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「ああ、皆さまはそんなだからココがどこか理解されていないのですね」
「はぁ?」
「だってそうでしょう。ここは王立の学園。貴族として学問を学びに来ているのなら、身分や作法はきちんとわきまえなさい」
「なんであんたにそんなことを言われないといけないの」
「貴族だからです」
「元でしょう?」
「その考えも浅はかなら、貴族として振る舞えもしないのならば、ここでは生きてはいけませんよ。貴族社会というものはそういうものです」
「馬鹿にしてんの!」
ラナは机をドンと叩き、立ち上がる。
でも私も引く気などなければ、怖くもなかった。
「貴族とはなんたるかを学ぼうともしないような方たちはここではふさわしくなどありません。退出しなさい、ラナ」
「だからなんであんたに指図されなきゃいけないのよ」
「その振る舞いがふさわしくないからって、何度もティアに言われてるのにまだ分からないのかしら。目障りだわ」
いつの間にか、リーリエが私の後ろに立ちその涼やかな声を上げた。
さすがにリーリエが誰か知っているのか、他の二人は真っ青な顔で席を立つ。
「こんな方たちが同じ貴族だなんて」
「ごめんなさいリーリエ。そしてこの場にいらっしゃった、皆様方。私が心よりお詫び申し上げます」
私は後ろを振り返り、他の集まっていた令嬢たちに深く頭を下げた。
同じ一族として……本当に恥ずかしい。
我が家の家名に泥を塗るとは、本当にこのことだ。
思い入れがないからきっとこんなことが出来るのね。
いくら貴族になったばっかりだからといって、これは酷すぎる。
こんなことになるなら……我が男爵家はあの時になくなるべきだったのかもしれない。
「どうしてティアが謝る必要性があるの? 悪いのはティアではないのに」
「それでも、我が一族としてみっともない振る舞いでみんなに迷惑をかけたことにはかわりないから」
「……まったくとんでもない方が、ティアの家を継いだものね。これは少し考えないと」
「リーリエ」
「こんな風にティアに迷惑をかけ、また貴族としての振る舞いも出来ないような方はこの学園にはふさわしくないわ」
「そうですわ。ルイス男爵令嬢がお可哀想」
「ええ。まったくですわ。こんなひどい仕打ち」
「こんなのでは、確かに家に居たくない気持ちも分かるわ」
リーリエの意見に賛同するかのように、他の令嬢たちも口々に声をそろえた。
彼女たちの本心は見えなくとも、ただ敵は同じだと認識してくれたよう。
貴族は基本的に本音では決して話をすることはない。
仮面のような薄っぺらい何かをかぶって、表面だけで会話を行う。
だからその中まできちんと読み取れないものは、ココでは生き残れしない。
でもこんな風に、分かりやすい敵には別だ。
隠す必要性もなく、また繕う必要性もない。
だってこの場において、ラナたちは明らかに歓するメリットすら誰にもないから。
「だからルイス男爵令嬢は寄宿舎に入られることになったのですね」
「お聞きしましたわ。でも寄宿舎なんて大変なんでしょう?」
心配しつつも、彼女たちはちゃんと私を値踏みしている。
リーリエには基本的に絶対に逆らうようなことはないが、私は別だ。
次期公爵夫人という座があればこそ、彼女たちは私のことを上に見てきただけ。
先ほどのラナの振る舞いや、寄宿舎に入ることを考えたら、きっと私の方が下であると思い始めているはず。
仕方ないけど、こういう上下関係は本当に疲れる。
「それがティアのために公爵様が特別室をご用意なさって下さったのよ。元隣国の王女様が使われていた、特別室を」
「まぁ。それは本当なのですかルイス男爵令嬢」
「ええ。公爵様も公爵夫人にもとても可愛がっていただいて……。今回この寄宿舎に入るのに、家具やドレスも全て一新して下さったのです」
「まぁ。それは本当に愛されているのですね」
「羨ましい」
「ええ。とっても愛されているんですの、カイル様にも」
私はきっぱりと言い放ったあと、後ろを振り返った。
そして真っすぐにラナを見る。
そう。愛されてると思う。
だから婚約者の座は絶対に渡したくない。
今はまだ、私には何にも価値はないけど。
でも渡したくないもの。貴族が何たるかも理解しようとしないラナになんて。
「それで勝ったつもりなの? 後ろ盾もいないくせに」
「勝った負けたではなく、これは現実の話ですわ。さぁ、とっととお引き取りを」
「ふんっ」
「ああ、待ってー」
「ラナー」
ドスドスという足音が聞こえそうなほど、大きな音を立てながら三人はラウンジを出ていく。
すれ違う瞬間、ラナは憎しみの籠った目をしていたが、私はそれを無視した。
「はぁ」
「ティア、大丈夫? 顔色が悪いわ!」
一気に気が抜けたのか、ラナたちがラウンジから出たのを確認すると、ゆらゆらと目の前の世界が揺れた。
私は暗くなる目の前に驚きつつ、左手で顔を抑え、反対でテーブルに手を着き、倒れるのだけは避ける。
疲れた。
言い争いにも、この状況にも。
心配そうな声を出すリーリエに『大丈夫』と言いたくても、思ったように体が動かなかった。
座ったら少しは楽になるかしら。
こんなところでみっともなく倒れるわけにもいかないのに。
「ティア!」
ああ。今度は幻聴まで聞こえる。
今日はカイル様は学園にはいるはずがないのに。
ちょっと本当に調子が悪すぎるかもしれない。
どうしたらいいのかしら。
