12 / 14
012 父の仕掛けた罠
しおりを挟む
「結婚なさる時の契約書、よくお読みになられましたか?」
「……それは、どういう……」
余裕たっぷりに私に、何か気づいたようなダミアンは思うところがあったのか自室に駆け出す。
そして契約書を取ってくると、息を切らしながらここへ戻ってきた。
「どういうことなの! ダミアン、説明しなさい」
「契約書というのは基本、どこまでも回りくどく分かりずらく書かれています。契約する人が、わざと理解出来ないように……読むのを途中で辞めてしまうように」
甲とか乙とか。
たくさんの文字の羅列に加えて、事細かな文言が何枚にも渡って書いてある。
しかも初めは当たり障りない、理解できる内容から、だんだん最後に進むにつれて頭を使わなければいけないように。
しかも父が作成した書類は、さらに質が悪い。
一度読んだくらいでは理解できないように、わざと回りくどく作られているから。
全ては父が得をするように。
契約したら最後。
あの人にいいように搾取され、使い捨てられる。
そうなっているのだ。
だけど私はその内容を理解し、尚且つ自分のために使わせてもらったのよね。
「どこにもおかしなとこなど……」
「半分を過ぎたあたりに書いてありますよね。もしこの婚姻が無効となる場合、慰謝料として屋敷及びその家門は乙……つまり妻だった者のモノとし譲渡すると」
初めから父の狙いなど分かっていた。
どうしても父が欲しがったモノは貴族としての身分だから。
私を通して手に入れたかったし、父はこの婚姻で私を手放す気など毛頭もなかったことも。
ああ、本当に我が父ながらずる賢こくて嫌な人だと思うわ。
あの人に関わった時点で、あなたたちの負けなんて決まってたのよ。
残念ながらね。
「な、そんなこと……」
「そんなの許されるわけないじゃないのよ!」
「許されないもなにも、契約書にサインをしたのは他でもないダミアンですよ? ちゃんと読まなかったこの人がいけないのですね」
「ふざけるな! ふざけるな!」
どれだけ叫んだところで、この状況はもう覆せない。
契約書を破り捨てたとしても、もう一通は父がしっかりと保管しているのだから。
「状況がご理解出来ました?」
「こんなこと……こんなこと……」
ダミアンは書類を手にしたまま、膝から崩れ落ちた。
やっと今自分の置かれた状況が分かったのね。
でも、もう遅いのよ。
全部終わってしまった後なんですもの。
「ご自慢の愛人様に泣きつけばいいのではないですか? まぁその場合、お義母様までは無理でしょうけど」
「全部お前のせいよ!」
「そうですか? サインした人が悪いのですよ。でもほら、お義母様もまだご実家があって良かったですね」
「実家……あそこは妹が継いだのよ。そんなとこに今更戻るだなんて……」
義母と妹の仲が悪いことなど、調査済みなのよね。
こんな性格だもの。
仲良いわけなんて初めから思ってもなかったけど。
義母はすっかり小さく弱くなったように思える。
そして自分の爪を噛みながら、ブツブツと恨み言を呟いていた。
「私は一旦実家に戻りますので、私が戻る前に荷物をまとめて出て行って下さいね。でなければ、雇ってある護衛たちに強制退去させますから」
二人とももう少し暴れると想定して数名の護衛を雇ってあったのだけど、それも不要だったようね。
でもあと一つ、今回のメインが残っているから、そっちでは必要になりそうだわ。
「アンリエッタ、離婚だなんて言ったのは……その、冗談だったんだ。考え直してくれ」
「はぁ?」
急に何を言い出すかと思ったら、冗談ですって?
