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しおりを挟む城を出る日、後から来るメイにシリルへの手紙を託した。ここから伯爵の元へは馬車で三日かかるらしい。馬車に乗るのは、母が死んだ時以来ね。
何度も大丈夫だと自分に言い聞かせ、馬車に乗り込む。乗り込むといっても、ほとんど歩けない私を兄が抱きかかえ乗せてくれたのだ。
馬車は本当にいい思い出がないわね。いつもいつも、別ればかりだわ。
「幸せにおなり、ルチア」
「ありがとうございます、お父様、お兄様」
「必ず会いに行くよ」
「ああ。でも本当に……、こんなにルチアが頑固だとは僕も思っても見なかったよ」
「兄さま?」
兄はいたずらっぽい、笑みを向ける。頑固とは、私のシリルへの想いのことを言っているのかしら。でも仕方ないではないの。私の初恋だったのだから。
「ふふふ。幸せにおなり、ルチア」
「? はい、お兄様」
「ああ、本当に……」
「お父様まで、どうなさったのです」
「いや、いいんだ。さあ、お行きなさい」
父と兄に見送られ、馬車は走り出した。
馬車の窓から城を眺めた。あの日も、母と共に馬車に乗った日も、こんな風によい天気の日だった。
あんなことしか書けなかった手紙を、今頃シリルは読んでくれているだろうか。私はそればかりが気がかりだった。
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