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「でも最後にお姉さまに会えて良かったですわ」

「エレーネ?」

「だってその顔。苦痛と悔しさが滲む顔を見ることが出来たんですもの」

「……」

「あはははは。なんていうのかしら。そぅね。こういうのを快感って言うのかもしれないわ」


 こんなの聖女ではない。

 人が。それも、自分の身代わりになった姉が死にかけ、苦しむのを見て喜ぶだなんて。

 こんな子が、この世界の聖女として崇められるだなんて……。

 私にもっと力があれば……。ううん。もっと早くにこの子の憎しみに気づくことが出来ていたら。

 この結果は変えられたかもしれないのに。

 貧しい中、二人で離されまいと手をしっかり握りしめていた妹はもういないのだと、高らかに笑うエレーネを見ていると実感が沸いてきた。

 それでも死にかけたこの体は、自分では自由に動かすことも出来ない。


「案外死なないものなのですねぇ。ここで待っているのも疲れたわ。どうせ騎士たちも来ないし」

「まだ私は……」

「どうせ生命力も、魔力ももうないんですよお姉さま。生きて帰ってもどーしようもないでしょう?」


 エレーネの言う通りだ。生命力はいつかは戻ったとしても、 魔力はもう戻ることはない。

 このまま戻れたとて、私は聖女ではいられない。

 良くて廃棄。悪くて、一生この子の下働きとして使われるわね。

 それならもういっそ、このまま助からない方が幸せなのかもしれない。

 
「さようなら、お姉さま」


 本当にソレで幸せ? ここで諦めて惨めに死んでいくのが、本当に私のシアワセ?

 
「ふざけない……ょ」


 惨めでも何でも、まだ生きていたい。

 こんなことで負けたくない。こんなコが聖女としてこの先、人々を導いていくだなんて。

 
「な、なに!」


 私は残った力を振り絞り、踏まれていなかった反対の手でエレーネの足首を掴んだ。

 そしてありったけの力をその手に込める。

 
「離しなさい! ちょっと、離しなさいよ!」


 時間稼ぎでもいい。騎士様たちがここに来るまで、死んでも離してなんてやるものですか。

 道連れになんて出来なくても無駄なあがきだって分かっていても、諦めたくなかった。


「なんなのよ、この死にぞこないが!」


 頭を押さえつけ、大きな声で私を引きはがそうとエレーネは躍起になる。


「離せ、離せ! まったく、とっとと死ね!」

「何をしてるんだ!」


 大きな声と共に、エレーネが引きはがされた。

 そして大きな手が私の体を抱き起した。


「聖女様、聖女様! 誰か神官を呼んでくるんだ! そしてその者を捕らえておけ!」

「離しなさい、わたしこそが聖女なのよ! なんなの! 触らないで!!」

「魔物に魂を売ったような者が聖女のはずがない! すぐに牢へ入れるんだ!」


 両脇を抱えられ、エレーネが騎士たちに連行されていく。

 ああ、良かった。これでもう、思い残すこともないわね。


「しっかりして下さい、聖女よ。早く神官を!」


 温かなぬくもりを背中に感じながら、私は意識は飲まれていった。
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