金色を纏うあやかし皇帝は、無色透明な蓮花の娘を染めあげたい。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

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 山道は森の中を一人で歩くことに苦はなかった。

 どうせ普段から森の中で狩猟を行って生活してきたし、何より自分のペースで進めるから。

 ずっと一人で生活していたから、むしろ人に気を遣う方が苦手なのよね。

 そう少なくとも、一人ならこんな目に合わなくてもいいし。


「いくら年頃の娘は皆集まるようにとは言ったってねぇ」

「本当よ。まさか、こんなハズレが来るなんて皇帝陛下も思ってもみないでしょうに」

「それよりもこんなのを出してきたなんて、どれだけ田舎なのよ。普通なら恥ずかしくて出してこないわ」

「言えてる……。あたしたちと同じ何て思われること自体、嫌だわ」


 後宮への門をくぐった私を睨みつけながら、壁のように並ぶ女の子たちは陰口をたたいていた。

 ああ、本人を目の前にして隠す気もないんだから、陰口というよりは悪口ね。


「どいていただけますか?」


 はっきり言って邪魔なのよね。

 そんな入り口のとこで壁のように立たれていても、他の子たちも入れなくなってしまうし。


「やだ、本当に入る気なの?」

「厚顔無恥なんじゃない?」

「皆さまは皇帝陛下の命に逆らえと、この場で言うのですか?」


 宦官や女官、それに私たちを検査した神官様までいるというのに。

 まぁ、こうなった原因はこの後宮前の広場に入る前に受けた検査のせい。

 危ないものの持ち込みがないかを確認されたあと、どこ出身や身分などの聞き取り調査がおこなわれ、最後に属性と力の測定がなされた。

 どうも広場ココでは、身分順で並ぶのではなく、属性ごとに分かれた後に力の色順に並ぶらしい。

 属性も色もないのは、やっぱり私だけだったわね。

 これだけの人が集まっても私しかいないって、国中だと片手くらいはいるのかしら。

 むしろ興味が湧いてくる。


「陛下のって言ったってねぇ。物事には限度があるでしょう? 自分が他人と同じだと思っているの?」

「むしろ一緒だったら気持ち悪いですけど?」

「はぁ? あんたねぇ!」

「別に貴女に呼ばれてここに来たわけではないので、関係なくないですか?」

「生意気な! あんたなんか女官にすらなれないわよ!」

「別に結構ですけど?」


 別に自分でも期待してココに来たわけでもないし。

 同じように集められた人間に何を言われても痛くもかゆくもなのよね。

 だいたいこんなとこで大声上げて張り合ったって、何の得にもならないでしょうに。

 私に突っかからないにしても、周りの目がどんな目で私を見ているかなんて確認しなくても分かる。

 だってずっとそうだったから。

 だから期待も何もしない。

 意味ないことに心を割いても無駄、無駄。


「あ、あんたなんかあの端に座って小さくなってればいいのよ!」

「ありがとう」


 うむ。あそこが属性がない私並んでも良さうなとこなのね。

 親切なんだか、なんなんだか。

 他の属性の子たちは三人ずつで横に、そして後ろにいればいるほど力のない色の子のようだった。

 私は一番隅に一人ぽつんと座った。

 そして全ての女の子たちがい広場に入り座らされると同時に、大きな銅鑼の音が響き渡った。

 あれほどまでにおしゃべりをしていた女の子たちも口を閉じ、その場でかしずく。

 あああ、これだと皇帝陛下の顔見れないわね。

 でも一人だけ顔を上げるのはさすがに不敬罪となってしまうわ。

 諦めて下を向いたままの私たちの間を皇帝陛下と宦官らしき人が通りすぎていく。


「よく集まって下さいました。これより、陛下直々にお妃候補を選んで行きます。お声をかけられた方は、この後後宮へ移動となります」


 陛下が直接選ぶだなんて、なんかすごいわね。

 選定っていうから、お偉い様たちが勝手に決めるものなのかと思っていたけど、今帝はそうではないみたい。

 ここに並ぶのも身分とか一切の忖度もなかったし。

 実力重視って感じなのかな。

 ああ、でも顔の好みとかも……って、下向いてたら分からないわね。


「ただお妃候補に選ばれなかった方でも、その後の女官選定がございますのでその場でしばらくお待ちください」


 女官ねぇ。下級女官でも、衣食住は確か保証されるのよね。

 私みたいな身寄りのない者には最適なのだろうけど、力がないからなぁ。

 選ばれることはないだろうけど、さすがに王妃様が選ばれる瞬間は顔が見れそうね。

 帝国でただ一人、金色の力を持つ皇帝陛下。

 ある意味私とは真逆の存在だから、どんな方だろうって興味があったのよね。


「ではこれより陛下が皆さんのところを回られます。お声をかけられるまではそのままで居て下さい」


 みんな息をひそめているのか、木靴のようなコツコツという陛下の歩く音だけが広場に響き渡っていた。

 普段から緊張とは無縁の私ですら、息をするのを忘れてしまいそうになる。

 そしてその時間は長いものだったのか、ほんのわずかな時間だったのか。

 そんな感覚すらおかしくなるほどの時、ふと陛下の足が私の前で止まった。

 えっと?

 私の前にも後ろにも誰もいない。

 だって属性なしは私だけだもの。それなのに陛下が私の前に立つ意味って何があるのかしら。

 しかしそう思う私の頭の上で、陛下と宦官の小声での話し声が途切れ途切れに聞こえてくる。

 私だけが一人だったのが気になったのね、きっと。

 ため息をつきたくなる気持ちを抑えつつ、頭に突き刺さる視線がなくなるのをただじっと待った。

 大丈夫。どうせいつものことよ。

 好奇の目も、笑い声も……。


「うむ。そうだな……この娘にしよう」


 短くそう言った皇帝は、広場の一番隅で小さくなっていた私を軽々と担いだ。


「えええ?」


 自分でも何が起こったのか理解できず、思わす私は素っ頓狂な声を上げた。

 
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