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011 離婚はこちらから
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帳簿のおかげで、お金の流れは簡単に掴めた。
その多くはほぼ借金に消えていたし、原因は夫であるダミアンが真面目に働かないことが一番の要因ともいえる。
働かないのに飲みに行き、さらにはいろんな女性たちに貢いでいく。
義母は義母であの役者にかなりのお金を貢いでいた。
元より領地の収入もあまり見込めないため、盛大に使えば使うほど借金は増えていく。
その利息だけでも膨大な物であり、私と結婚したことによる持参金があったところで焼け石に水だ。
だた私の計画として、借金が多いのは考え物なのよね。
持参金を分割でしか渡さなかった父の計画に便乗して、まずは月々のお金から借金と使用人たちの給与を払った。
残りが少ないと激怒する二人には『商会の娘と結婚してお金が出来たはずだと、借金取りが押しかけてきた』と返せば、どうしようもなかった。
そこから三年。そう、三年。
マリアンヌと裏で手を組みつつ、ダミアンの外での女遊びを封じ、あの役者に他の大物貴族夫人を紹介することでなんとか借金だけは綺麗になくなった。
「長いようで、あっという間だったのかしらね」
「結構長かったと思いますよ?」
「あなたにもいろいろ迷惑をかけたわ、マリア」
マリアが私の部屋のカーテンを開けた。
外から柔らかな朝日が差し込んでくる。
この三年間、侍女たちだけではなく商会に送り込んだ者たちもよく働いてくれた。
今日で結婚三年目。
ああ、こういうのを世間では記念日と言うんだっけ。
「最高の結婚記念日になりそうね」
「ふふふ。それ、本当に結婚記念日なのですか?」
確かに、と思いつつ私は真新しいドレスに着替え、総仕上げを始めた。
必要な書類を持ち、あの人たちが待つ食堂へと向かう。
廊下ですれ違う侍女たちも、その顔はこれからのことに期待に満ちていた。
「遅いぞ、アンリエッタ! 食事がすっかり冷めてしまったじゃないか」
「まったく、嫁であるあなたが一番最後などいいご身分ね」
朝から食堂にいた二人は、イライラを隠そうとしてはいなかった。
夫であるダミアンは馴染みの店に、出禁をくらったせいで。
義母はあの役者にが他の金持ち夫人のとこにばかり入り浸っているせいだ。
「そうですね」
「なんだお前のその態度は!」
「なんだと申されましても……ここで一番偉いのは、私ですので当たり前ではないですか?」
義母の横をわざと通り、私は自分の席に着く。
「あなたそのドレスどうしたの!? そんな高いものを許可なく買うなんて!」
「頭でもおかしくなったのかアンリエッタ」
「いえ? 私はいたって普通ですよ」
だってドレスも気づいて欲しくて、わざわざ通ったんだもの。
このドレス高かったのよね~。
節約して頑張っただけあるわ、私。
最後に自慢出来てよかった。
内心ホクホクしつつ、キーキーと叫び倒す二人を見た。
今まで大人しく従うフリをしていた私の行動に、理解が追い付かないようだった。
「この家の主である僕に許可なくこんなことをして許されると思っているのか! 離婚してもいいんだぞ!」
「まったくなんて嫁を貰ったのかしら。冗談じゃないわ、こんな使えない嫁なんて。だから平民など嫌だったのよ」
「躾が必要だな、もっと強い躾が!」
こうも簡単に、思った通りに動いてくれる人たちって楽しいなぁ。
私は全く気にせず、湯気の立つよい香りの紅茶に口を付けた。
しかしその優雅さが、さらに彼らの怒りを買ったようで怒鳴り声は大きくなっていく。
もう少しこの茶番のような劇を楽しみたかったけど、控える侍女たちがソワソワし始めたから可哀想ね。
私は持っていた書類を、テーブルに出した。
「なんだ、これは!」
「知っていました、ダミアン様? 離婚って、こちらからも出来るのですよ?」
私の言葉にダミアンは立ち上がり、その書類を食い入るように見た。
そして驚いた義母がダミアンに近寄る。
二人は穴が開くのではないかと思うほど、その書類を食い入って見ていた。
「はははははは、なんだこれは。なんでこんな勝手なことをしたんだ」
「まぁ、いいではないの。あの持参金はみんなうちのものになって、こんな厄介な嫁をとっとと追い出せるのだから」
「それはそうだが……」
ダミアンの考えは分かる。
私になどなんの未練もないけど、今まだこの男爵家が不安定な状態で商会というコネを手放したくないのよね。
でも、それももう二人にはなんの関係もない心配だって、分かっていないところが滑稽だわ。
「ちょっと待て……この離婚証明書をどこで手に入れたんだ」
「もちろん偽造ではなく、教会にて私たちの白い結婚を証明してもらってきたのですよ」
まぁ、白い結婚であるという証明のためにマリアンヌに協力してもらったんだけど。
あの子の名前をここで出すわけにもいかないからね。
「分かっているのかお前は。ココを出て行ったら、行くあてなどお前にはないんだぞ」
「あはははははは。あ~、やっぱりなーんにも分かっていらっしゃらなかったのですねダミアン様」
