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第四話 断罪よりも恋よりも大事なモノ
しおりを挟むうわぁ、すごーい。私、生断罪初めて見ちゃった。
そう口から出かけた言葉を私は飲み込んだ。
生断罪。
乙女ゲームやラノベなどでよくあるヒロインをいじめていた悪役令嬢の、殿下からの断罪シーン。
その場面を見てようやく思い出したのだ。
私には今より前に、フツーの女子高校として生きていた記憶があることを。
ただそう考えると、この私の立ち位置は少しまずい。
非常にまずい。
先ほどの水をかけられたのもそうだが、今までも小さな嫌がらせを受けてきた。
そして今、殿下が婚約者であるティナを断罪&運命の番?
「俺はこのアンジュを愛している。そしてアンジュは俺の運命の番。今まで宰相などに気を使って婚約はそのままにしていたが、愛する者でもない君をそのまま正妃などにするものか」
殿下が私の肩を引き寄せた。
本来ならばヒロインはここで殿下にしなだれかかり見つめ合い、愛をささやく場面なのだろう。
そう問題は、私にはまったくその気がないというコトだ。
困ったなぁ。
運命の番など言われても、まったく私にはそんな感情はない。
こんな一方的運命などあるのだろうか。
それとも転生者だから?
いやそれにしても……うん、困ったなぁ。
「どうしてなのです、殿下」
ティナはその場に膝を付き、泣き崩れた。
悪役令嬢というより、その可憐な姿はやはりヒロインだ。
凛としているのにその実とても内面は儚く、殿下に近づく私をどうしても排除したいという嫉妬に駆られて細やかないじめをしていたという。
しかし殿下は彼女の思いなどまったくないモノというように、気にも留めはしない。
「ティナ様‼」
取り巻きの二人が、ティナを支えた。
そして二人の非難の目はすべて、私に向けられている。
まぁ、それはそうでしょうよ。
どう頑張っても、自分でさえ私が悪役にしか思えないのだから。
「殿下……殿下……わたくしは……」
でもそれでも……私には、どうしても叶えたい目的がある。
その目的は記憶が戻ったところで、変わりはしない。
ただ、この状況をどうするか。
このまま全てを話してしまえば、殿下の気は私から離れてしまうかもしれない。
そうなれば、もう他に願いを叶える手立てはない。
ただこのまま、殿下の恋心を利用するのも気が引けてくる。
そして何より心配なのは、今婚約破棄を告げられたティナだ。
本来は、私がいなければ彼女は悪役になんてならずにすんだのに。
今更、この前言われたばかりの言葉が突き刺さる。
はぁ。どうしたものか。
全部をめんどくさいと放り投げてしまえばいいのに……それは不可能だ。
今の私にとっては、他人ひとの色恋なんて知ったとこではない。
なのにその中心に、よりによって自分がいるなんて。
「さぁ行こう、アンジュ」
「殿下……。私の話を聞いていただけますか?」
「どうしたんだい、アンジュ。話なら、部屋でいくらでも聞くぞ? さぁ、二人でお茶でもしよう」
愛おしむような優しい笑み。
先ほどのティナに向けていた顔とは全く違う。
なぜこの微笑みを彼女に向けてあげないのだろう。
こんなにも私に嫉妬するほど、自分を愛してくれてるのに。
「いえ、殿下。ここでティナ様にも聞いていただきたいのです」
「そうか。そなたも、ティナに言いたいこともあるだろう」
「あのぅ……アレン様、今から言うことや話すことは不敬罪になんてならないですよね?」
上目遣いに、猫なで声。
どちらも殿下の大好きなモノだ。
殿下の攻略法を考えるうちに、私が身に付けたもの。
殿下は知的で美しいティナのような人よりも、ややおバカで可愛らしい女の子の方が好きなのだ。
とはいうものの、そんな贅沢なコトを言えるのは彼の身分の致すところ。
そこに気づけていない時点で、なんとも残念な人だ。
ああ、もしかしてこんな感じだから運命の番とかと勘違いされたとか?
そもそも、私が運命を感じてない時点で番というモノが理解できないからどうしようもないんだけど。
「あぁアンジュ、やっと名前で呼んでくれるんだな。もちろんだ、どんなことでも言うがいい」
「ほんとですかぁー? アンジュうれしいです」
ええ、本当に。
この言質があるとないかとでは、話が全く違ってきてしまうから。
「えっとぉ、ではまずぅ、婚約はお断りします~」
にこやかに私が宣言すると、みんながあっけに取られたように固まった。
それもそうだろう。
今この瞬間まで、ここにいる私以外は私がヒロインであり殿下の運命の番だと疑ってもいなかったのだから。
私は目を閉じもう一度目的を確認し、ここに来る数時間前のことを思い出した。
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