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しおりを挟む「心配せずとも後任には第二騎士団の団長が王女殿下の護衛騎士として、就くことになっております。侯爵家の次男ですし、歳も二つほどしか違いありませんのですぐ打ち解けられるでしょう」
「シリル!」
「最後まで使命を全う出来ないことわたしを、どうぞお許し下さい」
「シリル!」
私の話を全く聞こうとしないシリルの胸に飛び込む。
「シリル、あなたは私の想いを知っているでしょう? 私は……、私はあなたのことが」
「いけませんルチア様、それを口にしては。前にも申したはずです。それは一時のものだと。共に死線を抜けて、その時の思いを共感したに過ぎないと。それは恋などと呼ぶものではありません」
「知らないくせに、私の想いなんて!」
「それでもです。ルチア様」
シリルが私の肩を掴み、優しく引きはがす。
「こんな時にだけ、あなたは私の名前を呼ぶのね……」
「お分かりください。わたしとあなたとでは、身分も歳も違いすぎます」
「歳とは何? 20歳上だとそんなに偉いの? ただ取るものに、なんの意味があるというのよ!」
「20も違えば、全てが違います。あなたとわたしでは父と娘だ。そういうものなのです」
「分からないわ」
「今は分からなくとも、分かる時が必ず来ます」
分かりたくもない。ずっとずっと目を背けてきたことだから。それをこんな形で、シリルの方から言われるなんて思ってもみなかった。
全てを……私の想いすら全て否定されてしまった。もうこの先、彼とのこの先はないのだろう。シリスが私を置いて行ってしまう。想いも告白も、全てなかったことにして。
「分かりたくもない」
「ルチア様」
「大嫌いよ……、シリルなんて大嫌い」
約束で縛り付けている、ただの卑怯者だということは分かっている。でもそうしてでも、側にいて欲しかった。本当に好きだったから。
せめて、好きだと、私の思いの全てを聞いてさえくれればまだ、こんな惨めな思いはしないのに。私には、それすらも許されない。
「申し訳ありません」
「出てって、もう顔も見たくない」
私は涙を堪えるのにただ必死だった。泣きわめいて、しがみついて、みっともなくて無様は姿を見せたくはなかった。それだけが王女としての、せめてものプライドだ。
シリルは深々と頭を下げると、部屋から出ていく。しばらく彼のいなくなったドアを見つめた後、ベッドまで行くと、乗っていたすべての枕を扉に投げつけた。
そしてそのままベッドの横で布団に包まり、涙が枯れるまで泣いた。どれだけの時間が経ったのか、窓の外は明るくなっている。
「ルチア様?」
短いノックの後、メイが入室してくる。
みっともない顔を見られたくなくて、ベッドに戻ろうとしたのだが、体が鉛のように重く動くことが出来ない。
「ルチア様! どうなさったのですか。誰かー、誰かすぐ来て!」
メイが慌てたように動けない私に近づき、私に触れた。しかし、メイの方を向くことも声を出すことも出来ない。まるで本当の石になってしまったみたいだと自嘲する。
でももうそれすらも気にならない私がいた。いっそ石にでもなって、そのままこの心も体も固まってしまえばいいと思ったから。
メイの悲鳴にも似た声に、すぐ近くにいた衛兵たちが部屋へ入ってきた。
そして彼らの手によってベッドに横にさせられ、すぐに医師が呼ばれる。大げさだなぁと、みんなの慌てる姿を私はただぼんやり眺めていた。
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