14 / 14
014 エピローグ
しおりを挟む
「いやぁ、スッキリしましたね~、お嬢様」
いつの間にかまたお嬢様呼びに戻っているマリアを、私は見上げた。
男爵家の執務室は、今まで以上に小綺麗になっており、先日入れ替えしたばかりの家具たちから木の香りが漂っている。
いや、いいわね。
自分だけにお金をかけられるって。
中古とはいえ、やっと手に入れた自分だけの屋敷だし。
「そうね。この屋敷も、人間関係も一掃出来て良かったわ」
「でもやっとご自由になれたというのに、まだ仕事をなさるんですか?」
マリアの休憩しろと言わんばかりの視線が突き刺さる。
「そうは言ってもねぇ。だってお父様たちも追い出してしまったし、仕事をするのは私しかいないじゃない」
「そういう時に、有能な秘書が必要なんですよ~」
「ああ、それは言えてるわね。平民でも貴族でもなんでもいいから、仕事が出来る人が欲しいわ」
元々父はこういった仕事をある程度、私に押し付けていた。
でも父がいなくなってしまった分と、自分の分の仕事が重なってしまって量が二倍になってしまったのだ。
このまま一人でこなすのは確かに無理があるのよね。
ん-。だけど、これっていう適任者もいないし。
「そんな時は、やっぱり出会いを求めて夜会に出るとか、町に出るとかなさらないと~」
「えええ。どうしてそうなるのよ」
「だって引きこもっていたら、いい人なんて見つけられませんよ?」
「それはそうかもしれないけど……」
マリアの言ってることの意味は分かるけど、いくら白い結婚だったとはいえ、離婚したばっかりで出歩くっていいのかしら。
周りに変な目で見られる気がするし。
今の私の周りに集まってくるような人なんて、碌なヤツがいないと思うんだけど。
「でも変な人が寄ってきても嫌だし……」
「そこはお嬢様が選べばいいんですよ。せっかくご自身で全てのことを選べるようになったんじゃないですか~」
「……」
そうね。
それは、そう。
今まで何一つ選ぶにしたって、あの人の顔色を窺うことしかできなかったものね。
だけど今はどこまでも自由なんだ。
変な人が来たら自分から断ればいい。
自分で自分がいいと思う人を選べばいいんだ。
「良くないモノを切った後っていうのは、良い縁に恵まれるとも言いますし。ね? 出かけましょう、お嬢様」
「もー。そうね。たまにはいいかもしれないわね。気分転換しましょうか」
「ですです!」
ノリノリなマリアを見ていると、こちらまで楽しくなってくる。
厄介ごとがないってだけで、こんなにも人生が明るく楽しくなるものなのね。
本当に捨ててしまって良かったわ。
「でもマリアンヌ様は大丈夫ですかね~?」
出かける用意をしつつ、私は白い帽子に手をかけ立ち止まった。
マリアンヌは当初の予定通り、ダミアンを連れて出て行った。
こっそりその荷物の中にお金を入れておいてあげたけど、彼女はいつそれに気づくかしら。
不幸な状況であるはずなのに、どこまでもマリアンヌは幸せそうな顔をしていた。
これこそが彼女の望んだ未来だから。
「彼女の望む未来で生活して、嫌になったらちゃんと捨てるんじゃないかな、マリアンヌも」
「捨てるって」
「だってそうじゃない? 私ならあんな元夫など不要だもの」
「あー、まぁ、そうですね。確かにいらないですね~」
「ダメになったら、マリアンヌもココにでも戻ってくればいいのよ。それこそ彼女を縛るものはもうないんだから」
「ああ、それもいいですね~。みんなでお仕事も悪くないです」
「でも本当に女ばっかりになってしまうわね」
「それならほら、お嬢様が新しい旦那様を見つけてきて下されば問題ないですよ」
「結局そこに戻るのね」
「もちろんです!」
思えば浮気相手とその妻なんて、相容れぬ存在だったはずなのに。
気づけば誰よりも、マリアンヌとは他愛のない会話が出来るようになっていた。
だから次に会った時は、ちゃんと普通の関係を築けそうな気がする。
お互いに大切なモノを手に入れたのだから。
その後、私が捨てた人たちがどうなったかなど知らない。
大切な物だけが残った。
ただ、それだけで私は十分幸せだった。
「さぁ行きましょう、お嬢様。もたもたしてると日が暮れちゃいますよ~」
「はいはい。今行くわ、マリア」
私は執務室を出る前に、もう一度振り返った。
大切なモノは全てココにある。
そんな幸せを噛みしめて。
❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.
