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 そもそも、確かに先ほどまで私は駅のホームにいたはずだった。

 混雑する朝の通勤時間、プラットホームで電車を待っていた。

 私がいた位置は前から2列目。

 ながらゲームをしていると、後ろで諍いが起こった。

 サラリーマン同士が割り込んだとか、何かもめ出したのだ。

 それが取っ組み合いにまで発展し、数名が止めに入った。

 混雑するホームでそんなことが起きれば、必然的に体が押される。

 誰かの悲鳴が聞こえた。

 ちょうど電車が入ってくるタイミングで、押された前の子がホームに落ちかけたのだ。

 危ないと思って私は手を出したのか、その子に掴まれたのか。

 あっという間に、二人はホームへ落ちた。

 覚えている記憶はそこまで。

 おそらく私はその時、死んでしまったのだろう。

 いやいや。どんだけ運が悪いのよ私。

 明日の新聞の一面は、駅構内の喧嘩に巻き込まれOLが~とかになってるのかな。

 って、問題はそこじゃなかった。

 今私がいるこの世界がその時やっていた乙女ゲーム『転生令嬢は華やかに愛される』だということだ。

 しかも私の一推しであるメイン攻略キャラ、リオンルートだ。

 悪役令嬢であるルーシアは、自分の婚約者から想いを寄せられるクロエに嫉妬し、数々の嫌がらせをした挙句、毒殺を試みる。

 しかしそのことに気付いたリオンに、阻止されるのだ。

 そして本来ならばこの婚約式にて正式な婚約者となる場で、断罪される。

 リオンルートのルーシアは悲惨だ。

 罪を認めなければ、王族への毒殺容疑で斬首。

 認めたところで牢屋にて獄死。

 どちらにしても、ルーシアにはこの先に死しか待っていない。

 いやいやいやいや。

 さすがに積みすぎでしょ、これは。

 なぜ私は今、このタイミングで記憶を取り戻してしまったのだろう。

 巻き込まれて死んだ上に、もう一度死ぬ運命なんて。

 運がないとか、すでにそんなレベルではないし。

 そりゃあ、ラノベとか読み漁ってたし。

 一回ぐらいは異世界転生とかにあこがれたこともあったわよ。

 しがないOLで毎日何もない繰り返しのまま死ぬならなんて考えていた頃の私を殴りたい気分ね。


「泣いたところで無駄だ。お前が今までしてきたことを考えろ」

「私が……私が今までに……なにをしたと」


 ホントに神様、私何かしました?

 お盆に実家に帰ってお墓参り行かなかったとか。

 結婚しろとうるさい親戚どもの集まりに顔を出さなかったのか。

 それがそーーーーーーーんなに、いけないことだったのかな。

 他、あとなんかあった?

 あー、結婚して上からマウントの同級生の年賀状無視したなぁ。

 あとは、セクハラとアルハラしてくる上司のことをその上の上司に相談したとか。

 いやいや。

 全然普通だと思うんだけど。

 それか、恋人がずっといなかった罪とか。

 ん-。さすがにそれはないか。

 別に好きでおひとり様していたわけでもないし。
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