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「はぁはぁはぁはぁ」
手を引いたまま、見知らぬ町の中をどれだけ走っただろうか。
角という角を曲がり、気づいたら奥まった暗い路地に私たちはいた。
さすがに引き離せたことだけは分かる。
肩で息を整えながら、私は繋いだ手を離した。
「ここまで来れば、さすがに大丈夫そうね」
「どうして助けたんですか?」
私は予想もしていなかった返しに、思わず女性を見上げた。
ありがとうございます。と、そんな台詞が返ってくると思ってたのに。
もしかしてありがた迷惑だったのかしら。
あー。私の悪い癖ね。
相手のコトを良く知りもせず、確認もせず。
ただ困ってると思ったら、すぐに手を出してしまう癖……。
前世でもコレで何度か失敗してるのに。
生まれ変わっても、人ってこんなにも変われないものなのね。
自分で自分にがっかりする。
「困ってそうに見えたから勝手に助けてしまったのだけど、迷惑だったのなら謝るわ」
「ああ!」
切れ長の美しい瞳を驚いたように丸くさせたあと、彼女はポンっとまるで納得したように自分の手を自分で叩いた。
んんん? なんかこの娘の反応、何から何まで良くわからないわね。
「そういう意味で聞いたわけではないんですよ。ただ単に好奇心で聞いたんです」
「好奇心?」
「だってそうでしょう。相手は熊のように大きなゴロツキ二人。しかも絡まれてる女性すら、自分より大きな人」
「体格って、何か関係あるの?」
「フツーは?」
「そう……」
確かに言われて見れば、あの中で一番非力なのは私よね。
そして現実問題、武術が出来るわけでもなければ、体力が有り余るほどあるわけでもない。
でも私にはそんなこと気になりはしなかった。
だって目の前に困ってる人がいる。
ただの偽善でしかないけど、見て見ぬふりが出来ないタチなのよ。
「困ってる人がいたら、その人が大柄だろうが自分より強そうだろうが、あんまり関係なくなってしまうのよね」
「優しいのですね」
「そうでもないわ。ただ単に見過ごせないだけ。だって見過ごしたら、自分が後悔しそうで嫌だから」
「でもそれだけでは、中々出来ることではないですよ?」
「そうかしら」
「ええ、そうです」
これは褒められてるって思ってもいいのかしら。
なんかそれはそれで変な感じ。
今まで一度だってそんな風に言われたことなんてなかった。
でもそれでも私は私のしたい様にしてきたから、他人からどう思われたって気にしないで生きて来た。
気にしたところでこの性格は直らないし、どうせ自分勝手な人助けを辞めることは出来ないのだから。
「今日はありがとうございました」
「あなたみたいな美人が一人で町中をフラフラと歩くものではないわ」
「ですね。初めて来たのですが失敗しました」
着ている漢服も絹のようだし、どこかのお金持ちの娘か何かかしらね。
家出って感じには見えないけど。
でも帝国とはいえ、女性一人で歩くのはあんまり良くないみたい。
私も宿とかを探して、明日からどうするか決めないとね。
「ところで、お礼をしたいのですがうちに来ませんか?」
「お礼だなんて、そんなの大丈夫よ。ただ一緒に走っただけだし」
「いえいえ。それでも、です!」
「でも……」
「どこか行く予定があったりしますか?」
んーーー。そう言われてもなぁ。
行く宛は決まってはいないけど、お礼っていうには大げさすぎるのよね。
どうしようかと考える私の手をにこやかな顔で掴むと、有無を言わさずぐんぐんと歩き出した。
手を引いたまま、見知らぬ町の中をどれだけ走っただろうか。
角という角を曲がり、気づいたら奥まった暗い路地に私たちはいた。
さすがに引き離せたことだけは分かる。
肩で息を整えながら、私は繋いだ手を離した。
「ここまで来れば、さすがに大丈夫そうね」
「どうして助けたんですか?」
私は予想もしていなかった返しに、思わず女性を見上げた。
ありがとうございます。と、そんな台詞が返ってくると思ってたのに。
もしかしてありがた迷惑だったのかしら。
あー。私の悪い癖ね。
相手のコトを良く知りもせず、確認もせず。
ただ困ってると思ったら、すぐに手を出してしまう癖……。
前世でもコレで何度か失敗してるのに。
生まれ変わっても、人ってこんなにも変われないものなのね。
自分で自分にがっかりする。
「困ってそうに見えたから勝手に助けてしまったのだけど、迷惑だったのなら謝るわ」
「ああ!」
切れ長の美しい瞳を驚いたように丸くさせたあと、彼女はポンっとまるで納得したように自分の手を自分で叩いた。
んんん? なんかこの娘の反応、何から何まで良くわからないわね。
「そういう意味で聞いたわけではないんですよ。ただ単に好奇心で聞いたんです」
「好奇心?」
「だってそうでしょう。相手は熊のように大きなゴロツキ二人。しかも絡まれてる女性すら、自分より大きな人」
「体格って、何か関係あるの?」
「フツーは?」
「そう……」
確かに言われて見れば、あの中で一番非力なのは私よね。
そして現実問題、武術が出来るわけでもなければ、体力が有り余るほどあるわけでもない。
でも私にはそんなこと気になりはしなかった。
だって目の前に困ってる人がいる。
ただの偽善でしかないけど、見て見ぬふりが出来ないタチなのよ。
「困ってる人がいたら、その人が大柄だろうが自分より強そうだろうが、あんまり関係なくなってしまうのよね」
「優しいのですね」
「そうでもないわ。ただ単に見過ごせないだけ。だって見過ごしたら、自分が後悔しそうで嫌だから」
「でもそれだけでは、中々出来ることではないですよ?」
「そうかしら」
「ええ、そうです」
これは褒められてるって思ってもいいのかしら。
なんかそれはそれで変な感じ。
今まで一度だってそんな風に言われたことなんてなかった。
でもそれでも私は私のしたい様にしてきたから、他人からどう思われたって気にしないで生きて来た。
気にしたところでこの性格は直らないし、どうせ自分勝手な人助けを辞めることは出来ないのだから。
「今日はありがとうございました」
「あなたみたいな美人が一人で町中をフラフラと歩くものではないわ」
「ですね。初めて来たのですが失敗しました」
着ている漢服も絹のようだし、どこかのお金持ちの娘か何かかしらね。
家出って感じには見えないけど。
でも帝国とはいえ、女性一人で歩くのはあんまり良くないみたい。
私も宿とかを探して、明日からどうするか決めないとね。
「ところで、お礼をしたいのですがうちに来ませんか?」
「お礼だなんて、そんなの大丈夫よ。ただ一緒に走っただけだし」
「いえいえ。それでも、です!」
「でも……」
「どこか行く予定があったりしますか?」
んーーー。そう言われてもなぁ。
行く宛は決まってはいないけど、お礼っていうには大げさすぎるのよね。
どうしようかと考える私の手をにこやかな顔で掴むと、有無を言わさずぐんぐんと歩き出した。
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