この度は本作品をお読みいただきまして、ありがとうございました。
ブクマ・しおり・応援・感想等
いただけますと、作者大変感激いたします。
また今回、人生初のファンタジーカップへ参加いたします。
そちらも順次アップしていきますので、応援いただけますと幸いです。
たくさんの作品から見つけていただけまして、本当にありがとうございました(´;ω;`)
いつの間にかまたお嬢様呼びに戻っているマリアを、私は見上げた。
男爵家の執務室は、今まで以上に小綺麗になっており、先日入れ替えしたばかりの家具たちから木の香りが漂っている。
いや、いいわね。
自分だけにお金をかけられるって。
中古とはいえ、やっと手に入れた自分だけの屋敷だし。
「そうね。この屋敷も、人間関係も一掃出来て良かったわ」
「でもやっとご自由になれたというのに、まだ仕事をなさるんですか?」
マリアの休憩しろと言わんばかりの視線が突き刺さる。
「そうは言ってもねぇ。だってお父様たちも追い出してしまったし、仕事をするのは私しかいないじゃない」
「そういう時に、有能な秘書が必要なんですよ~」
「ああ、それは言えてるわね。平民でも貴族でもなんでもいいから、仕事が出来る人が欲しいわ」
元々父はこういった仕事をある程度、私に押し付けていた。
でも父がいなくなってしまった分と、自分の分の仕事が重なってしまって量が二倍になってしまったのだ。
このまま一人でこなすのは確かに無理があるのよね。
ん-。だけど、これっていう適任者もいないし。
「そんな時は、やっぱり出会いを求めて夜会に出るとか、町に出るとかなさらないと~」
「えええ。どうしてそうなるのよ」
「だって引きこもっていたら、いい人なんて見つけられませんよ?」
「それはそうかもしれないけど……」
マリアの言ってることの意味は分かるけど、いくら白い結婚だったとはいえ、離婚したばっかりで出歩くっていいのかしら。
周りに変な目で見られる気がするし。
今の私の周りに集まってくるような人なんて、碌なヤツがいないと思うんだけど。
「でも変な人が寄ってきても嫌だし……」
「そこはお嬢様が選べばいいんですよ。せっかくご自身で全てのことを選べるようになったんじゃないですか~」
「……」
そうね。
それは、そう。
今まで何一つ選ぶにしたって、あの人の顔色を窺うことしかできなかったものね。
だけど今はどこまでも自由なんだ。
変な人が来たら自分から断ればいい。
自分で自分がいいと思う人を選べばいいんだ。
「良くないモノを切った後っていうのは、良い縁に恵まれるとも言いますし。ね? 出かけましょう、お嬢様」
「もー。そうね。たまにはいいかもしれないわね。気分転換しましょうか」
「ですです!」
ノリノリなマリアを見ていると、こちらまで楽しくなってくる。
厄介ごとがないってだけで、こんなにも人生が明るく楽しくなるものなのね。
本当に捨ててしまって良かったわ。
「でもマリアンヌ様は大丈夫ですかね~?」
出かける用意をしつつ、私は白い帽子に手をかけ立ち止まった。
マリアンヌは当初の予定通り、ダミアンを連れて出て行った。
こっそりその荷物の中にお金を入れておいてあげたけど、彼女はいつそれに気づくかしら。
不幸な状況であるはずなのに、どこまでもマリアンヌは幸せそうな顔をしていた。
これこそが彼女の望んだ未来だから。
「彼女の望む未来で生活して、嫌になったらちゃんと捨てるんじゃないかな、マリアンヌも」
「捨てるって」
「だってそうじゃない? 私ならあんな元夫など不要だもの」
「あー、まぁ、そうですね。確かにいらないですね~」
「ダメになったら、マリアンヌもココにでも戻ってくればいいのよ。それこそ彼女を縛るものはもうないんだから」
「ああ、それもいいですね~。みんなでお仕事も悪くないです」
「でも本当に女ばっかりになってしまうわね」
「それならほら、お嬢様が新しい旦那様を見つけてきて下されば問題ないですよ」
「結局そこに戻るのね」
「もちろんです!」
思えば浮気相手とその妻なんて、相容れぬ存在だったはずなのに。
気づけば誰よりも、マリアンヌとは他愛のない会話が出来るようになっていた。
だから次に会った時は、ちゃんと普通の関係を築けそうな気がする。
お互いに大切なモノを手に入れたのだから。
その後、私が捨てた人たちがどうなったかなど知らない。
大切な物だけが残った。
ただ、それだけで私は十分幸せだった。
「さぁ行きましょう、お嬢様。もたもたしてると日が暮れちゃいますよ~」
「はいはい。今行くわ、マリア」
私は執務室を出る前に、もう一度振り返った。
大切なモノは全てココにある。
そんな幸せを噛みしめて。
❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.
この度は本作品をお読みいただきまして、ありがとうございました。
ブクマ・しおり・応援・感想等
いただけますと、作者大変感激いたします。
また今回、人生初のファンタジーカップへ参加いたします。
