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「い、いけません、いけません。ダメです王女殿下。あなたのような方がこのようなことをなさっては」

「なぜです? 私のせいで怪我をされたのだから手当をするのは当たり前のことではないですか」

「それは、わたしはあなたの護衛騎士として当たり前のことをしたまでです。怪我はすべて自分の責任でしかありません」

「でもそのために死んでしまっては、ならないではないですか!」

「このぐらいでは、自分は死んだりしませんよ」

「でも……」


 私は先ほどまでの光景を思い出す。

 あの血と炎の海の中には、何人もの人が動かなくなっていた。どれだけの人が亡くなったのか想像もつかない。

 お母様は他の護衛騎士と逃げて無事なのかしら……。でもあの馬車の中には、あの血の海の中には母の姿はなかった。

 だからきっと生きている。今はそう思いたい。


「そんな不安そうなお顔をなさらないで下さい。大丈夫です、王女殿下。あなたのことは、わたしが絶対に護ります。どんな時でも……、いついかなる時でもそのお側で絶対に」

「ずっと? シリル様は、いなくなったりしない?」

「もちろんです。ですから、どうかわたしのことはシリルとお呼び下さい、王女殿下」

「シリル……、約束……よ? ずっと、ずっとずっと一緒よ」

「もちろんです、王女殿下」

「では私のコトも、ルチアと呼んで欲しいわ」

「な、それは絶対にダメです、王女殿下」

「むぅ。いいじゃないの、シリルのケチ」

「ケチ? ケチって……まったく、どこでそんな悪い言葉を覚えて来るんですか」

「あら、私が覚える言葉なんてお父様かお兄様から以外、どこにあると言うのかしら?」

「ああ……」


 シリルはそう言いながら、額に手を当てた。


「ふふふ」

 
 うん。こんな状況でも、私もまだ笑える。

 そうこの誰よりも強いシリルが一緒なら、私は大丈夫。そう心から思えた。



 
 王都へと辿り着いたのは、翌朝だった。

 母と私の乗った馬車が、反貴族派と手を組んだ隣国の兵に襲われたと理解出来たのは、それから何年も経ってからだった。

 あの事件で、母と護衛騎士の半分以上が亡くなり、眠るとあの時を思い出す日々が続くようになった。不眠と、そこからくる疲労。

 そんな時であっても私は、シリルさえ側にいれば寝ることも食べることも出来た。

 彼は私の専属の護衛騎士になると共に、騎士団の団長に任命される。近いようで、遠い距離。それでも私にはあの約束があれば、いつかを夢見ることが出来た。

 そう、あの日からずっと、私にとって彼は居なくてはならない存在であり、想い人となったから。
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