に泣くわけにはいかないの。もう少し、あと少しだから……。
「私にはこの領地と領民さえあれば問題などないのです。お父様たちと違って、平民になってただの領主になったとしても何ら問題はありません。なので、潔く滅びて下さいお父様」
「!」
怒ったというよりは、あっけにとられた父の表情。
もう私が助ける気がないと理解した父は、力なく膝から崩れた。自分たちの代で家が滅びるなど考えたこともなかったのだろう。
でももう、助かる道はない。私がそれを拒んだから。例え家がなくなって私も平民になったとしても、私はここでみんなと生きていく。もうそう決めたもの。
「お引き取りください。そして今までのコト全て、後悔なさればいいんだわ。一度だって立ち止まって考えなかった自分の愚かさを」
「……」
父は私を見上げ、そして後ろに控えるギルド長を確認するように見た。もうどうにもならない。暴れることすら叶わないと悟った父は、無言のままただフラフラと部屋を出て行ったのだった。
「払いません。第一、あの借金は私には何にも関係のないモノですから」
「なんだと! 借金の契約をしたのはお前だろうが」
「いいえ? 契約書には、きちんとお父様の署名と捺印がされていますよ。しかも直筆で」
「どういうことだ」
「普段からお父様は書類のサインをなさる時に、中身を確認されることはなかったですよね。どんな書類でも、どんな報告でも、私の話すことに耳を傾けることは一度だってなかった」
「まさか!」
「そうですよ。お父様がサインをなさった書類の一つが、あの土地を担保とした借金の借用書だったんです」
いつもいつも私のことには無頓着だったものね。まさか自分のサインした書類の1つがこの借金だったなんて、思いもしないでしょう。
でもそれも、ご自身が撒かれた種。すべて自分で何とかして下さいな。私は助ける気など、もうないのだから。
「どうぞご自身で返済なさって下さい。でも、もう返せないですよね? 忠告も進言も聞かずにいたのだから」
「ば、馬鹿な。その意味が分かっているのか」
「ええ、もちろん分かっていますよ」
この計画はいつでも止まれるようにしてあった。どんな時点でも、追加で借金をする際には幾度となく確認をしてきたから。でもいつでも父の答えは一緒だった。
私だって別に好きで節約をしているわけではない。でも切り詰めるところを切り詰めなければ、こうなることは分かっていたハズ。
それなのに全てを無視し、私にその責任だけを押し付け見て見ぬふりをしてきたのだもの。
その借金だって、もっと正当なものだったならばまだ救いようがあったのに。いつだって父たちは自分たちの服や食事、旅行、そんなもののためにお金を湯水のごとく使ってきた。
領民が飢饉で苦しむ時も、害虫で農作物が取れなくなった時も、耳を貸すこともなく。
だから私は切り捨てることにしたの。もう私にとって、お父様たちは不要でしかないから。
「貴族が借金をし、領地没収となれば家の管理は国に戻ります。そうなればまず、没落からの平民落ちは確定ですねお父様」
「ば、馬鹿か。そんなことになればお前だってただでは済まないんだぞ」
そう……知ってる。家が没落し、サルート男爵家というものがなくなれば私は……。
「決まりかかった公爵家との婚約までなかったことになるんだぞ! それでもいいのか!」
「ええ。それがどうしたというんです?」
分かっている。家が没落してしまえば、もうマルクとの婚約もダメになってしまうことぐらい。計画が予定通り進んだとしたら、こうなる結末には私も気づいていた。
このまま進めば、父を断罪出来るけれど私も巻き込まれるって。
家がない後ろ盾のない私なんかが、マルクの婚約者になんてなれるわけにない。でもそれでも、計画を止めることなんて出来なかった。
早くなる心臓と共に痛くなる胸も、泣き出したくなる気持ちも私は全て無視した。
「初めからそんなことは分かっています。元々この婚約は、マルク様の計画に付き合っただけのこと。ダメになったとしても、私には何の問題もありません」
そんなの嘘だって。泣き叫んでいる自分がいる。でもこんなところで、こんな時に泣くわけにはいかないの。もう少し、あと少しだから……。
「私にはこの領地と領民さえあれば問題などないのです。お父様たちと違って、平民になってただの領主になったとしても何ら問題はありません。なので、潔く滅びて下さいお父様」
「!」
怒ったというよりは、あっけにとられた父の表情。
もう私が助ける気がないと理解した父は、力なく膝から崩れた。自分たちの代で家が滅びるなど考えたこともなかったのだろう。
でももう、助かる道はない。私がそれを拒んだから。例え家がなくなって私も平民になったとしても、私はここでみんなと生きていく。もうそう決めたもの。
「お引き取りください。そして今までのコト全て、後悔なさればいいんだわ。一度だって立ち止まって考えなかった自分の愚かさを」
「……」
父は私を見上げ、そして後ろに控えるギルド長を確認するように見た。もうどうにもならない。暴れることすら叶わないと悟った父は、無言のままただフラフラと部屋を出て行ったのだった。
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