10 / 10
010
しおりを挟む
「次期王妃に、というのはどうだろか?」
「は? え? えええ?」
今ガルシア様はなんとおっしゃったのかしら。
王妃、王妃ってあれよね。国王陛下になる方の妻にということよね。
えっと、今の王太子殿下はガルシア様なのだから、その妻に? 私が?
「な、なななん、なにを急に」
「すみません。こんな便乗するような形で。本当はもっと雰囲気とか、場所とか考えるべきでしたね」
「いえ、そういうことではなくって」
「貴女が聖女ではなくなったと言われたので……働きたいと言われたので、思わず言ってしまいました」
ガルシア様はやや顔を赤くさせながら、ガシガシと後頭部を反対の手でかいている。
確かに私は聖女を職業の一つとしか見てはこなかったけど、王妃様っていうのは職業なの?
えええ。もう。絶対になんか違う気がするんだけど。
「前向きに検討してはもらえないだろうか?」
まるで小動物が耳を垂らしたように、しょげているのが見て取れる。
こんなに大きい方なのに、中身はなんだか可愛らしいかもしれないわね。
「でも私なんかが王妃様にだなんて」
「いえ、貴女だからこそです。この国に多大なる貢献をしていただき、かつ国民からも愛される貴女なら」
「でももう、聖女としての力はないのですよ?」
「王妃という立場なら、それも必要ないですし。俺が支えますので大丈夫です」
「……職業・王妃としてなら……」
「今はそれで大丈夫です。絶対に落としてみせますから」
「んんん?」
「あ、いえ。それはこちらの台詞です! 気にしないで下さい」
何やら分からないことがたくさんだけど、このまま神殿で下働きをするのも嫌だし。
これはアリなのかしら。
良く分からないけど、返事をしてしまわないと。
「私でよろしければ、お受けいたします」
「本当ですか! 本当の本当にですか!」
ガルシア様は満面の笑みを浮かべながら、私と繋いだ手をブンブンと上下に振った。
その力強さに驚きながらも、私も思わず笑みがこぼれる。
力がなくなっても、まだ必要とされるところがある。それが何より嬉しいから。
「ガルシア様、私のことはいいのですがエレーネ……妹は……?」
「……聖女エレーネはこの度魔女裁判にかけられることになりました」
「魔女裁判」
「おそらくは死刑は免れないでしょう」
「……そう、ですか」
「彼女は魔物に魂を売ったのです。こればかりは……」
「いえ、いいのです。このまま聖女として人々を苦しめることになるのならば、その方がいいでしょう」
あの子がやったことを考えれば仕方のないこと。
聖女がいなくなってしまうのはきっと痛手だけど、きっと次代の聖女がどこかで生まれるハズ。
いつの時もそうだったから。
だからガルシア様と共に次の聖女を見つけ、正しい道を行けるように導いていけばいいわ。
その先にきっと民の幸せがあるはずだから。
「貴女は本当に優しい人ですね。だからこそ俺は……」
「?」
「い、いえ。なんでもないです! 体調が良くなりましたら、今後の打ち合わせをいたしましょう」
「はいガルシア様」
「で、では失礼します」
手と足が同じになり、まるで糸の付いた人形のようにカクカクとした動きでガルシア様が退出していく。
今後の打ち合わせっていうのは、王妃の仕事って意味よね。
どんなお仕事なのかしら。私に務まるといいのだけれど。
そんな風に考えながら私は、明日からのことを想像してほんの少し明るくなりかけた未来に心が温かくなった。
「は? え? えええ?」
今ガルシア様はなんとおっしゃったのかしら。
王妃、王妃ってあれよね。国王陛下になる方の妻にということよね。
えっと、今の王太子殿下はガルシア様なのだから、その妻に? 私が?
「な、なななん、なにを急に」
「すみません。こんな便乗するような形で。本当はもっと雰囲気とか、場所とか考えるべきでしたね」
「いえ、そういうことではなくって」
「貴女が聖女ではなくなったと言われたので……働きたいと言われたので、思わず言ってしまいました」
ガルシア様はやや顔を赤くさせながら、ガシガシと後頭部を反対の手でかいている。
確かに私は聖女を職業の一つとしか見てはこなかったけど、王妃様っていうのは職業なの?
