【完結】運命の番? この世界に白馬の王子様はいないようなので、退場させていただきます。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

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第三話 生断罪シーン

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「ティナ」


 色とりどりの花が咲き誇る中庭で行われていたティーパーティーに、殿下が乱入する。

 息一つ切れていない殿下に、私は追いつくので精一杯だった。

 殿下の登場に、みんなが椅子から立ち上がる。

 確かにそれは、先ほど私に水をかけた子たちだ。

 その一番奥の席に、殿下の婚約者であるティナが静かに座っていた。

 誰よりも落ち着いており、同性の私から見てもその所作すら美しい。

 ティナは殿下を見るなり一瞬眉を顰めた。

 しかしそれも一瞬のことで、まるで何事もなかったかのように立ち上がる。


「アレン殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」


 ゆったりとお辞儀をすると、長い髪がさらりと揺れた。

 その表情は先ほどの険悪なモノではなく、にこやかな笑みを浮かべている。

 ああ、この人は殿下のコトが好きなんだろうな。

 殿下を見つめる瞳、やや赤らめた頬。

 彼を見つめたその瞬間から確かに美しく綺麗だった表情は、まるで恋をする女の子特有の可愛らしさで溢れていた。


「挨拶など、どうでもよい」


 しかし殿下はそんな可愛らしい表情をした、ティナを一蹴する。

 さすがの私でさえ、開いた口が塞がらない。

 いくら私に水をかけたとはいえ自分に好意を抱く人間に対して、あまりに辛辣だ。


「殿下ともあろう方がどうなされたのですか。そのように声を荒げては、下の者たちが驚いてしまいます」


 ティナは、殿下の後ろにいた私を睨みつけた。

 まぁ、それはそうでしょうね。

 でも、私はちゃんと止めたんだよ……。

 被害者であっても、なんだか申し訳なさで私の中はいっぱいになっていく。

 恋する乙女の邪魔をしたのだ。

 それは水ぐらいかけられても、確かに仕方のないことなのかもしれない。


「どうなされたでは、ないだろう。お前がこのアンジュにしていた悪行の数々を知らないとでも思っているのか」

「だとしたら、なんだと言うのですか」

「開き直るのか」

「開き直るもなにも……。たまたま、水捨てたところにそこの者がいただけでしょう? そんないちいち細かいことを言われましても、覚えていませんわ」


 当の本人である私を置き去りにして、二人の会話が過熱していく。

 私としては、私も悪いところがあったのならば直すので勝手に話を進めて欲しくないんだけどなぁ。

 しかし二人の話に、入る余地などない。

 身分とかそういう問題じゃなくて、いじめは絶対にダメなんだけど。

 いじめられてると私は気づいてなかったから良かったという案件なので、殿下が怒るのも分かる。

 分かるのだが、なんだろう。

 全体的に感じているこの違和感。

 先ほど水をかけられた時に感じた、何かを思い出しそうな感じが甦ってきた。


「……そんなこと俺が判断すべきことであって、そなたにいちいち指図されるいわれはない」

「ですがわたくしは、殿下の婚約者ではありませんか。その婚約者であるわたくしを、ないがしろになさるとおっしゃられるのですか」


 ティナは目に涙を貯め、訴えかける。

 親同士が、または国が決めた婚約者でしかないというのにティナ様は殿下のことが本当に好きなのだろう。

 かつての、あの人と同じように……。

 ティナのその健気な姿に、私の大切な人が重なった。

 またココでも同じように繰り返すのだろうか。何度も何度も。


「そうだな……」

「アレン殿下」

「ティナ、俺がいままで曖昧な態度を取ってきたことがいけなかったのだろう。そうだな……今この時をもって、きみとの婚約を破棄させてもらおう」

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