今まで散々な仕打ちを私にしておいて、どの口が言うのかしら。
「どうしてですかダミアン様。あなたには本当に愛している愛人様がいるではないですか」
「それは……その」
「元々、愛人様と幸せになりたかったのでしょう? だからちょうどいいじゃないですか。元に戻ったと思えば、なんでもないですよね」
「いや、だからそれは……」
「愛さえあれば何もいらないんじゃないですか? 少なくとも私ではなく愛人様に、甘い言葉を囁いてきたのですから。口に出した言葉は戻らないのですよ」
ああ、ホントに嫌な人。
あれだけマリアンヌを愛してると言いながら、自分にマリエッタを縛り付けながら、それでもお金が大事なのね。
今回のことで、マリアンヌにはある程度のお金を渡してある。
彼女がこの先、苦労することなど目に見えていたから。
そして困った時に宝石などの換金方法とか、この三年で彼女に平民としての生きる術は教えて来た。
彼女が望む幸せは、決して簡単なものではないから。
でもその望んだ先で彼と本当の意味で二人になって、それでも愛想を尽かしたのならば捨ててしまえばいい。
そう教えてもある。
だけど、本当にクズすぎるのよね。
二人で平民になったところで、この人が変わるとは到底思えないのだけど。
でもそこにしか愛を見つけれなかったマリアンヌの望みなのだから、仕方ないわね。
「私はこの先、お二人がどうなろうと知りません。元よりそういう扱いをなさってきた、ご自身を省みることです」
お幸せになんて言葉は贈ってあげない。
だってそんなことを願えるほど、私は寛容ではないから。
うなだれる二人を横目に、私はただ綺麗に挨拶だけすると食堂を出た。
もう一人……そう、父の元へ――
「……それは、どういう……」
余裕たっぷりに私に、何か気づいたようなダミアンは思うところがあったのか自室に駆け出す。
そして契約書を取ってくると、息を切らしながらここへ戻ってきた。
「どういうことなの! ダミアン、説明しなさい」
「契約書というのは基本、どこまでも回りくどく分かりずらく書かれています。契約する人が、わざと理解出来ないように……読むのを途中で辞めてしまうように」
甲とか乙とか。
たくさんの文字の羅列に加えて、事細かな文言が何枚にも渡って書いてある。
しかも初めは当たり障りない、理解できる内容から、だんだん最後に進むにつれて頭を使わなければいけないように。
しかも父が作成した書類は、さらに質が悪い。
一度読んだくらいでは理解できないように、わざと回りくどく作られているから。
全ては父が得をするように。
契約したら最後。
あの人にいいように搾取され、使い捨てられる。
そうなっているのだ。
だけど私はその内容を理解し、尚且つ自分のために使わせてもらったのよね。
「どこにもおかしなとこなど……」
「半分を過ぎたあたりに書いてありますよね。もしこの婚姻が無効となる場合、慰謝料として屋敷及びその家門は乙……つまり妻だった者のモノとし譲渡すると」
初めから父の狙いなど分かっていた。
どうしても父が欲しがったモノは貴族としての身分だから。
私を通して手に入れたかったし、父はこの婚姻で私を手放す気など毛頭もなかったことも。
ああ、本当に我が父ながらずる賢こくて嫌な人だと思うわ。
あの人に関わった時点で、あなたたちの負けなんて決まってたのよ。
残念ながらね。
「な、そんなこと……」
「そんなの許されるわけないじゃないのよ!」
「許されないもなにも、契約書にサインをしたのは他でもないダミアンですよ? ちゃんと読まなかったこの人がいけないのですね」
「ふざけるな! ふざけるな!」
どれだけ叫んだところで、この状況はもう覆せない。
契約書を破り捨てたとしても、もう一通は父がしっかりと保管しているのだから。
「状況がご理解出来ました?」
「こんなこと……こんなこと……」
ダミアンは書類を手にしたまま、膝から崩れ落ちた。
やっと今自分の置かれた状況が分かったのね。
でも、もう遅いのよ。
全部終わってしまった後なんですもの。
「ご自慢の愛人様に泣きつけばいいのではないですか? まぁその場合、お義母様までは無理でしょうけど」
「全部お前のせいよ!」
「そうですか? サインした人が悪いのですよ。でもほら、お義母様もまだご実家があって良かったですね」
「実家……あそこは妹が継いだのよ。そんなとこに今更戻るだなんて……」
義母と妹の仲が悪いことなど、調査済みなのよね。
こんな性格だもの。
仲良いわけなんて初めから思ってもなかったけど。
義母はすっかり小さく弱くなったように思える。
そして自分の爪を噛みながら、ブツブツと恨み言を呟いていた。
「私は一旦実家に戻りますので、私が戻る前に荷物をまとめて出て行って下さいね。でなければ、雇ってある護衛たちに強制退去させますから」
二人とももう少し暴れると想定して数名の護衛を雇ってあったのだけど、それも不要だったようね。
でもあと一つ、今回のメインが残っているから、そっちでは必要になりそうだわ。
「アンリエッタ、離婚だなんて言ったのは……その、冗談だったんだ。考え直してくれ」
「はぁ?」
急に何を言い出すかと思ったら、冗談ですって?