そんな私の体が、急にふわりと軽くなった。
「はぁ?」
「だってそうでしょう。ここは王立の学園。貴族として学問を学びに来ているのなら、身分や作法はきちんとわきまえなさい」
「なんであんたにそんなことを言われないといけないの」
「貴族だからです」
「元でしょう?」
「その考えも浅はかなら、貴族として振る舞えもしないのならば、ここでは生きてはいけませんよ。貴族社会というものはそういうものです」
「馬鹿にしてんの!」
ラナは机をドンと叩き、立ち上がる。
でも私も引く気などなければ、怖くもなかった。
「貴族とはなんたるかを学ぼうともしないような方たちはここではふさわしくなどありません。退出しなさい、ラナ」
「だからなんであんたに指図されなきゃいけないのよ」
「その振る舞いがふさわしくないからって、何度もティアに言われてるのにまだ分からないのかしら。目障りだわ」
いつの間にか、リーリエが私の後ろに立ちその涼やかな声を上げた。
さすがにリーリエが誰か知っているのか、他の二人は真っ青な顔で席を立つ。
「こんな方たちが同じ貴族だなんて」
「ごめんなさいリーリエ。そしてこの場にいらっしゃった、皆様方。私が心よりお詫び申し上げます」
私は後ろを振り返り、他の集まっていた令嬢たちに深く頭を下げた。
同じ一族として……本当に恥ずかしい。
我が家の家名に泥を塗るとは、本当にこのことだ。
思い入れがないからきっとこんなことが出来るのね。
いくら貴族になったばっかりだからといって、これは酷すぎる。
こんなことになるなら……我が男爵家はあの時になくなるべきだったのかもしれない。
「どうしてティアが謝る必要性があるの? 悪いのはティアではないのに」
「それでも、我が一族としてみっともない振る舞いでみんなに迷惑をかけたことにはかわりないから」
「……まったくとんでもない方が、ティアの家を継いだものね。これは少し考えないと」
「リーリエ」
「こんな風にティアに迷惑をかけ、また貴族としての振る舞いも出来ないような方はこの学園にはふさわしくないわ」
「そうですわ。ルイス男爵令嬢がお可哀想」
「ええ。まったくですわ。こんなひどい仕打ち」
「こんなのでは、確かに家に居たくない気持ちも分かるわ」
リーリエの意見に賛同するかのように、他の令嬢たちも口々に声をそろえた。
彼女たちの本心は見えなくとも、ただ敵は同じだと認識してくれたよう。
貴族は基本的に本音では決して話をすることはない。
仮面のような薄っぺらい何かをかぶって、表面だけで会話を行う。
だからその中まできちんと読み取れないものは、ココでは生き残れしない。
でもこんな風に、分かりやすい敵には別だ。
隠す必要性もなく、また繕う必要性もない。
だってこの場において、ラナたちは明らかに歓するメリットすら誰にもないから。
「だからルイス男爵令嬢は寄宿舎に入られることになったのですね」
「お聞きしましたわ。でも寄宿舎なんて大変なんでしょう?」
心配しつつも、彼女たちはちゃんと私を値踏みしている。
リーリエには基本的に絶対に逆らうようなことはないが、私は別だ。
次期公爵夫人という座があればこそ、彼女たちは私のことを上に見てきただけ。
先ほどのラナの振る舞いや、寄宿舎に入ることを考えたら、きっと私の方が下であると思い始めているはず。
仕方ないけど、こういう上下関係は本当に疲れる。
「それがティアのために公爵様が特別室をご用意なさって下さったのよ。元隣国の王女様が使われていた、特別室を」
「まぁ。それは本当なのですかルイス男爵令嬢」
「ええ。公爵様も公爵夫人にもとても可愛がっていただいて……。今回この寄宿舎に入るのに、家具やドレスも全て一新して下さったのです」
「まぁ。それは本当に愛されているのですね」
「羨ましい」
「ええ。とっても愛されているんですの、カイル様にも」
私はきっぱりと言い放ったあと、後ろを振り返った。
そして真っすぐにラナを見る。
そう。愛されてると思う。
だから婚約者の座は絶対に渡したくない。
今はまだ、私には何にも価値はないけど。
でも渡したくないもの。貴族が何たるかも理解しようとしないラナになんて。
「それで勝ったつもりなの? 後ろ盾もいないくせに」
「勝った負けたではなく、これは現実の話ですわ。さぁ、とっととお引き取りを」
「ふんっ」
「ああ、待ってー」
「ラナー」
ドスドスという足音が聞こえそうなほど、大きな音を立てながら三人はラウンジを出ていく。
すれ違う瞬間、ラナは憎しみの籠った目をしていたが、私はそれを無視した。
「はぁ」
「ティア、大丈夫? 顔色が悪いわ!」
一気に気が抜けたのか、ラナたちがラウンジから出たのを確認すると、ゆらゆらと目の前の世界が揺れた。
私は暗くなる目の前に驚きつつ、左手で顔を抑え、反対でテーブルに手を着き、倒れるのだけは避ける。
疲れた。
言い争いにも、この状況にも。
心配そうな声を出すリーリエに『大丈夫』と言いたくても、思ったように体が動かなかった。
座ったら少しは楽になるかしら。
こんなところでみっともなく倒れるわけにもいかないのに。
「ティア!」
ああ。今度は幻聴まで聞こえる。
今日はカイル様は学園にはいるはずがないのに。
ちょっと本当に調子が悪すぎるかもしれない。
どうしたらいいのかしら。
そんな私の体が、急にふわりと軽くなった。
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