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 神の啓示などそんなに都合よく降りるわけもなく、ただ私の祈りは虚しく聖堂に消えていった。

 大神官の話があってから数日、エレーナは案の定熱を出してしまい面会出来なかった。

 やっと許可が下りた時にはもう、明日この王都を出発する予定となっていた。

 もちろんエレーナはこの出発に納得などしていない。

 部屋で泣き続け、具合が悪くなる一方だということで今日やっと面会が許可されたのだ。

 私はエレーナの部屋の前で深呼吸をしてから、入室する。


「エレーナ、大丈夫?」

「イリーナお姉さま!」


 私の顔を見るなり、ベッドから今にも飛び出してくる勢いでエレーナが上体を起こした。

 いつも以上に白く血色の悪い肌。前にあった時よりも少しやつれたようになっている。

 ふわふわと羽根のようなその髪も一つに結われ、ぱさぱさしてしまっていた。


「ああ、すっかりやつれてしまって」


 私はエレーナのベッド横に置かれた椅子に腰かけた。

 そしてエレーナの頬に触れる。

 冷たく、元気の欠片もない顔だ。

 こんなになるほど……嫌なのね。

 私とは違いエレーナは聖女というものに固執していたから、仕方ないわね。


「お姉さま、わたし嫌です! 明日出発などしたくない。怖いんです、お姉さま、お姉さま!」

「エレーナ……今回は私も行くわ。どこまで役に立つかは分からないけど」

「役に立つかとかじゃなくて!」

「でも、私では術を成功させるのは無理よ」


 妹の望みは知っている。

 私に変わってもらいたいことなど。

 
「お姉さま! わたしを見殺しにするのですか」


 私の膝に、エレーナは泣き崩れた。

 どうすればいいのだろうか。

 もっと力があれば、代わってあげられるのに。

 もどかしさと、悔しさが入り混じった感情がぐるぐると胸の中を渦巻く。


「見殺しにだなんて……」

「だってそうではないですか。姉さまの言っていることは綺麗ごとです。自分のことじゃないから、そんな風に言えるのですわ」


 
 力を失う。そう。だけ、なんだけどね。別に死ぬわけではない。

 言うのは簡単だけど、この子にとってはそれ生きることと同じなのね。


「姉さま、姉さま……助けて下さい。わたしを見捨てないで……」

「……エレーナに変装して私が行くわ。でもおそらく術は……。だからね、もし私が失敗したらあとはお願いね」

「姉さま! 姉さま大好きです」


 私の言葉に、さきほどまでの涙が嘘だったかのように大輪の花が咲く。

 こんなことをして大丈夫なワケがない。

 でも可愛い妹の切実な願いを聞き届けないほど、非情にもなれそうになかった。

 髪の色以外はとても似ているから、隠してしまえば見た目だけならなんとかなるけど。

 でもそうね。私が失敗してどうしようもなくなれば、きっとエレーナも諦めてくれるかもしれないわね。

 この子一人にだけ背負わすわけにはいかないもの。私も覚悟を決めるわ。

 エレーナの髪を撫でながら、明日のことをただ考えていた。
  

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