【完結】運命の番？ この世界に白馬の王子様はいないようなので、退場させていただきます。

エピローグ

『拝啓　ティナ様。風薫る季節となりましたがいかかお過ごしでしょうか。こちらはとても過ごしやすく……』

「アンジュ、お茶が入りましたよ」


　窓からさわやかな風が吹き、叔母と私の青い髪を揺らす。

　随分と艶やかになり少しずつ元気を取り戻しつつある叔母は、並ぶと姉妹に間違われるほどだ。

　あれからティナのお父様である現宰相とアレン殿下の口添えのおかげで、やっと領地療養が叶うことになった。

　ティナは自分だけの王子様を見つけたらしく、隣国に嫁ぐことも決まった。

　私はその結婚式に呼ばれていて、今からとても楽しみにしている。

　アレン殿下には叔母の口利きの代わりに婚約を申し込まれたものの、丁重にお断りしてある。

　ティナのご友人の話だと、まだ殿下は私に未練があるらしい。

　今、彼の婚約者の席は空席のまま。

　彼の空席は今のところ埋まる予定もない。

　それもそうだろう。

　運命の番にも婚約者にも逃げられた男など、誰が見向きもするものか。

　いくらその身分があるとはいえ、王位継承権は二位でしかない彼はそれほど高嶺の花でもないらしい。


「んー、やっぱり私、結婚は当分いいや」

「そんなこと言っていると、そのうちどこかのいい人に巡り合って、あなたも結婚するかもしれないでしょ」

「そうだけど、ま、その時は私がじっくり選ぶつもりかな」


　そう言って、私は意地悪な笑みを浮かべる。


「そうね、それがいいわ。どんな人か、じっくり選ばないとね」


　私たちは二人で顔を見合わせて、クスクス笑い合う。

　白馬に乗った王子様はいなくても、私たちはようやく平穏で幸せな日々を手に入れることができた。

　そう自分の手で掴み取って。

　それだけで十分、満足だった。