そちらも順次アップしていきますので、応援いただけますと幸いです。
たくさんの作品から見つけていただけまして、本当にありがとうございました(´;ω;`)
2,246
お気に入りに追加
1,728
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説
私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。
Nao*
恋愛
素適な婚約者と近く結婚する私を病魔が襲った。
彼の為にも早く元気になろうと療養する私だったが、一通の手紙を残し彼と私の幼馴染が揃って姿を消してしまう。
どうやら私、彼と幼馴染に裏切られて居たようです──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。最終回の一部、改正してあります。)
婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。
Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。
すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。
その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。
事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。
しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。
音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。
見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。
だが、それではいけないと奮闘するのだが……
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
夫が隣国の王女と秘密の逢瀬を重ねているようです
hana
恋愛
小国アーヴェル王国。若き領主アレクシスと結婚を果たしたイザベルは、彼の不倫現場を目撃してしまう。相手は隣国の王女フローラで、もう何回も逢瀬を重ねているよう。イザベルはアレクシスを問い詰めるが、返ってきたのは「不倫なんてしていない」という言葉で……
本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。
しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。
そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。
このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。
しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。
妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。
それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。
それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。
彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。
だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。
そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
終わりまで落ち着いて読むことができ、読後感が良かったです。この後マリアンヌさんも幸せに暮らせるといいなぁと思います。
話の長さも丁度良くて読みやすかったです。
ありがとうございました。💕
とても嬉しい感想ありがとぅございます(*T^T)
嬉しすぎて作者、駆け回っております。
エ014.ピローグ・借りはきっちりお返し‼️はい(*´∀`)つ新しい世界へ踏み出そう🚶♀️💨いつかは会いたいヒトとも再会出来るかな☺️楽しく拝読しました😃ありがとうございます🎵。
この度は最後までお読みいただきありがとうございました(*T^T)
新しい門出、きっと幸多きことを祈って~ですね。
鬱屈とした日常をこれでもかと描く、物語を描く才能に脱帽です。
普通を、これほどまでに文字に圧縮するのは、なかなかない出来ないと思えるほどに上手です。
この続きも楽しみに拝読させていただきます!
鬱屈とした日常から、これでやっとアンリエッタも開放となりました。
最後までお付き合いありがとぅございました(*T^T)