「何を笑っているんだお前は! 何が分かっていないと言うんだ!」
私はこみ上げてくる笑いを止めることが出来なかった。
その多くはほぼ借金に消えていたし、原因は夫であるダミアンが真面目に働かないことが一番の要因ともいえる。
働かないのに飲みに行き、さらにはいろんな女性たちに貢いでいく。
義母は義母であの役者にかなりのお金を貢いでいた。
元より領地の収入もあまり見込めないため、盛大に使えば使うほど借金は増えていく。
その利息だけでも膨大な物であり、私と結婚したことによる持参金があったところで焼け石に水だ。
だた私の計画として、借金が多いのは考え物なのよね。
持参金を分割でしか渡さなかった父の計画に便乗して、まずは月々のお金から借金と使用人たちの給与を払った。
残りが少ないと激怒する二人には『商会の娘と結婚してお金が出来たはずだと、借金取りが押しかけてきた』と返せば、どうしようもなかった。
そこから三年。そう、三年。
マリアンヌと裏で手を組みつつ、ダミアンの外での女遊びを封じ、あの役者に他の大物貴族夫人を紹介することでなんとか借金だけは綺麗になくなった。
「長いようで、あっという間だったのかしらね」
「結構長かったと思いますよ?」
「あなたにもいろいろ迷惑をかけたわ、マリア」
マリアが私の部屋のカーテンを開けた。
外から柔らかな朝日が差し込んでくる。
この三年間、侍女たちだけではなく商会に送り込んだ者たちもよく働いてくれた。
今日で結婚三年目。
ああ、こういうのを世間では記念日と言うんだっけ。
「最高の結婚記念日になりそうね」
「ふふふ。それ、本当に結婚記念日なのですか?」
確かに、と思いつつ私は真新しいドレスに着替え、総仕上げを始めた。
必要な書類を持ち、あの人たちが待つ食堂へと向かう。
廊下ですれ違う侍女たちも、その顔はこれからのことに期待に満ちていた。
「遅いぞ、アンリエッタ! 食事がすっかり冷めてしまったじゃないか」
「まったく、嫁であるあなたが一番最後などいいご身分ね」
朝から食堂にいた二人は、イライラを隠そうとしてはいなかった。
夫であるダミアンは馴染みの店に、出禁をくらったせいで。
義母はあの役者にが他の金持ち夫人のとこにばかり入り浸っているせいだ。
「そうですね」
「なんだお前のその態度は!」
「なんだと申されましても……ここで一番偉いのは、私ですので当たり前ではないですか?」
義母の横をわざと通り、私は自分の席に着く。
「あなたそのドレスどうしたの!? そんな高いものを許可なく買うなんて!」
「頭でもおかしくなったのかアンリエッタ」
「いえ? 私はいたって普通ですよ」
だってドレスも気づいて欲しくて、わざわざ通ったんだもの。
このドレス高かったのよね~。
節約して頑張っただけあるわ、私。
最後に自慢出来てよかった。
内心ホクホクしつつ、キーキーと叫び倒す二人を見た。
今まで大人しく従うフリをしていた私の行動に、理解が追い付かないようだった。
「この家の主である僕に許可なくこんなことをして許されると思っているのか! 離婚してもいいんだぞ!」
「まったくなんて嫁を貰ったのかしら。冗談じゃないわ、こんな使えない嫁なんて。だから平民など嫌だったのよ」
「躾が必要だな、もっと強い躾が!」
こうも簡単に、思った通りに動いてくれる人たちって楽しいなぁ。
私は全く気にせず、湯気の立つよい香りの紅茶に口を付けた。
しかしその優雅さが、さらに彼らの怒りを買ったようで怒鳴り声は大きくなっていく。
もう少しこの茶番のような劇を楽しみたかったけど、控える侍女たちがソワソワし始めたから可哀想ね。
私は持っていた書類を、テーブルに出した。
「なんだ、これは!」
「知っていました、ダミアン様? 離婚って、こちらからも出来るのですよ?」
私の言葉にダミアンは立ち上がり、その書類を食い入るように見た。
そして驚いた義母がダミアンに近寄る。
二人は穴が開くのではないかと思うほど、その書類を食い入って見ていた。
「はははははは、なんだこれは。なんでこんな勝手なことをしたんだ」
「まぁ、いいではないの。あの持参金はみんなうちのものになって、こんな厄介な嫁をとっとと追い出せるのだから」
「それはそうだが……」
ダミアンの考えは分かる。
私になどなんの未練もないけど、今まだこの男爵家が不安定な状態で商会というコネを手放したくないのよね。
でも、それももう二人にはなんの関係もない心配だって、分かっていないところが滑稽だわ。
「ちょっと待て……この離婚証明書をどこで手に入れたんだ」
「もちろん偽造ではなく、教会にて私たちの白い結婚を証明してもらってきたのですよ」
まぁ、白い結婚であるという証明のためにマリアンヌに協力してもらったんだけど。
あの子の名前をここで出すわけにもいかないからね。
「分かっているのかお前は。ココを出て行ったら、行くあてなどお前にはないんだぞ」
「あはははははは。あ~、やっぱりなーんにも分かっていらっしゃらなかったのですねダミアン様」
「何を笑っているんだお前は! 何が分かっていないと言うんだ!」
私はこみ上げてくる笑いを止めることが出来なかった。
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