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「いつ見ても、シリルは本当にカッコイイわね~」


 さわやかな風が春の訪れを告げている。庭には色とりどりの花が咲き乱れその横では演習場で騎士たちが、訓練を行っていた。

 汗も滴るではないが、その勇ましい姿にはわざわざ見学を申し込む令嬢たちまでいるほどだ。

 その中にひと際大きく一番手前で指導に当たっている騎士が、私わたくしのお目当てであるシリル。今年38歳になる、第一騎士団の騎士団長様だ。大きな手に黒い髪、灰色の瞳はまるで夜明けの宝石のよう。

 いくら見ていても飽きないのですが王女という立場上、ジロジロ見るわけにもいかず散歩のふりをして観察する。

 そう。あくまで散歩のついでに立ち寄ったというコトが大事。だって彼は知らないから。私の思いなんて、何一つとして。

 ああ、それにしてもいつ見てもシリルは素敵だわ。


「ルチア様~、心の声が駄々洩れですよ」

「え? 出ていたかしら……。で、でも、本当のことだから仕方ないでしょう」

「ははははは、ソウデスネ、ルチア様」

「もう、メイ、何ですの、その片言は。シリルは誰よりも強く、カッコイイではありませんの」

「強いのは認めますよー? あの方に敵う人なんてこの国ではいませんし。でも、カッコイイっていうのは……。シリル様って、まるで熊みたいじゃないですか。それにあの頬の大きな傷が、とても怖そうに見えますし」


 侍女のメイがシリルの顔を指さす。まったく、人を指さすなど行儀が悪い。

 確かに、シリルの頬には、目の下から口元にかけて大きな傷がある。


「熊じゃなくて、シリルは狼のような方よ。それにあの傷は、私を助ける時についてしまったものだもの」

「そうだとしてもですよ、もっと他に若くてかっこいい方いますよ? ルチア様とシリル様は20歳も年の差がありますし。いくらルチア様がファザコンですからって、何もそんな渋いところへ行かなくても」

「ファザコンではないって言ってるでしょ。お父様のような方が好きというのは、それくらいの年の方が好きという意味で、誰もお父様と結婚したいなんて言ってません。私はあの日からずっと……」


 私はそう言って、ぷーっと頬を膨らます。

 侍女のメイは乳母の娘であり、ずっと一緒に育った一番仲のいい姉妹のようなものでで、王女という立場であっても、本音で話せる数少ない存在だ。


「それ聞いたら、国王様は号泣してしまうと思いますよ」

「もう、大げさね。お姉さまたちがみんなお嫁に行ってしまってから、確かに涙もろくなられたけど、そんなことでは泣かないわよ」

「第一王女様も第二王女様も、みんな他国へ嫁いでしまいましたからね。この城にはもうルチア様と王太子様しかいませんものね」
 

 姉たちはこの前の秋と冬に相次いで、他国へ輿入れしてしまった。政略的意味合いが全くないとは言わないが、父の意向でお見合いというよりはお互いが納得する形で婚姻を結ぶことが出来た。

 近年の王族にしては姉たちはとても恵まれていると言えるだろう。一重に、父や大臣、そして騎士たちがこの国を守っていて、今の平和があるからだ。

 この10年ちょっとで、本当に国は平和になったと言える。そうあの日、母との最期の別れの日から……。
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