えええ。もう。絶対になんか違う気がするんだけど。
「前向きに検討してはもらえないだろうか?」
まるで小動物が耳を垂らしたように、しょげているのが見て取れる。
こんなに大きい方なのに、中身はなんだか可愛らしいかもしれないわね。
「でも私なんかが王妃様にだなんて」
「いえ、貴女だからこそです。この国に多大なる貢献をしていただき、かつ国民からも愛される貴女なら」
「でももう、聖女としての力はないのですよ?」
「王妃という立場なら、それも必要ないですし。俺が支えますので大丈夫です」
「……職業・王妃としてなら……」
「今はそれで大丈夫です。絶対に落としてみせますから」
「んんん?」
「あ、いえ。それはこちらの台詞です! 気にしないで下さい」
何やら分からないことがたくさんだけど、このまま神殿で下働きをするのも嫌だし。
これはアリなのかしら。
良く分からないけど、返事をしてしまわないと。
「私でよろしければ、お受けいたします」
「本当ですか! 本当の本当にですか!」
ガルシア様は満面の笑みを浮かべながら、私と繋いだ手をブンブンと上下に振った。
その力強さに驚きながらも、私も思わず笑みがこぼれる。
力がなくなっても、まだ必要とされるところがある。それが何より嬉しいから。
「ガルシア様、私のことはいいのですがエレーネ……妹は……?」
「……聖女エレーネはこの度魔女裁判にかけられることになりました」
「魔女裁判」
「おそらくは死刑は免れないでしょう」
「……そう、ですか」
「彼女は魔物に魂を売ったのです。こればかりは……」
「いえ、いいのです。このまま聖女として人々を苦しめることになるのならば、その方がいいでしょう」
あの子がやったことを考えれば仕方のないこと。
聖女がいなくなってしまうのはきっと痛手だけど、きっと次代の聖女がどこかで生まれるハズ。
いつの時もそうだったから。
だからガルシア様と共に次の聖女を見つけ、正しい道を行けるように導いていけばいいわ。
その先にきっと民の幸せがあるはずだから。
「貴女は本当に優しい人ですね。だからこそ俺は……」
「?」
「い、いえ。なんでもないです! 体調が良くなりましたら、今後の打ち合わせをいたしましょう」
「はいガルシア様」
「で、では失礼します」
手と足が同じになり、まるで糸の付いた人形のようにカクカクとした動きでガルシア様が退出していく。
今後の打ち合わせっていうのは、王妃の仕事って意味よね。
どんなお仕事なのかしら。私に務まるといいのだけれど。
そんな風に考えながら私は、明日からのことを想像してほんの少し明るくなりかけた未来に心が温かくなった。
67
お気に入りに追加
234
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
頭ゆるふわ横恋慕聖女様の行く末は
下菊みこと
恋愛
ご加護は受けてる本物の聖女様なんだけどなぁ…どうしてこうなるのかなぁ…なお話です。
主人公は聖女様ではなく横恋慕された女の子。でも普通に幸せになります。ストレスそんなにかからずさらっと読めるSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄されたから復讐したけど夕焼けが綺麗だから帰ります!!
青空一夏
恋愛
王に婚約破棄されたエラは従姉妹のダイアナが王の隣に寄り添っているのにショックをうけて意識がなくなる。
前世の記憶を取り戻したアフターエラは今までの復讐をサクッとしていく。
ざまぁ、コメディー、転生もの。
聖女の能力で見た予知夢を盗まれましたが、それには大事な続きがあります~幽閉聖女と黒猫~
猫子
恋愛
「王家を欺き、聖女を騙る不届き者め! 貴様との婚約を破棄する!」
聖女リアはアズル王子より、偽者の聖女として婚約破棄を言い渡され、監獄塔へと幽閉されることになってしまう。リアは国難を退けるための予言を出していたのだが、その内容は王子に盗まれ、彼の新しい婚約者である偽聖女が出したものであるとされてしまったのだ。だが、その予言には続きがあり、まだ未完成の状態であった。梯子を外されて大慌てする王子一派を他所に、リアは王国を救うためにできることはないかと監獄塔の中で思案する。
※本作は他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ところどころ《イリーナ》と《エレーネ》の名前が逆になっているのでは?という箇所があり、読んでいて混乱しました。
入れ替わる前のイリーナを「聖女エレーネ様」と呼んでいたり、イリーナの事を「エレーネ」と呼んだ直後に「イリーナ」と呼んでいたり…
月白さま
申し訳ありません。すぐに訂正させていただきます。
よく読み直してみますね。
すごくありがたいご指摘、助かりました(>_<)