今まで散々な仕打ちを私にしておいて、どの口が言うのかしら。
「どうしてですかダミアン様。あなたには本当に愛している愛人様がいるではないですか」
「それは……その」
「元々、愛人様と幸せになりたかったのでしょう? だからちょうどいいじゃないですか。元に戻ったと思えば、なんでもないですよね」
「いや、だからそれは……」
「愛さえあれば何もいらないんじゃないですか? 少なくとも私ではなく愛人様に、甘い言葉を囁いてきたのですから。口に出した言葉は戻らないのですよ」
ああ、ホントに嫌な人。
あれだけマリアンヌを愛してると言いながら、自分にマリエッタを縛り付けながら、それでもお金が大事なのね。
今回のことで、マリアンヌにはある程度のお金を渡してある。
彼女がこの先、苦労することなど目に見えていたから。
そして困った時に宝石などの換金方法とか、この三年で彼女に平民としての生きる術は教えて来た。
彼女が望む幸せは、決して簡単なものではないから。
でもその望んだ先で彼と本当の意味で二人になって、それでも愛想を尽かしたのならば捨ててしまえばいい。
そう教えてもある。
だけど、本当にクズすぎるのよね。
二人で平民になったところで、この人が変わるとは到底思えないのだけど。
でもそこにしか愛を見つけれなかったマリアンヌの望みなのだから、仕方ないわね。
「私はこの先、お二人がどうなろうと知りません。元よりそういう扱いをなさってきた、ご自身を省みることです」
お幸せになんて言葉は贈ってあげない。
だってそんなことを願えるほど、私は寛容ではないから。
うなだれる二人を横目に、私はただ綺麗に挨拶だけすると食堂を出た。
もう一人……そう、父の元へ――
1,567
お気に入りに追加
1,716
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
割り切った婚姻に合意はしたけれど、裏切って良いとは言ってない
すもも
恋愛
私エイファは7歳の時に親に売られた。
戦場に……。
13年の月日を経て、戦争から戻った私をあの人達は嘲笑い、馬鹿にし、追い出した。
もう2度と会うつもりはなかった。
なのに、
私を産ませた男は、結婚の相手だとダニエルを連れてきた。
中性的な美貌、甘い声、夫候補となったダニエルは、スルリと私の心に入り込み、私の家族とも言える大切な人達にも受け入れられた。
お互いを認め合った私達は、結婚へと踏み切ったのだけど……。
「私達はお互い親に疎まれてきました。 私達は理解しあえるはずです。 それでも両親から逃げるために結婚は有効だと私は思うのです。 きっと私達は、お互いの尊厳を守りあう良い夫婦になれますよ」
そこに愛は感じられなかった。
それでも幸せになれると信じていたの……。
彼に裏切られたと知るまでは……。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています


私は『選んだ』
ルーシャオ
恋愛
フィオレ侯爵家次女セラフィーヌは、いつも姉マルグレーテに『選ばさせられていた』。好きなお菓子も、ペットの犬も、ドレスもアクセサリも先に選ぶよう仕向けられ、そして当然のように姉に取られる。姉はそれを「先にいいものを選んで私に持ってきてくれている」と理解し、フィオレ侯爵も咎めることはない。
『選ばされて』姉に譲るセラフィーヌは、結婚相手までも同じように取られてしまう。姉はバルフォリア公爵家へ嫁ぐのに、セラフィーヌは貴族ですらない資産家のクレイトン卿の元へ嫁がされることに。
セラフィーヌはすっかり諦め、クレイトン卿が継承するという子爵領へ先に向かうよう家を追い出されるが、辿り着いた子爵領はすっかり自由で豊かな土地で——?
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる